51 週末のみお④

 いつもの笑顔だけど、先生の表情から殺意を感じる。


「…………あら、正解だったのかな?」

「…………」

 

 先生は優しい声で聞いてるけど、俺は上手く答えられなかった。

 本当によく分からない。

 今は先生と良い関係を……。いや、今の関係を人たちは「犯罪」って言うかもしれない。年の差もあるし、教師と生徒だから、俺たちの関係は萩原が言った通り世の中に認められない。それくらい俺もちゃんと知っている。


 ちゃんと知ってるけど……。


 でも、どんどん惹かれていく。

 本当によくない、この状況を俺はどうすればいいんだ。


「答えたくないなら、いいよ。ちょっと悲しいけど……」

「は、はい……」

「そんな顔しないで、別に怒ってないから……」

「は、はい」

「うん!」


 さりげなく俺の頭に手を乗せる先生。

 本当に……俺は今のままでいいのか。


「行こうか?」

「は、はい!」


 ……


「ねえ〜。二人ともおそーい!」

「ごめんね。あっちで九条くんが迷ってて」

「ド、ドリンク何にしようかなと……」

「ええ……。私、寂しかったよ! あかね!」

「変なこと言うな!」

「ふふっ」


 それから先生とみおは高校時代の話を始めて、俺はそばからその話を聞いていた。

 二人が高校生だった頃か、多分……あの時の俺は小学生だったかもしれないな。みおは学校が終わった後、すぐ家に帰ってきて俺と時間を過ごしていたから……。そしていつもケーキとかいろいろ買ってきて、二人でテレビを見ながら食べてたよな。その話に、俺も懐かしくなる……。


 そういえば、たまに友達も連れてきたような気がするけど……。

 なぜか覚えていない。


「あかね」

「うん?」

「頬についてるよ。ソース」

「えっ? そう?」

「じっとして……」

「い、いいよ! 自分でやるから!」

「じっとして」

「…………」


 先生の前で何を……、みお……。


「二人は本当に仲がいいね。みお」

「うん! 可愛いじゃん。あかね」

「私もそう思うよ」

「…………えっ、ちょっと……可愛いってなんですかぁ」


 みおに合わせなくてもいいのに、先生もみおと一緒に俺をからかっている。

 全く……。大人二人で高校生一人をからかうなんて、大人気ねぇ。

 てか、この雰囲気はいいと思うけど……、ずっとからかわれてるからちょっとムカつく。みおはさりげなく俺の恥ずかしい過去を話してるし、先生も「へえ、可愛い」とか言ってるし。二人に囲まれて、俺には逃げ道などなかった。


 誰か、助けてくれぇ……。

 恥ずかしすぎて死にそうだ。


「あれ? 九条? 九条だよな?」

「…………ん?」


 外を眺めながらジュースを飲む時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「なんで、安田がここに……?」

「ああ、友達とご飯食べにきたけど……。てか、星宮先生と……! 綺麗なお姉さんまで! なんだ! 九条、お前……本当にそんなことやってたのか?」

「ちょっと、人聞きの悪いことを言うな! 安田!」

「あはははっ。で、どういう関係……? なんだ。めっちゃ眩しいけど?」


 すると、そばで俺の袖を掴むみおが「説明して」って顔をしていた。


「…………」


 でも、みおに話したら俺と先生の関係がバレるよな……。

 まあ、それくらいいいと思うけど……、心に引っかかる。


「ああ、こっちは昨年まで同じクラスだった安田ゆう……」

「へえ、同じ学校? あれ? 待って、さっきこの子……みなみのことを星宮先生って呼んでたよね?」

「うん。そうよ……。私、教師なの」

「ええ! そ、そうだったの? なんで教えてくれなかったの?」

「ええ……、タイミングが……。ふふっ」


 びっくりするみお、そして今度は安田に睨まれてる。

 こいつも「早く説明しろ」って顔をしている。面倒臭いな……、マジで。


「ああ……、うちのお姉さん……」

「お前! こんなに綺麗な女性たちと食事をしてたのかよぉ……!」

「いや、お姉さんの友達が偶然星宮先生だったから……! しかも、約束をしたのは俺じゃなくてみおの方だぞ! なんだ、その顔は……! それより、お前は萩原と付き合ってるんだろ?」

「その話はやめよう……。あははっ」


 あっ。つい……それを口に出してしまった。


「てか、羨ましいな。九条……」

「なんで……?」

「だって、お前……いつも綺麗な人と一緒にいるんだろ?」

「ごめん。言ってることが分からない。俺……三年生になってからずっとぼっちだったけど?」

「初中先生と話してるんだろ……? お前」

「いや、それは……遅刻した時の……」


 やばい、後ろから先生とみおの視線が感じられる。マジかよ。


「あかね。ご飯!」

「あ、うん……」

「じゃあ、学校で」

「お、おう……」


 てか、こんなところで安田と会えるとは……。

 なんで……、こんなタイミングに声をかけるんだよ……。


「全然知らなかったぁ……。あのみなみが教師だなんて……」

「うん。そうだね。私もこうなるとは思わなかったよ」

「不思議。じゃあ、それって……つまり! 学校に行くとあかねに会えるってことだよね?」

「う、うん。でも、私は教師だから……クラスメイトみたいな感じじゃないよ? みお……。その顔、やめて……」

「う、羨ましい…………。私も教師になりたい!」

「無茶言うな……。みお!」

「ええ……。ひど〜い。そうだ! あかね、今日あかねの家に泊まっていい? 土曜日だから問題ないよね?」

「まあ……」


 みお、泊まるつもりだったのか……。

 まあ、構わないけど、昔から寝癖がすごかったからちょっと怖くなる。


「あの……」


 ちらっとあかねの方を見るみなみ。


「みなみ? どうしたの?」

「せっかく、みおと会えたし。私も行っていい……?」

「いいの? じゃあ、行こうよ! 久しぶりのお泊まり会だね! 懐かしい〜」

「そうだね」


 どうして、先生までそんなことを言うんだろう。断りづらいじゃん。


「いいかな? 九条くん……」

「は、はい。構わないです」

「ありがと〜」


 その笑顔……、もう分からなくなってきた。

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