45 孤立
春、桜が舞い落ちる美しい季節がやってきた。
そして三年生になった俺は委員長と別れて、全然知らないクラスメイトたちと新しい一年を過ごす。
「…………」
賑やかな教室の中……、俺以外の人たちはみんな友達と話しながらゲラゲラ笑っていた。二年生の時は委員長と同じクラスだったからあまり気にしなかったけど、これは確実にぼっちだな……。ぼっちになったな。でも、高校最後の一年だから……、頑張って無事卒業しよう。
「…………」
当たり前のことだけど、賑やかなところが嫌だった俺は……すぐ教室から逃げてしまった。
すると、廊下で歩いている安田と委員長に気づく。
「よっ! 九条! 新しい友達はできた?」
「全然」
「そっか……! 頑張れ!」
委員長の腰に手を回す安田、もう視覚情報で100%だったからあえてそれを口にする必要はなさそうだ。
二人とも付き合ってるんだ……。よかったな。
「あっ、そうだ! 九条、俺たち付き合ってる」
「そっか、おめでと。お似合いだよ。二人とも」
「いいやつだぞ。九条は……、だよな? のあちゃん」
「うん……」
「元気ないな……。じゃあ、先に行くから」
「うん」
喧嘩とかしてないのに、なぜか謝らないといけないようなこの感覚。
本当に嫌だった。
「九条くん、そこで何をしてますか……?」
「せ、先生……? なんですか? その荷物は」
「あの……、もし手が空いたら手伝ってくれませんか……?」
「は、はい!」
後ろから聞こえる声に、二人をチラッと見るのあだった。
……
昨年もこうやって先生と荷物を運んでたよな……。
なんか懐かしくなる。
「ねえ、あかねくん」
「はい」
「もし、私が高校生だったら……さっきのカップルみたいに手を繋いで歩いていたかもしれない。もちろん、相手はあかねくんだよ?」
「そうですか……? それも悪くないですね」
「うん!」
もし、先生が俺と同じ高校生だったら……。
あの二人みたいにくっついたり、一緒にお昼を食べたりして、薔薇色の高校生活を送ったかもしれない。でも、先生は可愛いから狙う男も多いはずだし、毎日誰かに告られる日常が続きそうだ。
「ドキドキするぅ〜」
それより、先生は俺と何がやりたいんだろう……。
俺が落ち込んでいる時に慰めてくれたのはいいけど、あの日は……初めて先生のそばで寝てしまった。一線を越えたその行為に何も言えず、俺は先生のそばで目が覚める。そして先生は当たり前のように俺を抱きしめて、可愛い寝言を言いながら朝を迎えた。
先生はいつもいいって言ってるけど、俺は少しずつ罪悪感を感じていた。
やってはいけないこと。
でも、前にも……これと似たようなことが……。
「萩原さん、安田と付き合ってるって……。聞いた?」
「さっき安田が言ってくれました」
「そうなんだ。それでも気になるの? 萩原さんのこと」
「いいえ。最初から好きとかじゃなくて、喧嘩をしたような……そんな感覚でした。大丈夫です!」
「えらい、私よりすごいね。あかねくんは」
「そう……ですか?」
こういうのはダメってちゃんと知ってるけど、たまには先生みたいな人と一緒にいたいなと……。俺はそう思った。
俺の人生にはもう先生しか残っていない……。
そんな気がする。
でも、またあの時みたいになるかもしれないから……ちょっと怖いのもある。
いや、ちょっとだけ……じゃないよな。
「ねえ、友達できたの?」
「いつもの通りぼっちです。まあ、三年生ですし……。バイトと勉強だけで十分だと思います……」
「私は?」
「先生のことですか……?」
「バイトと勉強だけなの……?」
「…………」
先生は俺の言葉に執着する。
どうしてそんな風に聞くのかは分からないけど……、先生が話す時はいつも自分だけじゃなくて俺を含めて話していた。
それは、一緒に過ごした時間が長いからか。
「もちろん、先生と一緒です」
「そう。あかねくんは私を離れない。そんな約束だからね〜」
「勉強……、分からないところがあったら聞いてみてもいいですか?」
「うん!」
「ありがとうございます」
「ふふっ」
先生の笑顔が見られるなら、それでいいと思っていた。
なぜか、癒される。
それでも、いけないことだと思っている。
「ちょっと気持ち悪いかもしれませんけど……、俺……先生の笑顔けっこう好きなんです。それだけ、他の意味はないですよ」
「…………あかねくんは私のこと可愛いと思ってるの?」
「ううん……。確かに、可愛いですけど、どっちかって言うと……」
「うん……?」
「美人です。てか、俺……先生に何を……」
「あはははっ。その言葉……、聞き飽きたけど、あかねくんに言われるのは嫌いじゃない。ふふっ」
「そ、そうですか。なんか、急に恥ずかしくなってきて……」
「ふふふっ、可愛いね〜」
高校生になった俺は「なんでも一人でできるようにならないといけない」という強迫観念に囚われていた。お父さんが亡くなった後、お母さんも病気で入院したから、本当につらい時期だったのを覚えている。あの時、あの地獄から俺を救ってくれたのがみおだった。
俺はそのプレッシャーに耐えられなかったけど、間違いを繰り返したくなかったから耐えるしかなかった。
ずっとそうだった……。
「あの時———」
だから、先生の優しさに、また……甘えたくなる自分が嫌い。
それでも、あの日は先生のそばで先生の体を抱きしめていた。
「うん? 何か言ったの?」
「なんでもないです!」
寂しかったのは否定できない、心の底に刻まれた「さびしい」という四文字がずっと俺を苦しめていたから……。いけないことってちゃんと知っていても、それをきちんと守るのができない。俺が先生に抱いているこの感情は……、本当によくないものだった。
「…………本当に?」
「はい! な、なんでもないです!」
変な妄想だ。
人が優しくしてくれたから「好き」になるなんて、そんなこと……できるわけないだろ。
「はい。先生の奢りよ」
「あ、ありがとうございます」
「いつも手伝ってくれてありがと〜」
「…………」
でも、先生はいつも俺に抱きつく。
それはどう説明すればいいんだろう……?
いや、何を……考えてるんだ。あかね。
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