59 のあのこと④

 今いるグループから抜けて、私は一人ぼっちになった。

 それと同時に今まで築き上げたすべての関係が水の泡になってしまう。私は当たり前だと思っていた。どうせ、あの人たちは私のことを本当の友達だと思っていないから、そんなくだらない関係なら私もいらない。


 バカのくせにいつも遊びまくって、いつも男や女の話ばかりだったから。

 もうあんな人たち気にしたくない、あかねくんだけで十分だよ……。


「あかねくーん」

「お、おう。委員長、どうした?」

「宿題、今日までだよ?」

「…………い、今やってるから! ちょっと待ってくれ!」

「ふーん。昨日忙しかったの……?」

「うん。いろいろ……」

「それもいいけど、宿題は忘れないようにね」

「はいはい……」


 なんか可愛い、あかねくんと話す時はいつもそんなことばっかり考えてしまう。

 二人っきりのこの時間がすごく楽しい。


「ねえ、のあがクラスの陰キャと仲良くしてるけど……」

「ええ……、誰? 同じクラスなのに、私名前知らない……」

「あんな人が好きだったんだ……。ダッサ! あははっ」

「それはひど〜い! あはははっ」


 少しずつ、私の知らないところで彼らのいじめが始まっていた。

 よく分からないけど……、私に振られた人が私のことをまだ憎んでるらしい。でもね、私に腹いせをしても何も変わらないって知ってるはずなのに、どうしてあんな風に陰口を言うのかな。私も……、もうあんな人たちと関わりたくなかった。


 だから、ずっと無視してきたのに……。何も変わらない。

 それが学校生活。


 そして、その結果がこれ。


「…………」

「次は体育だよね?」

「うん。早く行こう〜」

「行こう行こう〜」


 今教室を出る人たちが、私のジャージーをゴミ箱に入れた。

 唾を吐いて……、そして飲んでいたジュースを注いで……。私はボロ雑巾になった自分のジャージーを見て精一杯我慢していた。大人の目にはただ喧嘩をした子供たちに見えるかもしれないけど、あの子供たちが今どれだけ危険なことをやってるのか全然知らない。


 だから、私があの人たちにちゃんと教える必要があった。


「委員長、行かないの? 体育だけど?」

「あっ、うん……」

「あれ? 着替えないの? そして、さっきからずっとゴミ箱を……」

「……見ないで!」

「…………」


 正直、こんなことまでするとは思わなかった。

 でも、あの人たちが選んだ道だから……。


「これ……」

「うん?」

「ジャージー、俺のだけど……」

「なんで? あかねくんは?」

「ううん……。俺はいいや……、ちょっと大きいかもしれないけど……。着てみ」

「いいの……? 先生に怒られるよ? あかねくん」

「まあ、次はちゃんと注意しますって言うから。気にしないで」

「ごめんね……」


 ずっと我慢していたのに、涙が出そう。


「…………」


 私のせいで、あかねくんが体育先生に怒られた。

 なんで……?

 私たちは何もやってないのに……、どうしていじめられてるのか、本当に分からなかった。でも、あかねくんが私のことを守ってくれて……、心強い。そんなあかねくんがそばにいてくれて、私はすごく嬉しかった。


「調子に乗るなよ〜。のあ〜」

「あははっ」


 廊下で大声を出す男たちが、私の友達だった人とゲラゲラ笑う。


「委員長、先生に話した方がいい……。あいつらやりすぎだ!」

「そうだよね。ねえ、あかねくん……」

「うん?」

「ちょっと、背中を貸してくれない?」


 私は屋上の隅っこで静かに泣くしかなかった。

 今は我慢するしかない、我慢するしかない……。


「…………」

「ごめんね、あかねくん。私のせいで」

「委員長……。先生のところに行こう……、あの人たちがやってるのは犯罪だぞ!」

「…………」


 中学時代のあかねくんは私の味方だった。

 私がグループから抜ける時も私のことを心配してくれたし……、あかねくんはずっと私の力になってくれた。なぜ、私にはこんな人がいなかったのかな……? 心が温かい、すっごく温かい……。


 それがきっかけだった。

 あかねくんのことが好きになったのは、私が落ち込んでる時にいつもそばにいてくれたからだ。あの人たちは私が落ち込んでいてもずっと自分の話ばかりだったから。だから、私にはあかねくんしかいない。あかねくんはたった一人しかいない私の大切な人だから、私を侮辱するのは我慢できるけど、あかねくんまで侮辱するのは絶対許せない。


 水をかけたり、後ろからお尻やブラを触ったり、殴ったりしても、私はずっと我慢していた。

 そしてすべての証拠を集めた後、お兄ちゃんに電話をする。


 当時大学生だったお兄ちゃんにいじめられてるって私が集めた証拠を見せたら、次の日あの人たちがボロ雑巾になって登校した。「ごめん」って何度も同じ言葉を繰り返して、私に許しを請う。あの人たちの顔にはたくさんのあざができて、その中には歩きづらそうに見える人もいた。


「…………」

「委員長、こ、これは……?」

「よく分からない。なんで私にそんなことを言ってるのかな……?」

「…………」


 今までいろんな人たちと仲良くしてきたけど、あかねくんみたいな人は初めてだった。だから、私はあかねくんと一緒にいるのを選んだ。一緒に楽しい学校生活を送りたかったから……、邪魔者をすべて排除し、あかねくんに集中できる状況を作った。


 それから高校生になるまで、私はあかねくんと良い関係を維持していた。

 私の好きな人はあの日からずっとあかねくんだけで……、それは死ぬ時まで変わらない。


 私はそう思った。


 ……


「よっ、帰るのか? のあちゃん。てか、俺の連絡全部無視するなんて……、ひどいな」

「安田……?」


 帰り道、私の前にまたあの安田が現れた。


「話があるからさ」

「私は話したくない、退いて」

「あははっ。くっそ、〇ッチが!」

「うっ———」


 いきなりお腹を殴る安田。

 私は何もできず、そのまま人けのない廊下に倒れてしまった。


「本当に……、面倒臭いな。のあちゃん」

「…………っ」

「ちょっとやりたいことがあるからさ……、のあちゃんと」

「…………」

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