バスタブの下の地獄
バスタブに満ちるピンク色の海、ゴム栓の裏の奈落。
生温い汚水から這い上がっても、柔らかいようでいて歯を立てるには硬過ぎるゴムの天井が立ちはだかる。
筒に封じ込められた高濃度の闇。もがき疲れて溺れるか、少ない酸素が尽きて窒息するか。
そこに彼あるいは彼女を突き落としたのは僕だ。
空飛ぶ小豆のような塊が目に入り、何も考えず手に持っていたシャワーを向けた。
放出される無数の水滴はそれに命中し、空中から空のバスタブへ叩き落とした。
給湯口の銀のカバーの上にしがみ付いた彼あるいは彼女に向けて、僕は執拗に湯を浴びせ続けた。側面に滑り落ちてもまだ踏ん張っている姿を見ても、手を緩めることはなく。
最初の一滴をぶつけた時点で、後戻りはできなくなった。殺戮の意志は届いてしまった。始めたことは完遂しろと、規律を司る天使が手を添えた。
ついに彼あるいは彼女は力尽き、排水口に流されていった。僕は海の下の洞窟を塞いだ。
厚さ二センチのゴム栓の上で僕は偽造された花の香りに浸かる。もう開くことはできない出口から目を離せずに。
彼あるいは彼女は何だったのか。蝿か、蜂か、妖精か、人魂か。僕はなぜ一つの命を地の底へ押しやらなければならなかったのか。僕と彼あるいは彼女の差は何なのか。僕は僕の行いを後悔すべきなのか。
何もかもわからないまま安楽の湯から出ようともしない僕はただ愚かだった。
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