九、みお
48 週末のみお
今日は久しぶりにあのみおがうちに来る。
ずっと忙しかったけど、先日時間的に余裕ができたから会いに行くってみおから電話が来た。バイトがあったら適当に誤魔化すのに、あいにく今日は店長に事情があって休みになっている。
まあ、たまにはみおとお母さんの話をするのもいいことだと思う。
最近……変なことばっかりだったからな。
「よっ! あかね!」
「うん」
「えっ?」
「なんだよ」
「うんだけ? うんだけなの?!」
「はあ……? そうだけど?」
「悲しい……、久しぶりに会いに来たのに……。こんなに可愛いお姉さんが会いに来たのに……」
「追い出すぞ。みお」
「嫌!」
相変わらず、うるさい人だな……。みお。
てか、顔も可愛いし、料理もできるし、そして頭もいい人だから……早く彼氏とか作ってほしいのに。なんでずっとぼっちで生きてるんだろう。学生時代はいつも男たちと遊ぶイメージだったけど、いつの間にか周りの人たちと距離を置いて北海道の大学に行ってしまった。
長い茶色の髪の毛と男に好かれる猫顔、みおは先生と違う魅力を持っている。
まだ少し足りないけど、大人になったな……。
「ねえ、喧嘩したの?」
「いや、別に……」
「ヤンキーたちと仲良くしたりしないよね? あかねはもうそんなこと……しないよね?」
「気にしなくてもいい、みお」
「へえ……、そうなんだ。じゃあ、安心〜。でも、喧嘩はよくないよ?」
「分かった。てか、今日は何しにきたんだ? わざわざ来なくてもいいのに」
「ねえ、あかね」
「うん?」
「ゴム、持ってる?」
「…………」
やっぱり全然変わってないな……、この人。
弟の家に来て、いきなり何を言ってるんだろう……。
「うるさい。変態!」
「中学生だった時は素直で可愛かったのに、なんで……最近はそんなことばっかり言うのかな? お姉さん、傷つく〜」
「はあ? 弟の家に来て、さりげなくゴム持ってるって……。正気かよ……!」
「でも、あの時は最後までやってないじゃん」
「だから、今やりたいってことか?」
「私たち、血繋がってないから……そんなことをしてもバレないよ?」
「…………」
確かに、お父さんが再婚した時にみおと家族になったから……。
俺たちは血が繋がってない姉弟だ。
そしてお父さんが亡くなった時……、俺のそばにはお母さんとみおがいたけど、ある意味で一人だった。それに今のお母さんはずっと病気で入院してるから、その顔を見たのも多分二年前だった思う。俺はずっと一人だった。
そんな俺にみおは「家族」として「愛」を教えてくれた。
それが正しいか、正しくないかは分からない。
俺は……、それを思い出すだけで眩暈がする。
「もう……あんなことしない。みおも仕事してるから、そこにいい男いるはずだろ? 早く彼氏とか作ってくれ……」
「ええ……、彼氏なんて興味な〜い。そんなことより楽しいことをしよう。二人でできることたくさんあるよね? どう?」
「…………」
その笑顔と、優しそうな言い方。
あの時もこんな風に話していた。
「断る。それより、お母さんはどう?」
「本当に……、あかねはいつもお母さんの心配ばかりだね」
「最近、連絡が全然来ないから言ってるんだよ。お見舞いに行くのがダメだったら、せめてラ〇ンくらいはいいだろ?」
「…………」
「なんで、答えないんだ? 何かあったのか?」
「…………」
なんで、何も言ってくれないんだろう……?
「いや……、ちょっと……あかねのことぎゅっと抱きしめたいな〜と思ってね」
やっぱり、何かあったのか?
中学生の時からそうだったけど、みおの言い方はちょっと変だった。何も言いたくない時はいつもこんな風にスキンシップをしたがる。多分そうやって相手と自分を誤魔化して、何もなかったように笑顔を作りたかったかもしれない。みおは一度も俺に自分のことを話したことないから、推測をするだけだけどな。
「もう騙されないぞ。みお、ちゃんと言ってほしい」
「…………別に言いたくないけど」
「おい……。家族だろ?」
「うん……」
「何があったんだ?」
「お母さん……。いや、やっぱり言えないね。大丈夫大丈夫……」
「…………」
深刻な状態ってことか、なんで……俺には何も言ってくれないんだろう。
俺も家族なのに……。
「あかね」
「うん?」
「私、あかねの部屋に行きたい……」
「寝不足か?」
「…………」
その目……、何かあった時はいつもそうやって俺を見てたよな。みお。
「はあ、分かった。分かった……! ハグだけだぞ? 本当に……それ以上はダメだから……! 約束して」
「約束する」
……
マジ、この状況は苦手だ……。
なんで……、俺がみおと俺の部屋でくっついてるんだろう……。
「はあ……、癒される〜」
「変なこと言うな! てか、早く彼氏とか作れ! なんで、いつも俺にくっつくんだよ! みおは!」
「彼氏を作ることよりあかねの方が好きだから……?」
「弟だぞ?」
「そんなことどうでもいいんだよ」
こんなことはよくないって知っていても、やっぱり難しい。
みおは俺のお姉さんだから、『その問題は自分が背負うべき』だと思ってるかもしれない。その代わりに、俺たちは恋人ごっこをしていた。姉弟なのに、部屋でいやらしいことをしていた……。だから、俺はそんなみおと距離を置きたかったけど、みおの状況を知っている俺にいきなり他人扱いなどできなかった。
その感情は俺もちゃんと知っていたから、みおから目を逸らすのができなかった。
だから、みおは苦手だ。
大学に通っていた時は離れていたから、あまり気にしなかったけどな……。
「癒される〜。弟、最高〜」
「……俺、お見舞いに行きたいから……。次は一緒に行こう」
「それはダーメ。出来ない相談だよ」
「…………」
「ねえ、こっち見て」
「なんっ———? みっ———!」
な、な、なな……何をしてるんだ! みお!
「…………っ」
「じっとして……」
「…………」
ま、まさか?
みおに……キ、キスされたのか……?!
「はあ……♡」
「み、みお……。やめっ……て」
「静かに……」
「…………」
「ふふっ♡」
何も言わず、その場でじっとしていた。
俺は今自分の姉にキスされたのか……。
マジ……か?
「…………」
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