35 愛情と友情②

 それから数日間、あかねくんの家で同棲していた。

 私たちはまだ付き合ってないけど、毎朝一緒に歯磨きをして朝ご飯を食べる。そして、仕事から帰ってきた後は当たり前のようにくっつく……。この幸せな日常がずっと続いてるから、私はもっともっとあかねくんのことが欲しくなる。


 私の空っぽの心をあかねくんが満たしてくれたから、すっごく好きだった……。


 あかねくんは嫌なことを言わない。

 あかねくんはすぐ怒らない。

 あかねくんは私の話をちゃんと聞いてくれる。


 そばにいるだけなのに、すっごく幸せでたまらない……。

 早く家に帰って、あかねくんとイチャイチャしたい……。


「はあ……、急に恥ずかしくなったぁ……」


 教師がこんなことを考えるのはよくないと思うけど、これは不可抗力……。


「そう、これは不可抗力だよ……」


 そして、二月。


 そろそろバレンタインデーというイベントが近づいてるけど、私はチョコをあげたことないからどうしたらいいのか分からなかった。元カレに甘いものは嫌いって言われた後……、作るのも期待をするのも諦めたから。バレンタインデーはずっと私と関係ない日だった。でも、今年はあかねくんがいるから、あかねくんにはチョコをあげたくて……自分の席でずっと悩んでいた。


「星宮先生、今年のバレンタインデーは好きな人にチョコあげるんですか?」

「い、いいえ……。まだ。今ちょうどどうしようかなと……悩んでて」

「ふーん。星宮先生の手作りチョコなら、きっと気に入ってくれるはずですよ?」

「そ、そうですか……?」

「はい!」


 中山先生は結婚をしたから……、たまに羨ましくなる。

 家に帰ると可愛い旦那さんが待ってるはずだから……。


 それが羨ましい……。


「ど、どうしましたか? 星宮先生……?」

「い、いいえ! 作ります! チョコ!」

「はい! 星宮先生の恋を応援します!」


 帰り道……、私は〇〇百貨店に来てしまった。


「ううん……」


 あかねくんにチョコをあげないといけないから、その材料と市販のチョコレートを見ていた……。でも、めっちゃ可愛くて、美味しそうに見える。私には絶対作れないレベルの高いチョコレートばかりで……、涙が出そう。


「あれ? みなみ……?」


 市販のチョコレートに心が折れた時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「…………あれ?」

「どうして、ここに? ええ……。久しぶり……」

「みお……? えっ、みおなら……大学を北海道の方に行ってた……」

「そうだよ? 今はこっちに戻ってきて、仕事ばかりやってる! それより、こんなところで高校時代の友達と会えるなんて!! すご〜い!」

「う、うん……。そ、そうだね」


 彼女の名前は九条みお、同じ高校に通っていた高校時代の友達。

 まさか、こんなところで会えるとは……。

 二人とも別の大学に行っちゃって、卒業した後は連絡をしなかったけど……。それでも、私のことを覚えてたんだ。そして、あの時はクラスで一番可愛い女の子だったけど、今はセクシーなイメージでいろいろ変わったような気がする。


 そのスーツもめっちゃ似合う。


「それで、ここで何してたの? あっ! もしかして……、バレンタインデーのチョコ?」

「あっ。う、うん……。そうだけど、私……チョコ上手く作れないから市販のチョコレートにしようと……」

「ダメだよ! 彼氏にあげるチョコだから……! 上手くできなくても、きっと嬉しいって言ってあげるはずだよ?」

「ごめん。みお、私……彼氏いない」

「えっ? じゃあ、好きな人?」

「……うん、そんな感じ……」


 そういえば、私……卒業した後、みんなの連絡先を削除したよね。

 どうせ、普段から連絡しない人たちだから……。


「…………」

「どうした?」


 じっとこっちを見ているみおに少し緊張した。


「ねえ、みなみって何カップ?」

「…………えっ?」

「なんか、高校生の時より成長したな〜と思ってね」

「こ、ここでそんなことを聞くの……?」

「あはははっ。ちなみに! 私はCだよ!」

「聞いてないよ! そんなこと!!」

「ええ〜。恥ずかしいの?」

「う、うるさい……」

「照れてるみなみは可愛いね〜。高校時代に戻りたくなるぅ〜」

「バカ……」

「可愛い〜」


 一応……、手作りチョコの方がいいと思って、市販のチョコを買うのは諦めることにした。でも、味がしないって言われたらどうしよう……。あかねくんは優しいからそんなこと言わないと思うけど、それでも……心配になる。


「ふふっ、好きな人ができたのはいいことだよね」

「うん? みおはいないの? 好きな人……」

「仕事で忙しいし、今は……彼氏を作る暇ないから」


 なぜか、先と違う顔をしていた。


「これ、私の連絡先だよ。みなみ、私の連絡先知らないんでしょ?」

「う、うん……。あ、後で連絡するから」

「うん。あっ、みなみってどこに住んでるの?」

「私は〇〇」

「ええ……、遠い〜。うちと正反対かぁ……」

「また、こうやって話そう! 時間があったらね……」

「うん。そうしよう!」


 そうやって私たちは百貨店の前で別れた。

 そして、今日はチョコの材料もたくさん買っちゃったし……。このままあかねくんの家に帰りたいけど、練習するのをバレたくないからうちに帰ることにした。そういえば、こんなにドキドキするバレンタインデーは初めてだよね。早くチョコを食べるあかねくんが見たい……。きっと可愛いはずだから———。


「ふふっ♡」


 やっぱり、生きていてよかったぁ……。

 すごい偶然だったけど、本当にいい人と出会って……嬉しい。


「あかねくん……。私頑張るから!」


 そばにいないのに、思い出すだけで心がドキドキする。

 これは……。


 あれだよね? あれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る