52 騒がしい夜
「ねえ、あかねもビール飲む?」
「いや……」
「高校生だからいいじゃん!」
「まだ一口も飲んでないのに、もう酔っちゃったのか? みお」
「ええ……、一緒に飲もうよ〜」
「うるさいよ!」
全く、もっとしっかりしてほしいけど、そんなこと期待できない人だから。
このバカみおにはな。
「飲もう! みお」
「うん!」
コンビニから買ってきた缶ビールとおつまみ、今夜は目の前にいる二人がうちに泊まる予定だ。そして相変わらずうざいみおは、先生とあったことを話しながらさりげなく俺にビールを飲ませようとした。一体……、弟のことをなんだと思ってるんだろう。てか、ずいぶん飲んだ気がするけど、まだ平気って言い放つみおと先生だった。
二人の顔はすでに真っ赤になってるけど、本当に大丈夫なのか……?
「の、飲み過ぎだ! みお」
待って、今酔ってないのは俺だけだよな? なんか、危険なことが起こりそう。
みおと一緒にいる時はいつもそうだったから。
「うう———っ! 暑い!」
「はあ? ちょ、ちょっとみお!! 脱ぐなぁ———!」
「えっ? 何もしてないのに、暑いよぉ……」
マジか、この人。
弟の前で服を脱ぐみお。慌てている俺とは違って先生は「肌綺麗だね!」と言いながら微笑む。普段は適当に飲む先生も、友達と一緒に飲んでるからビールが進むってことか。なんか楽しそうに見えるけど……、下着姿のみおにため息が出るのは仕方がないことだった。
馬鹿馬鹿しい。
「はあ……、気持ちいい〜」
「ちょっと……! せめて、シャツでも着ろ!」
「へえ……。みおの下着セクシーだね〜。私も脱ぎたい〜」
「先生も! 何を言ってるんですか! ちょ、ちょっと……!」
「じゃあ、全裸になろう!」
「おう!!」
「はあ?」
ブラウスのボタンを外す先生とそばからパンツを脱ぐみお。
「脱ぐなぁ……! せめて下着でも着ろ! みお。そして先生も! 何をしてるんですかぁ!!」
「ひん……」
「ご、ごめんね……。つい」
俺はどうしてこの人たちを家に入れたんだろう……。
「あかね! はっきり言っておくけどね!」
「ど、どうした? いきなり……」
「私、あかねのことめっちゃ好きだから! 逃げないで!」
「へえ……、みおは九条くんのこと好きだったんだ……」
「先生、すみません。みお、よくこんなことを言うから無視してください」
「ふーん」
そして、後ろから抱きつくみおにビクッとしてしまう。
「み、みお……」
「へへっ、あかね〜」
「どうやら、早く寝かせた方がいいかもしれない……。飲み過ぎ、みお」
「そんなに飲んでなーい!」
みおは年上なのに、なんで酒を飲むとこんな風になるんだろう。
もし、彼氏ができたらこの面倒臭い癖も直るかな……?
そして彼女でもない人にお姫様抱っこだなんて……、誰かこの人と付き合ってくれませんか。弟からのお願いです。
「ううん……」
「…………」
それよりいくら俺の姉だとしても、下着姿のまま寝かせるのはあれだから仕方がなく俺のシャツを着せてあげた。
全く……、もっとしっかりしろよ。みお。
「あかね……、好きぃ……」
「何言ってるんだ……。早く寝ろ!」
「…………」
「なんだ。寝言か……?」
「…………」
てか、この人……とんでもない下着を着てたよな。
これが……その……、勝負下着ってことかな……? 恥ずかしい。なんか、罪悪感を感じる。
「はあ、服まで用意しないといけないのかよぉ……。このバカみお」
「みお、寝てる?」
「は、はい……。みお、酒弱いんだから……」
「そうだね。ちょっと飲んだだけなのに、顔がすぐ真っ赤になって……」
「居間に戻りましょう」
「うん!」
……
やっと、先生と二人っきりになった。
うるさいみおよりは……、先生の方がいいかも。静かでいい。
「ねえ、みおと今日……何をするつもりだったの?」
「どうして、そんなことを聞くんですか……?」
「だって、みおの下着見たでしょ? あんな下着普通は着ないから……、てっきりあんなことやこんなことを……」
「いいえ。みおは普段からあんな感じなので……」
「ふーん」
先生は少し照れていた。
恥ずかしいなら言わなくてもいいのに……、先生もなんか変な誤解をしてるような気がする。まあ、俺とみおの関係を見ると、すぐそんな風に思ってしまうのも無理ではないな。安田も、そして先生も……。
「…………」
静かなこの時間、先生が俺のそばに座る。
「ねえ、私酒臭い?」
「いいえ。いつもと同じ匂いですよ」
「へえ……、私もけっこう飲んだから……。ちょっと気になってて、ふふっ」
「それより、寝ないんですか? 俺は居間に寝床を作るので、みなみさんはみおと一緒に寝た方が……」
「ねえ、あかねくん」
「は、はい……?」
ちょっと、顔が近いんだけど……?
「みおとあんなことしないで……」
「えっ? あ、あの……別に何も」
「キスマークとか、そんなことよくないよ……。あかねくん」
「いや、これは……みおに襲われて……」
「男でしょ? 男ならそんなこと力でどうにかできるじゃん……!」
「はい。すみません……、心配をかけて……」
「私はあかねくんのためにずっと我慢してるのに……、裏切りは良くない! 本当に良くないんだから!」
「は、はい……」
夜の九時半、俺は先生にめっちゃ怒られていた。
そして、拗ねた顔でビールを飲む先生……。
「うう……、羨ましい……」
涙を流す先生がいきなり俺の肩を叩く。
「えっ? な、何がですか? てか、どうして肩を……?」
「だから、男は全部一緒って言われるんだよ!」
「ええ……」
「…………」
「みなみさん……?」
みおのことで大変なのに、先生も……わけ分からないことで怒ってるし……。
俺の人生、このままでいいのか。
「ねえ」
「はい?」
「目、閉じてみない?」
「ど、どうしてですか……?」
「早く……、閉じてよ」
「は、はい……」
持っていたビールをテーブルに置く音……、そしてすぐ前に先生がいるような気がする。
何をする気だろう……。
「じっとしてね」
「は、はい……」
なんか、ビールの匂いがする。近いし、当然か。
「…………」
「え、ええええ……!?」
「…………」
よく分からないけど、先生の唇が首筋に触れたような……。
そしてまた変なことをされるのかと思ったら、すぐ先生に首を噛まれてしまう。
えっ、なぜだ……?
「…………痛っ!」
キスマークのところに、噛み跡を残すみなみ。
「これはお仕置きです……! 次は他の女とあんなことしないように注意してください。あかねくん」
「は、はい……」
「何があっても、あかねくんは私のそばにいて。分かった?」
「……は、はい」
俺の答えを聞いた先生はにっこりと笑っていた。
やっぱり、それを気にしてたんだ……。
「あかねくん、ビール一口飲んでみる?」
「い、いいえ。大丈夫です」
「そう? じゃあ、二十歳になったら私とお酒飲んでくれよね?」
「は、はい……。た、多分……」
「ふふっ」
笑いながら俺の頭を撫でる先生。やっぱり……、先生と距離を置くのはできないのか? 保健室で好きにしろって言ったけど、俺もそれをどうしたらいいのか分からなかった。当時の俺は、それは二人のためだったから仕方がないことだと思っていた。そんなことできるわけないのにな……。
「あかねくんからいい匂いがする」
「そ、そうですか?」
「うん。私の匂い…………」
「確かに……、そうかもしれませんね」
先生から離れたいけど、離れたくない。
本当に、どうしようもないやつだな。俺は。
「…………」
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