39 友達関係②

「ねえ、今日あかねくんの家に行ってもいい?」


 昼休み、委員長に声をかけられた。


「……バイトがあるから、ダメだな。どうした? 何か話したいことでもある?」

「たまには二人で勉強したいなと思ってね……」

「そっか。ごめん、また今度にしよう」

「う、うん。ほ、本当にバイトだよね?」

「うん。そうだけど……? どうした?」

「ううん。なんでもない」


 なんか、今日の委員長はちょっと変だ。

 自販機の前で話した時もそうだったけど、俺に言いたいことでもあるのかな? あるいは、俺と先生の関係を疑ってたり……。一応さっきの状況を適当に誤魔化したけど、委員長は勘がいい女の子だから俺がもっと注意しないといけない。


 そして、委員長のその顔は……初めて見た。


「よっ! 二人とも! 何してる?」

「安田……」


 委員長の肩を触る安田が笑みを浮かべている。


「あのさ、九条って……。委員長に興味あるのか?」

「……どうして、そんなことを?」

「実は俺、委員長に興味あるからさ〜。他人の女を奪うのは好きじゃないから、聞いてみただけ。それに九条は委員長と仲がいいだろ?」

「仲がいいこととそれとなんの関係があるのかは分からないけど、そんなことなら委員長と話してほしい」

「じゃあ……!」

「安田! あかねくんに何を……?」

「えっ? でもさ、いつまで……我慢する気?」

「安田と関係ないでしょ?」

「分かった分かった。すみませんでした〜」

「あかねくん、ごめんね。安田、最近彼女と別れてフリーだから、女の子たちにしつこく口説いてるらしい……。無視して」

「うん、いいよ」


 まあ、安田のことなら俺より委員長の方がもっと詳しいはず。

 そして、俺もあんなやつとあまり関わりたくないから無視することにした。でも、さっきの話。安田は本気でそれを聞いていたような気がする。それにしても話しながら女の子の肩を触るなんて、そんな人……本当にいたのかよ……。


 イケてるグループの人たちはよく分からない。

 それは委員長も一緒……。


「あのさ、委員長」

「う、うん!」

「どうやら安田……委員長に興味ありそうに見えるから、俺のこと気にしなくてもいいって言ってくれない?」

「どうして、そんなことを言うの……? 私たち……ただの友達なの?」

「委員長と俺は……、ただの友達……だよな? ずっと……友達だったから」

「…………」

「俺……、昔からこういう状況は苦手だったから。委員長がちゃんと言ってくれ、安田に」

「…………」


 そして委員長は何も言わず、そのまま教室を出た。


 ……


 俺……、悪いことでもしたのかな。


「あかねくん? 今日のおかず口に合わないの?」

「い、いいえ。すごく旨いです!」

「じゃあ、なんで食べないの?」

「なんっていうか。ちょっと……気になることがあるっていうか……」

「言ってみ」


 委員長のその反応は……、なんだろう。

 俺に言いたいことがあるならはっきり言ってほしいけど、何も言わずに沈黙すると俺も分からなくなるから……。

 そして、その顔がずっと気になる。


「あの、今日……安田に委員長に興味ある?って言われました」

「ふーん。そうなんだ。それで?」

「どうして俺にそんなことを聞くのか分からなくて委員長と話してほしいって言いましたけど、最後の委員長の顔がちょっと……」

「萩原さんの顔……?」

「はい。安田が委員長に興味ありそうに見えたから、俺のことなら気にしなくてもいいって。そして俺たちはずっと友達だからって言いましたけど……。その後、よく分からない表情をしていて……。どんな意味なのか、俺には分からなくて……」


 すると、そばで頭を撫でてくれる先生。

 彼女は微笑んだ。


「そんなこと、心配しなくてもいいよ。あかねくんにちゃんと言ってあげなかった萩原さんが悪いんだから、気にしなくてもいい。早く食べよう」

「そ、そうですか?」

「確かに、同い年の女の子は難しいかもしれないね。それでも、心に引っかかることがないなら……心配しなくてもいいよ」

「こ、心に引っかかる。あっ、そういえば……みなみさん。学校で二人っきりになるのは危険だから次はもっと注意しましょう」

「あら、誰かに見られたの?」

「まあ……、みなみさんが職員室に戻った後ですけど……。委員長に声かけられて」

「ごめんね……」

「…………」


 本当に委員長のこと、心配しなくてもいいのかな。

 別に、悪いことを言ったわけじゃないし……。

 二人がどんな関係になっても俺と委員長はずっと友達だ……。それ以上の関係になるのは無理だから、さりげなく俺と委員長の間に線を引いてしまった。でも、今まで友達としてともに過ごした時間があるから……、どうしてもその顔を忘れられなかった。


 それだけ……。


「ねえ、こっち見て」

「は、はい……」

「あかねくんは萩原さんのこと好き?」

「よく……、分かりません」

「じゃあ、気にしなくてもいいよ……。今は私に集中して……」

「は、はい……」


 そして、さりげなく俺に抱きつく先生。


「ねえ、あかねくん」

「はい」

「私以外の人……好きにならないで」

「えっ?」

「———って好きな人にそう言われたら、あかねくんはどうする……? 嫌なの?」

「ううん……、そんなことあまり考えたことないんですけど……。でも、好きな人なら……そうするって答えるかもしれませんね……。彼女できたことないからよく分かりませんけど」

「……そうなんだ」

「ちょ、ちょっと……みなみさん力入れすぎぃ……! ど、どうしましたか?」

「な、なんでもない……」


 やっぱり、先生も委員長も俺には難しい……。

 二人ともみおみたいに単純な人だったらいいけど、人それぞれだから仕方ないか。


「今日……めっちゃ頑張って作ったから、全部食べてほしい」

「はいはい……」

「へへっ」

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