72 太陽、海、そして先生

 祝日を含めて三日連続休み、今日は先生と海に行く日だ。

 そして店長に「今年の夏は海に行く予定です」って言ってあげたら……、涙を流しながら「頑張れ!」って言ってくれた。俺先生と一緒に行くって一言も言ってないのに、店長が勝手に彼女だと誤解したみたいだ。


 でも、俺たちの関係は……やっぱり恋人だよな。


「あかねくん! 海が見える! わぁー! すごい!」

「みなみさん、テンション高いですね」

「海! ずっと行ってみたかったよ! あかねくんと、二人っきりでね!」

「はい。俺もみなみさんと海に行きたかったんです!」

「へへっ♡」


 ……


 知らないうちに、先生とけっこう遠いところまで来てしまった……。

 そして予約した宿に入る。


「うわぁ……。み、みなみさん! こ、この宿めっちゃ高そうに見えますけど?」

「大丈夫! 私は大人だからね!」


 俺たちは同じ客室を使う、それは当たり前のことだった。

 すごい雰囲気の和室、そして窓を開けると見渡す限りの水平線が見えてくる。

 その景色は……、生まれて初めてだった。すごく綺麗…………。


「なんか、すみません……」

「いいよ! お金のことなら気にしなくてもいい! それより、私といい思い出をたくさん作ってほしい! そうしてくれるよね?」

「は、はい!」


 てか、俺にはよく分からないけど……、なぜテラスに風呂があるんだろう……?

 まさか、先生とここに入ったりしないよな。


「…………」


 ちらっと、先生の方を見た。


「…………えへへっ♡」


 なんか、変なことを考えてるような気がする……。


「海に行こう! あかねくん!」

「は、はい!」

「あっ! そうだ。あかねくんは私が買ってあげた水着を着てね!! 他の服はダーメ!」

「えっ? なんでですか?」

「せっかく買ってあげたから、それくらいいいじゃん!」

「そ、それもそうですね……」


 これ……試着室で着た時も恥ずかしかったけど、今もどっかに隠れたいほど恥ずかしい。先生の前で半裸になるなんて、そして先生も……その露出度の高い水着はよくないと思う。いけない。先生の方を見ただけなのに顔が熱くなって……、すごく恥ずかしい……。


 先生めっちゃ綺麗……、似合うその水着。


「似合うね〜」

「み、みなみさんも……」

「あー! あかねくん、耳真っ赤!」

「し、仕方ないですよ! みなみさんの格好が……、その……」

「私の水着姿を見るのが恥ずかしいの?」

「は、はい……」

「ふふっ♡ 可愛いね〜。本当に!」


 先生、なんか変なスイッチが入ったような気がする。


「天気いいね〜! 今日は」

「はい」


 潮風が吹いてきて、涼しい。

 そして、俺に抱きつく先生の体は温かった。


「恥ずかしいから、離れてくださいよ……。お願いします……」

「へえ……、もう慣れたと思ったのにぃ〜」

「まだまだです……」

「じゃあ、早く慣れないと〜♡」

「それ以上くっつくのは禁止です! きんしぃ!!!」

「ええ〜」

「行きましょう!」

「うん!」


 ……


 なんか、静かでいい場所だ。

 人が少ないからか……、ここならゆっくりできそう。そんな気がした。


「あかねくーん!」

「はいはい。走ると転びますよ! みなみさん……!」

「ええ〜。子供じゃあるぁ———っ!」


 あ、砂浜で転んだ……。


「うう……」

「だから、走ると転びますって」

「えへへっ、ごめんね」


 本当に、子供じゃあるまいし。

 でも、先生があんな風に走るのは初めて見た。ずっと誰かと一緒に海に行きたかったんだろう。その気持ち俺も分かるから……、先生とゆっくり砂浜を歩いていた。そして、さりげなく手を繋ぐのも当たり前のことだった。


 波の音が聞こえる海、その海を背にして俺と目を合わせる先生。

 彼女は笑みを浮かべていた。


「テンション上がる!」

「そうですね」

「あっ、そうだ。日焼け止め! 塗ってくれない? うっかりしたよ!」

「俺が……、みなみさんに?」

「そうだよ! ドキドキするよね?」

「本当に……、俺がやらないといけないことですか? それ……」

「だって、一人じゃ無理だから〜」

「はいはい」


 ビーチパラソルの下、俺は先生の背中に日焼け止めを塗っていた。

 てか、俺……今まで先生の肌を触ったことないのに、今さりげなく先生の肌を触ってる……! いいのか、本当にこのままでいいのか? すごく緊張してて、指先が震えていた。


 そして、顔が真っ赤になる。


「…………っ♡」

「み、みなみさん! 変な声出さないでください!」

「だって……、あかねくんのおっきい手が私の……体を……。そのぉ……、めちゃくちゃに———」

「んなことやってませんよ!」

「これ……、ちょっと恥ずかしいかも」

「やっと分かりましたか……」

「うん……」


 普通ならこっちを見て話すけど、今は両手で顔を隠し、そのまま俺と話している。

 ちらっと先生の方を見た時、先生の耳が真っ赤になっていた。やっぱり、恥ずかしかったんだ……。なんか可愛いな。自分から言っておいて、すごく照れてる。


「う、海に入りたい! 私、海に入りたい!」

「はい。行きましょう。みなみさん」

「うん! 行こう! あかねくん!」


 俺の手首を掴んで海に連れていく先生、俺はその後ろ姿を見つめながら「いいな」と思っていた。

 本当にいいなと———。


 今、先生のそばにいるのは俺だから……。

 だから……。


「あかねくん! 海、涼しくて気持ちいいよ!」

「はい!」


 どんどん、先生のことが好きになってしまう。

 本当に、このままでいいのか? 


「わーい!」

「声が高いです!」

「気持ちいい!!」

「…………」


 あ、海も先生も……めっちゃ綺麗だな。

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