七、クラスメイト

38 友達関係

 休み時間、俺は机に突っ伏してずっと悩んでいた。

 この前、先生にチョコレートをもらったから、ホワイトデーのお礼をしなければならない。とはいえ、何がいいんだろう。まだ考える時間はあるけど、バイトとかで忙しくなるはずだから、早くお礼を決めておきたかった。


 でも、俺……今までチョコレートもらったことないからそれを考えたこともないよな。みおにもらったのはただの板チョコだから無視してもいいけど、先生のは手作りチョコだからそうできない。それに「頑張って作った」って言われたから、きっと愛情を込めて作ったはず。これは難しいことだな……。


 いっそ、何が欲しいのか直接聞いてみようか……? それが一番早いと思うけど。


「あかねくん、どこ行くの?」

「えっ? 俺? じ、自販機かな」

「そう? 私、アップルジュース二つ買っちゃったけど、飲む?」

「い、今はいい……。ありがと……」


 委員長に声かけられて、見事に失敗した。


「おっ! 九条と委員長じゃねぇか〜。やっぱり二人とも付き合ってるのか?」

「安田!」

「ごめんごめん。で、二人は本当に仲いいな……。九条さ、好きな人いないのか?」

「俺? ないけど……」

「ええ……? じゃあ、女の子と付き合ったことないの?」

「うん」

「ええええ!!」


 そんなに驚く必要はないと思うけど、彼女を作ったことない人ならクラスにもたくさんいるはずだから……。そして安田みたいにすぐ彼女ができる人はそんなにいねぇからな。陽キャには知らない世界ってことか。でも、最近よく委員長に声をかけるような気がするけど、もしかして……委員長を狙ってるのか? 分からないな……。


 まあ、委員長もあんなやつと付き合うわけないし、いっか。


「九条くん、ちょっといい?」

「星宮先生があかねくんを……?」

「みーちゃん!」

「安田くん、言い方!」

「へへっ、可愛いじゃん〜。みーちゃん」

「全く……。九条くん! 話があるからついてきて」

「は、はい……」


 な、なんだろう……? いきなり……。


「なんか、九条って星宮先生と仲良さそうに見えるけど。委員長、何か知ってる?」

「ううん。私にもよく分からない。でも、よく星宮先生に呼ばれてるから」

「まさか、二人とも! みんなの知らないところでイチャイチャしたり!」

「安田……、変な話はやめて。バッカじゃないの?」

「はははっ。つーか、委員長……いつまで我慢するつもり?」

「…………何の話?」

「俺も委員長にちょっと興味あるからさ、九条のこと……諦めるつもりなら早く諦めてほしい」

「はあ? 知らない! 私、ジュース買いに行くから!」

「えっ! さっき買ってきたんじゃ……」


 ……


 で……、職員室に行くんじゃなかったのか?

 それより自販機でジュースを買うだけなのに、先生の顔から殺意が感じられる。

 なぜだ……?


「これ」

「あ、ありがとうございます……!」

「ふう……」

「ど、どうしましたか? 先生」

「ねえ、一つ聞きたいけど……。あかねくん」

「はい?」

「どうして、遅刻するの……? 私……。毎朝、ちゃんと起こしてから出勤してるはずなのに……。どうして……?」


 確かに毎朝ちゃんと起こしてくれたけど、俺「はい」って答えた後すぐ寝ちゃったから。それは多分……俺を起こす時の声が優しすぎるからだと思う……。毎朝先生の優しい声を聞くと、どんどんダメ人間になっていくような気がする。マジでやばい。


 てか、先生めっちゃ怒ってるはずなのに、なんか可愛い……。


「す、すみません……」

「最近、遅刻増えてるからね。遅刻はダメだよ?」

「はい……」


 持っていた教科書で俺の頭を軽く叩く。


「心配させないでよ。バカ」

「す、すみません……」

「それより、私……なんか話してるのを邪魔した気がするけど……。いいの?」

「気にしなくてもいいです。どうせ、友達いないから……」

「そう……? 寂しくないの?」

「はい。今は……大丈夫です」

「もし何かあったら、すぐ私に話してね。私はなんでも聞いてあげるから!」

「はい。いつもありがとうございます。先生」

「じゃあ、先に戻るから」

「はい」


 結局、遅刻の件で呼ばれたのか……。

 確かに……、増えた気がする。

 でも、先生の声は本当にやばいんだから、むしろ一人ぼっちだった時がよかったかもしれない。耳元で「朝だよ〜」って……、そんな風に起こすのは反則だぞ。やられたことない人には絶対分からないと思うけど、先生のやり方はマジ危険だった……。


 本人は堂々と言ってるけど、俺はそれを思い出すだけで恥ずかしくなる。

 

「あ、あかねくん……!」


 そして、上の階から委員長の声が聞こえた。

 もしかして……、今の話を聞いてたのか……?


「あっ、委員長。どうした?」

「ねえ、星宮先生と何話してたの?」

「ああ……、最近よく遅刻するからさ。先生に一言言われた」

「それだけ……?」

「うん。それだけ」

「あのね……。あかねくんはそんなことしないって、私も知ってるけどね!」

「うん?」

「もしかして……、あかねくんは星宮先生のことを……」

「先生のこと?」

「好きになったり……」


 いきなりそんなことを聞くのか、委員長……。

 どうして……? 分からない。


「うん。先生だぞ……? そんなことできるわけ……ないだろ……」

「そうだよね? ごめん、変なことを聞いて……」

「いいよ。教室に戻ろうか?」

「うん……」


 これはよくない。

 それに委員長……、どうして俺にそんなことを聞くんだろう?

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