46 喧嘩
二週間が経った。
俺の学校生活は昨年と同じで何も変わってない、変わったのは廊下でイチャイチャしてる安田と委員長だけ。隣クラスだからたまにくっついてる二人が見えるけど、特に気にしない。もう二人のことはどうでもいい。そして三年生になった俺はクラスの中で空気みたいな存在になったから、一人の時間も増えた。
だから、あんなことよりもっと自分に集中したい。
一人で十分だからさ。
「どうしてだよ! 俺のこと好きじゃなかったのか? のあちゃん……!」
「もういいよ……」
「理由くらい教えてくれ!」
俺がそれに慣れていく頃……、二人の間には少しずつ変化が起こっていた。
朝から騒がしいな。
「はあ? 理由? 飽きただけよ。知ってるくせにそんなこと聞かないで」
「おい!」
「や、やめてよ。のあちゃん……。そして、安田くんも!」
「ちょっと! 山下……離してくれ!」
山下が必死で安田のことを止めようとしてるけど、さすがに女の子一人じゃ無理だよな。てか、なんであの二人が喧嘩してるんだろう……。先週までくっついていろいろ話していたはずなのに……、いきなり喧嘩をするからびっくりした。
でも、俺と関係ないことだから……。いっか。
「ねえ! 九条くん! 手伝って!」
はあ……? 周りに人がたくさんいるのに、どうして俺なんだよ……。山下。
「早く!」
「少なくとも、俺は……のあちゃんのこと好きだったぞ!」
「はいはい……。うざいからもうやめて」
「安田。朝から暴れるな!」
「九条……? そうだ、のあちゃん。まさか……、まだ九条のことが好きなのか? だから、俺にそんなことを言ったのか?」
「もう、安田と関係ないんでしょ?」
「おい、いい加減にしろ! そろそろ授業だぞ、安田。そして委員長も!」
「だから、やめてよ……! 二人とも……!」
委員長に近づけないように山下が安田の腕を掴んでるけど……、あいつは不機嫌そうな顔をして拳を握っていた。
まさか……、委員長のことを殴る気か? やばい。
「ちゃんと説明しろ……! なぜだ!」
「今までいろんな女の子と付き合って、飽きたからすぐ別れた人に……。何を言えばいいのか私には分からない。だから、言ったでしょ? 安田と一緒って」
「そんなことで納得できるわけねぇだろ!!」
「おい!」
「俺は……!」
「おい、安っ……!」
やばっ———。
「……っ!」
それはあっという間だった。
拳を振る安田。その時、俺は安田を止めるより……、殴られた方がマシだと思っていた。そうすると、あいつも自分がやらかしたことを自覚するはずだから、痛いのは仕方がない。そして委員長が殴られるのもあれだし、この面倒臭い状況を一秒でも早く終わらせたかった。
「く、九条……」
くっそ、口の中から血の味がする……。
「キャー!」
「あ、あかねくん……?」
「いや、俺は……。九条、ご……ごめん」
「心、すっきりしたのか? 安田」
「…………俺は」
「いい。なぜ、俺の名前が出たのかは分からないけど、もう騒ぎを起こすな。そして見る目が多い……」
「…………」
「九条くん! ハ、ハンカチ! 貸してあげるから!」
「いいよ。汚れるから……。それより……、悪いけど、廊下に血が落ちてさ。それだけ拭いてくれない? 先生にバレるかもしれないから……」
「あっ、うん……」
これで授業サボってもいいよな。
てか、あの二人……別れたのか? そんなにイチャイチャしてたのに……?
「…………」
二人の間に何があったのかは分からないけど、それだけで騒ぐなんて、本当に馬鹿馬鹿しい。
……
「喧嘩でもしたの? 九条くん」
「いいえ。階段で……転びました」
「顔だけ?」
「は、はい……」
「ふーん」
そんな目で見ないでください……。俺にも事情ってことがあるんですよぉ……。
「でも、言いたくないことなら私も聞き出すつもりはないから」
「は、はい……」
「とはいえ、私も先生だからはっきり言っておく! 喧嘩はダメだよ?」
「あっ、バレましたか?」
「見れば分かる……」
中山先生と話したのは今日が初めてだった。
なんか、落ち着いてる……。
てか、こんないい天気に保健室のベッドでゆっくりするなんて……。
「さて、荷物取りに行ってくるから……。ゆっくりして」
「は、はい!」
一人の時間、ぼーっと天井を見つめていた。
やることもないし、考えることもないし、ただ……ぼーっとするだけ。でも、いきなり先生と夕飯食べたいなと……先生のことを思い出した。最近は二人っきりで夕飯を食べる時間が楽しい、なぜだろう。よく分からないけど……、その時間がとても好きだった。
俺にとって……先生はなんだろう?
「……ん?」
すると、委員長からラ〇ンがくる。
『保健室?』
あれがあってから、二人の間にどんな連絡もなかった。
連絡先も削除し、他人になった。
だから、委員長に返事したくない。
「なんで、返事しないの? そこにいるんでしょ?」
「うわっ。び、びっくりした。なんだ……? もう休み時間?」
「そんなことはどうでもいい。どうしてそんなことしたの……?」
「別に、山下が可哀想に見えただけだから……。気にしなくてもいい」
「痛くないの? 殴られたじゃん」
「気にしなくてもいい……。萩原……、教室に戻って」
「私は……! 心配になるから! ちゃんと答えてよ!」
カーテンの向こうで、声を上げる委員長だった。
俺のこと、ずっと無視してきたはずなのに……。
どうして「心配になる」って言うんだろう……。委員長には悪いけど、俺……こういうのも苦手だ。やっぱり、あの時からずっとぼっちだった方が良かったかもしれない。そうだったら、こんなことも起こらなかったはずだ。
「…………」
もう……昔のことはどうでもいい。
今がもっと大事だからさ。
「萩原……、俺はいい。いいから、教室に戻って安田と仲直りしてくれ……」
「別れたからもう話したくない」
「…………そっか」
俺と目を合わせる委員長、まだ言いたいことが残ってるのか……?
その表情を見ると、すぐ分かる。
「私、知ってるから……」
「…………」
そしてベッドに座る委員長が俺の前で涙を流していた。
「知ってるから……!」
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