49 週末のみお②

 ベッドに押し倒された俺はみおに抗えず、彼女が満足するまでずっとそこでキスをしていた。あの時より激しくて、そして息ができなくて、もうダメだからみおのシャツを掴んでみたけど、指先に力が入らなかった。


 何もできず、やられるしかない俺の立場。

 俺は何も……できなかった。


「……柔らかっ♡」

「みお、約束したことと違うだろ……! やめろ、こういうこと!」

「へえ〜。約束? 私、覚えてなーい」

「…………」


 やっぱり、みおを信じた俺が愚かだった。

 なんで俺はあんな人を部屋に連れてきたんだろう。しかも、口の中にみおの感触が残っている。この人……、俺が自分とキスをしたのを忘れないように、舌のエロい動きでそれをちゃんと覚えさせた。


 それがみおのやり方、その方法でずっと俺をからかっていた。


「充電完了! 気持ちいい!」

「…………」

「何年ぶりかな……? 大学に行ってからあかねとキス全然できなかったから……。私、すっごく寂しかったよ。あかねも私がいなくて寂しかったでしょ? ふふふっ」

「知らねぇよ! 聞くな!」


 くっそ……、油断した。


「ねえ、顔真っ赤になってるけど……? 私とのキス、気持ちよかったでしょ?」

「もうこんなことするな。俺たちは家族だから、家族として———」

「…………」

「…………っ」


 はあ……? 正気かよ! みお……。


「……ちょっ」

「…………」


 ま、また…………?

 まさか、飢えてたのかよ……。てか、大学生の時にいろいろあっただろ……?

 男女グループで旅行とか、家で酒を飲むとか、大学生の時にしかできないことたくさんあったはずなのに。なんで……、なんで……、男に飢えたような顔をして、俺とキスをするんだよ。みお……。


「まだ終わってないから……、目閉じて」

「…………」


 今まで彼氏できたことないはずなのに、どうしてキスが上手いんだ……?

 本当に分からない。


「はあ……」

「ねえ、お姉さんに大声を出すのはよくないよ……? 中学生の時にちゃんと教えてあげたのに……、忘れたの? そして、あの時は———」

「分かった。分かったから、それ以上言うな……」

「じゃあ、大人しくして♡」

「…………うん」


 俺はみおのなんだろう。

 普通に話す時はただの姉弟だけど、俺とこんなことをする時は……「女」の顔をしている。でも、そんなみおに抗えない俺の立場が一番可哀想だった。みおのことは昔から苦手で、なるべく距離を置きたい人だったけど、縁を切ることはできない。みおまでいなくなると、俺に「家族」という存在がなくなるから……そんなことはできなかった。


 矛盾ってことくらい知ってるけど、俺に他の選択肢はない。

 どうしたいって言われても、よく分からない。


「ねえ〜。私、最近ビールばっかり飲んでてね」

「うん」

「昔はいつもあかねのそばで一緒にご飯を食べてたけど、今は一人暮らしだからすっごく寂しいよ……。早く卒業して……」

「なんで? そんなことより、早く彼氏とか作った方がいいんじゃね? 一人は寂しいだろ?」

「ずっと言ってたけど、私は他の男に興味ないからね。あかねがそばにいてくれるだけでいいよ」

「なんだよ……。それ」


 マジで怖い人、さりげなく自分の弟にそんなことを言うのか。


「さっきの顔、めっちゃ可愛かったよ。私、その顔好き。ふふふっ♡」

「弟にそんなこと言うなよ……。好きとか」

「ええ……、好きだから好きって言っただけなのに? ダメ?」

「うん。ダメ」

「ふーん。今の顔は可愛くない」

「…………」

「私にキスされた時は可愛い顔してたけど……、なんか気に入らないね。今の顔は」

「勘弁して……、もう夕飯食べる時間だぞ」

「あっ! そういえば、私ね! 今日友達と食事の約束をしたから!」

「そう? じゃあ、そろそろ準備した方が……」


 なぜか、じっとこっちを見つめるみおだった。


「どうした?」

「あかねも一緒だよ? 食事」

「はあ? なんで俺がみおの友達と三人で食事を……? いやいや、友達とゆっくりしてもいいから……」

「違う、みなみもね。弟さんと会ってみたいな〜って言ったから。じゃあ、連れていくね〜って言っちゃった。へへっ」


 待って、待って、待って……! その相手が先生だったのか、みお。

 どうしたらいいんだ。

 でも、みおはまだ俺と先生の関係を知らないみたいだから、いいかな? よく分からない。


「…………行かないの?」

「…………」


 その目……。

 やっぱり、行くしかないよな。


「じゃあ、そろそろ行こう! もう時間だし」

「今から?」

「そうだよ〜」

「わ、分かった……」


 先生がなぜ「会いたい」って言ったのかは分からない。

 でも、みおが先生と約束をしたから……仕方がないな。


「あっ、そうだ! あかね!」

「うん」


 服を着替える時、部屋に戻ってきたみおが俺の前に立つ。


「どうした?」

「私の友達、みなみはね」

「うん」

「めっちゃ可愛くて美人だから……、ちょっと不安っていうか……」

「何が不安?」

「あかね、みなみに一目惚れするかもしれないから……」


 いや、これは答えづらいな……。


「だから、そっちにいく前にちょっとだけ……魔法をかけようかなと思って」

「はあ……? 魔法? 何?」

「目、閉じて……」

「な、何を……する気だ?」

「早く……!」


 一応みおにそう言われたから目を閉じたけど、なぜか不安になる。

 俺の視界を奪って何をする気だ……?


「…………み、みお?」

「まだだから……、じっとして」

「…………」

「ちょっと……」

「うるさいよぉ……」

「…………」


 えっ? この感触は……? 唇の感触か?

 すごく温かくて、すごく……エロいこの感覚……。よくない、みお……。


「…………はあっ♡」


 耳元から聞こえるみおの喘ぎ声、俺に何をしたのか大体分かってきた。


「…………」


 マジかよぉ———。

 こんなこと……、先生にバレたら殺されるかもしれないぞ。みお……。


「可愛い! これなら安心できるかもね!」

「…………」

「あら、気持ちよかったの? 顔、真っ赤になってる。ふふふっ♡」

「うるさい……」

「可愛い〜。めっちゃ似合う! へへへっ」

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