50 週末のみお③
もう春だからマフラーを巻くのもあれだし、首筋に残ってるこれを一体どうすればいいのか分からなかった。てか、全然痛くなかったのに……、どうしてこんなに大きい傷跡ができたんだろう。弱いな、肌って。
「ううん……」
「ひひっ」
ずっと悩んでいる俺と違って、みおはニコニコしていた。
そしてこのまま先生と食事だなんて……、思い出すだけでため息が出る。
それにしても普通に食事をするだけなのに、俺の髪の毛とか……、服とか……、わざわざチェックしてくれる必要あるのか?
パーティーに行く人でもあるまいし……。
「どうしたの? あかね。元気ないね……」
「全部、みおのせいだろ! そしてみおの友達と食事をするのに、こんな恥ずかしいのを見せるなんて……」
なぜか、周りの視線が気になる。
「いいじゃん! そしてみなみはめっちゃ綺麗な人だから、心配になるし……」
「一応……言っとくけどさ。俺……高校生だぞ?」
「うん? それで?」
首を傾げるみお、どうやら俺が言ってることを理解してないみたいだ。
俺とさりげなく手を繋いでるのも、人の目を意識してないからだろう。
まあ、仕方ないか。
「いや、なんでもない……」
「なんか、ワクワクする! こうやってあかねとご飯食べるの久しぶりだから!」
「そうだな……。あのさ、みお」
「うん?」
「手、離してくれない? ちょっと……恥ずかしいから」
「ええ! 久しぶりにデートしてるのに、手くらいいいじゃん!」
「これ、デートだったのか……?」
「当たり前でしょ?」
「好きにしろ……」
もう疲れた。
……
うちからけっこう遠いところにある繁華街のレストラン。
そこで食事をすることになった。
「あっ! 先に来てる!」
そしてみおが言ってた「みなみ」って人は、予想した通り星宮先生だった。
しかし、先生とみおが友達だなんて、なんで俺はすぐ思い出せなかったんだろう。
「みなみ〜。会いたかったぁ〜!」
「うん。私も、そして……弟さん?」
「そうだよ。九条あかね! 高校三年生なの! そしてあかね! こっちは星宮みなみ」
「…………は、初め……まして。く、九条あかねです」
「…………」
「どうした? みなみ?」
「ううん、なんでもない。初めまして、星宮みなみです」
なんだろう……、この状況は……。
てか、みおのせいで、あれがずっと気になる。
そして目の前には先生が座ってるし、目を合わせるとあれが見えるかもしれないからずっと下を向いていた。
「あれ……? あかね、どうしたの? まさか……、照れてるの!?」
「い、いや……。ちょっと、いろいろあってさ」
「あははっ、緊張したのかな?」
その優しい言い方と可愛い笑顔は……、マジで困る。
そしてみおを騙してるような気がして、心に引っかかるし……。どうしよう。
「…………」
実は先生と同棲っぽいことをしていて、毎日先生と歯磨きをして一緒にご飯を食べる関係だったのを……みおには絶対言えないよな。てか、この雰囲気が苦手なのは俺だけか? 目の前にステーキがあるのに、全然食べられない。
空気……、重い。
「あかね、全然食べないじゃん。どうしたの?」
「えっ……?」
「仕方ないね〜。あーん!」
「い、いいよ。ほ、星宮さんが見てるから……!」
「あかね!」
「……わ、分かった」
この意地っ張り……。
「へえ……、二人は仲がいいんだ……」
「そう! 私のたった一人しかいない大切な弟だからね!」
「なんか、面白そう! 私もやってみたい! あーん」
「えっ! みなみも……?!」
「うん! 私、弟いないからね……。なんか、みおのことが羨ましいっていうか。でも、やっぱりダメだよね? こういうの」
「じゃあ、あかねに聞いてみたら? 私はずっとこうやって食べさせたから……、癖になっちゃってね」
「…………」
先生……、何を言ってるんですか……?
そして、みおもそんなことをわざわざ先生の前で言わなくてもいいんだよ……!
ついてきて損した。
「いいの? 九条くん」
「えっ?」
なんだろう、この動物に餌をあげるような感覚は。
「はい。あーん。このハンバーグ美味しいよ?」
「は、はい……」
恥ずかしくて、耳が……。
いや、耳だけじゃない……顔も熱くなってる。
「あはははっ、可愛いね〜」
「…………」
いけない。先生の優しさに、萩原に言ってたあの言葉を思い出してしまう。
下を向いていた理由はみおのせいでもあるけど、やっぱり……萩原と話したことがずっと気になってて、先生に罪悪感を感じていた。
なのに、俺はこんなことを……。
「どう?」
「お、美味しいです……」
「いいね。弟は」
「でしょ〜? あかねがそばにいてくれるから、全然寂しくない! えへへっ」
「うん。そう見える。ふふっ」
「だから、みなみも! 彼氏……。あっ、ごめん……。別れたって言ってたよね。ラ〇ンで……」
バカ。
「ううん、気にしなくてもいい」
せっかく友達同士で話してるし、ちょっとだけ席を外してあげようか……。
「あっ、俺ドリンク持ってくるから……」
「うん!」
……
やっぱり、先生とみおの間でご飯を食べるのはきついな……。
「はあ……、ついてくるんじゃなかった……」
「どうして……? 私はけっこう楽しいのに」
「えっ?」
なんで、みおと話してるはずの先生がここに……?
「どうしてびっくりするの? それより、みおはまだ私たちの関係に気づいてないみたいだね?」
「そ、そうですね……。みなみさんは知ってたんですか? 俺とみおの関係」
「ふふっ、九条みおと九条あかねでしょ? でも、苗字で推測したわけじゃなくて、学生時代に一度みおの家に行ったことあるから……それで分かったの。大きくなったね、あかねくん」
「そうですか?」
「でもね。同じ学校の教師と生徒って言っても構わないけど、どうして言わなかったの?」
「なんか、いろいろあって……。あははっ……」
「そのいろいろって……。もしかして、首筋に残ってるキスマークのことかな?」
まずい、いつの間に? それより、見えたのか……?
その話に緊張しずぎて、言葉が上手く出てこなかった。
「…………っ」
「違う?」
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