71 気になること②

「ううん…………」

「へえ、今日はハンバーグですね……! 旨そう!」

「…………」

「どうしましたか? みなみさん……」


 私は……、なぜあかねくんのことを疑ってるのかな……。

 そして今私が悩んでいることを話したら、きっとあかねくんに嫌われると思う。さりげなく「誰と連絡してるのか気になる。だから、スマホ見せて」って、そんなこと言えるわけないから……。どうすれば心のモヤモヤが消えるのか……、それだけを考えていた。


 でも、気になるのは仕方ないことだから……、無理……。

 私、バカみたい。


「な、なんでもない……。ハンバーグ美味しい?」

「は、はい! すごく旨いです! やっぱりみなみさんの料理はすごい! いつもありがとうございます!」

「へへっ、いっぱい食べて……」

「あれ、どうしました? なんか、いつものみなみさんと違いますね」

「えっ? べ、別に何も……」

「そういえば、今日話したいことがあるって言いましたよね? 話したいことってなんですか?」

「あっ……、後で話すから! 先にお風呂入って!」

「は、はい……」


 あの人のことを忘れないといけないのに、初恋の人だったからそう簡単に忘れられなかった。もうあんな人……どうでもいいのにね。私に電話をかけたのも、周りの女が相手にしてくれないから……、選択肢がなかったからだと思う。ただ、あんなことができる女を探すだけ、それだけ。


 あの人は、一度も私の言うことを聞いてくれなかった。


 ……


「やっぱり、お風呂に入るのはいいことですね……。えっ。なんで、また落ち込んでるんですか!? みなみさん!」

「うん……?」


 話したらきっと嫌われると思って、ずっとそれを抱えていた。

 なんか、心がすごく苦しい……。


「何かあったら話してください」

「話してもいいの……?」

「はい。みなみさん、さっきからずっと悩んでるように見えましたけど……。学校で何かあったんですか?」

「私……、私ね……」


 元カレとあったことをあまり話したくなかったけど、心のモヤモヤを解消するためにはそれを言うしかなかった。もしかして……、私が「海に行こう!」って言ったからかな……? 今まで全然意識してなかったことに、すごく意識してるような気がする。


 昔のことをちょっと思い出しただけで、こうなるなんて……。

 つらい。


「———だから……、ずっとそれが気になって……」

「へえ、そうだったんですか。じゃあ、みなみさんはあの人とあったことで……。俺が普段スマホで何をしてるのか、それが気になるってことですよね?」


 こくりこくりと頷く。


「ううん……。確かに、そんなことがあったら気になるかもしれませんね。でも、俺はみなみさんが心配してるようなことはしてません」

「うん……」

「気になるなら、スマホの中……見ます? 好きなだけ見てください」

「いいの……? 気持ち悪いとか……、言わないの?」

「えっ? 俺がみなみさんに?」

「うん……」

「ええ、そんなこと言うわけないじゃないですか」

「…………ごめんね。わがままで……」

「いいえ……」


 そして、あかねくんはロックを解除したスマホを私に渡してくれた。

 そこにはバイト先の店長とあかねくんのお母さん、そしてみお。三人と話していたチャットルームが残っていた。それ以外は何もない、本当に何もなかった。あかねくんとラ〇ンをする人……、あの三人を除いたら私しかいない。私が心配してるようなこと、何もしていなかった。


 本当に私しかいないんだ……。

 あの人と全然違うじゃん……。恥ずかしい。


「…………」

「ねえ、アルバム見ていい?」

「アルバムですか……」

「ダメ?」

「ダメっていうより……、ちょっと恥ずかしいっていうか……。一応、大丈夫です」

「じゃあ、ちょっとだけ……」


 あの人のアルバムには変な写真たくさんあったから…………。


「うん?」

「…………」


 何……? 猫ばっかりじゃん……。

 約300枚の写真があったけど、全部猫の写真でびっくりした。


「……猫ばかり」

「あっ、はい。趣味っていうか……、たまに猫の写真が撮りたくなって。道端でよく止まります」

「猫好きなの?」

「はい。好きです!」

「へえ……、私全然知らなかったぁ」

「俺のこと、あまり話さないから……仕方ないですね」


 やっぱり、私がバカだった。


「…………」


 持っていたスマホを下ろして、すぐあかねくんを抱きしめた。

 馬鹿馬鹿しいことを考えてて、すごく恥ずかしい。あかねくんがあんなことをするわけないのに、どうして私は……あかねくんを疑ったのかな……? ずっとラ〇ンをしてたから……? でも、家族とバイト先の店長だけだったし。


「ねえ、あかねくん」

「はい?」

「最近……、よくスマホをいじってたからね……。あかねくんに他の女ができたのかなと思って……誤解した。ごめんね」

「ああ……、それはみおとラ〇ンをしただけですよ」

「みお……?」

「はい。今はみおがお母さんの看病をしてますから……。お母さんの体調も心配になるし、いろいろ聞きたいこともあって」

「そうだったんだ……。ごめんね、変な誤解をして。その……、あかねくんのお母さんは……元気?」

「はい。元気って言われました」

「うん……」


 すごく恥ずかしくて、あかねくんを抱きしめたまま話していた。

 目を合わせられない……。


「てか、みなみさん……寂しがり屋ですね」

「そ、そうだよ! 私、あかねくんがいないと……すぐ寂しくなるから……。もっと私のことを大切にして」

「はい……。すみません。俺、今みたいに……心配させたくなかったから。だから、ずっと言えなかったかもしれません」

「ご、ごめんね……」

「大丈夫です」

「あかねくんは優しい……、すっごく優しい。だから、好き」

「…………みなみさんは甘えん坊ですね」

「そうかも……。好き」


 あかねくんに拾われて本当によかった……。

 幸せ。

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