十、騒ぎ
53 視線
萩原と話したことがずっと気になって……、誰にも言えず、その悩みを抱えたまま眠る。それより俺みたいなやつと付き合うなんて、周りにイケてるやつ多いのに、どうして俺なのか分からなかった。でも、俺と先生の写真を撮ったのは犯罪だから、いつも明るくて優しい萩原に失望した。
もちろん、俺がやってることも正しいことじゃないけど……。
「九条くん! おはようございます」
「お、おはようございます……」
「昨日はちゃんと寝れた?」
「二人のせいで全然眠れなかったんですけど……?」
「でも、みおが九条くんのそばで寝てたから……。面白そうに見えたし、羨ましかったし。だから、私も添い寝しちゃった……! へへっ」
「そんなこと真似しなくても……」
「思い出になるから! ふふっ」
「ええ……」
「じゃあ、後でね。授業頑張って!」
「は、はい……」
背中を叩く先生がそのまま職員室に入る。
そして気のせいかもしれないけど、まだ授業始まってないのに廊下に人が少ないような気がした……。いつも壁に寄りかかって話していた人たちも、グループで話していた人たちも今日は見えない。遅刻でもないのに、なんか不思議だな……。
「…………」
あっ、教室に入る前……、首筋を確認しておかないと。
みおのせいでキスマークができて、その後は先生の噛み跡ができたから……、ちゃんと隠さないとまた変なことを言われそうだ。
「これでいいよな……」
そして教室のドアを開ける時、人々の視線が俺に集まるのを感じた。
やっぱりあれか、と俺は萩原のことを思い出す。
まだこのクラスで友達を作ってないから、陰キャの俺がみんなに注目される理由はそれしかないと思っていた。
こっちを見てコソコソ話してるけど……、どうやら面倒臭いことが起こるかもしれないな。
多分……。
「あ、あの……。九条くん」
「うん? あ……、確かに……。ごめん、名前覚えてない」
「あっ。同じクラスの上原あゆみ!」
「うん。ありがと。それで……? 俺に用でもあるのか?」
「あの、九条くんってSNSやってる?」
「ごめん。普段はバイトで忙しいからSNSとかやってないけど、どうした?」
「こ、これ……」
上原が見せてくれたのは、先生と俺が同じマンションに入る時の写真。
萩原、本当にそれをSNSにアップロードしたのか……。
だから、教室の雰囲気が悪かったんだ……。これは仕方ないことだと思う。
「こ、これ……。九条くんだよね?」
さて……、上原にはどうやって答えれば……。
「九条く———ん!」
すると、大声とともに同じクラスの山下が教室に入ってきた。
萩原の友達、山下ひまり。
「ど、どうしたんだ……?」
「朝から変な写真を見たけど……? 見て見て!」
「ええ……、上原が見せてくれた写真だな」
「そうなの?」
山下のその一言にクラスのみんなが俺を見ていた。
そんなに気になるのか、俺と先生の関係が……。
でも、バレた時点でもう俺にできることは何もないけど……、みんな俺が答えるのを待っている。
「まさか、星宮先生と付き合ってんの?」
「付き合ってないけど……」
「じゃあ、この写真は何……? こ、これは……どう見ても二人が同じマンションに入る写真だよね?」
「まあ…………」
正直答えるのもあれだし、嘘をつくのもできないし……。
万事休す。
でも、今更先生を傷つけたくないと思うなんて、本当に愚かだな。あの時は二人のためだと思ってたのに……、仕方がないことだと思ってたのに……、自分の考えがどれだけ甘かったのか実感した。
「ねえ、本当なの?」
だとしても、今の俺には何もできない。
ただ、彼らの話に適当に答えるだけ。
「なになになに! 二人はそういう関係だったの?」
「でも、山下が考えてるようなそんな関係じゃないから気にしなくてもいいよ」
「ええ! そうなの? でも、みんな朝から九条くんの話ばっかりだったよ? 美人の星宮先生が学校の陰キャと付き合ってるって」
「うん……。俺はSNSやってないからよく分からないけど、そんなこと気にしない」
でも、適当に答えるだけじゃ足りないのか。
「おーい。あかね」
「うん?」
なんで、安田が俺のことを下の名前で……?
「安田くん! 今朝、SNS見た?」
「うん? あ、確かに星宮先生とあかねがマンションに入る写真だったよな」
「そうそう!」
「俺もなぜ星宮先生があかねと仲がいいのか気になってたからさ。でも、この前に俺は見てしまった」
「うん?」
「偶然見つけて声をかけてみたけど、まさか星宮先生がそこにいるとはな……。くっそ、羨ましくて全然寝れなかった!」
「えっ? 何……? 先生と二人っきりで食事?」
「違う、三人だったからあかねのお姉さんもそこにいたぞ」
何を言うつもりだ……。
「えっ? じゃあ、星宮先生と九条くんは知り合いってこと……?」
「ううん、どうかな。でも、あかねのお姉さんが星宮先生と友達だったから。そうなるよな」
「ええ! なになに! そうなの? 九条くん」
なるほど、そういう方法があったのか。
てか、どうして安田が俺の代わりにそれを説明してるんだろう……。分からない。
「うん。安田の話通り、うちのお姉さんは星宮先生の高校時代の友達だからたまにうちに来る」
「へえ、ここは九条くんのマンションだったのか……。それより一人暮らしなの?」
「うん。ちょっと事情があってさ。そしてこの前にもお姉さんと先生がうちで飲んでたから……」
「へえ、そういう関係だったんだ……。なんだよ! この写真! 何も知らないくせに、教師と高校生の密会ってなんだよ!! 本当に……。誤解してごめんね」
「私も、ごめん……」
「いいよ。ちゃんと説明しなかった俺の方が悪い」
「へへっ……」
多分、これでいいだろう。
「あのさ、あかね」
「うん?」
「授業終わった後、ちょっと話があるけどいいか?」
「分かった。そっち行くから」
「オッケー」
クラスの人たちは安田の証言を受け入れて、事件は一段落した。
でも、俺の住所がバレた以上、先生とうちで会うとは危ないかもしれないな。
「…………」
まさか、本当にそんなことをするとは……。萩原。
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