六、新しい人生の始まり
34 愛情と友情
二人っきりの週末、私たちは当たり前のように同じ部屋で寝ていた。
あれがあってからここが私の居場所って気がする。
「…………」
あかねくんに拾われたあの日、私は救われた。
彼氏に振られて何もできなくなった私に……、あかねくんは希望そのものだったから。頼れる人がいなくなったあの日、私はお酒を飲んで死のうとした。いくらお金を稼いでも、そして豊かな家庭で育てられても、心はずっと貧乏で誰かの「愛情」が欲しくなる……。ずっと一人ぼっちだった。
私には何も残ってない、その状況に耐えられなくて……すごく悲しかった。
「俺こんなことまで言いたくなかったけど、みなみはさ……。どうして俺と付き合ってるのか全然分からない」
「な、なんの話……? わ、私は……好きだから…………!」
「好きかぁ……。まあ、俺もみなみのこと好きだけど……」
「好きなのに、どうしてそんなこと言うの……?」
「でも、みなみは——————だろ?」
いまだに忘れられないその言葉。
そして元カレの顔を思い出すたび、すぐ目が覚めてしまう。
「はあ……、はあ…………。あ、あかねくん……」
時間は朝の五時二十八分、悪い夢に目が覚めてすぐあかねくんを探すのが癖になってしまった。
「どこ……? あかねくんがいない」
私は悪夢に慌てていた。
そして床ですやすやと寝ているあかねくんに気づく。
「…………そ、そこにいたんだ……」
冷たい床じゃなくて私のそばで寝ても構わないのに……、私はこの距離感が嫌だった。もちろん、あかねくんの話も分からないとは言わないけど、それでも二人っきりの時はずっと私のそばにいてほしかった。
私はあかねくんの温もりが欲しい……、そばにいると落ち着く。
でも、高校生にそんなことを頼みたい私もバカみたい。
「……ううん。ひひっ」
それでも、寝ているあかねくんを抱きしめるしかない。
それはエッチなことじゃなくて……、ただ……あかねくんを抱きしめると心が落ち着くから。あかねくんの匂いとその温もりがすっごく気持ちいい、私はずっと離れたくないほどあかねくんのそばにいるのが好きだった。
幼い頃には早く大人になって好きな人と幸せな人生を送りたかったけど、現実はそうじゃなかったから悲しい。
でも、今の私にはあかねくんがいるから。
「ねえ……。私……、やっぱりなんでもない」
今が一番幸せ、私がずっと欲しがっていた幸せがここに———。
……
「うわっ……!」
「…………ど、どうしたの? あかねくん」
「ど、どうして……。先生がここに?」
「あ……! あかねくんが寒そうに見えたから……」
「俺、寒くないから……離れてください……!」
「へへっ」
目が覚めた時、私のそばにはあかねくんがいる。
これがどれだけ幸せなのか、多分……あかねくんは分からないよね。
「早く慣れないと困るよ!」
「な、何がですか?」
「これからもずっとあかねくんにくっつくから……!」
「うっ……。それはよくないことだと思います……!」
「うるさいねぇ……、年下のくせにぃ……。こういう時ははいって答えるんだよ!」
「ええ……、理不尽!」
「ふふっ」
こうやって頬をつねったり、頭を撫でてあげたりしてもあかねくんは怒らない。
きっと面倒臭いはずなのに、あかねくんは元カレみたいに言わない。
そして私が落ち込んでいる時はいつもそばで話を聞いてくれるし……。たまには寂しくなる日もあるけど、それでも普段は私と一緒にいてくれるからすっごく好きだった。
教師が生徒に甘えるなんて……。
「ねえ、あかねくん」
「はい?」
「私、悪夢見た」
「そうですか? だから、朝からくっついてたんだ……」
「うん……。私ね、あかねくんのそばにいると幸せな夢を見るから」
「それはよかったですね」
「ねえ」
「はい?」
「こういう時は、女性の頭を優しく撫でてあげるのが常識だよ?」
「そ、そうですか……?」
「うん」
私も私たちの立場をちゃんと知っている。
それでも……、我慢できないから仕方がない。
「…………これで、いいですか?」
あかねくんは優しく私の頭を撫でてくれた。
あの人と全然違う。
だから、私にはあかねくんしかいない。私のことを大切にしてくれるあかねくんが好きで、ずっとドキドキしている自分の気持ちを隠していた。誰にも……取られたくないよ。やっと見つけたから、私の……物。
萩原さん、ごめんね。
「癒されるぅ———」
「へえ……、こんなことで癒されるんですか? 不思議……」
「女はこういうのが好きだよ。ちゃんと覚えておいて〜」
「は〜い」
「そろそろ、朝ご飯食べようかな? 何が食べたい? 食材たくさん買ってきたからね」
「朝は……みなみさんのみそ汁が……、食べたいです……」
「ふふっ、分かった。そうする!」
元カレと同棲していた時より今がもっとドキドキして、毎日が楽しい。
まだ100%じゃないけど、あかねくん……どんどん私に慣れていくような気がして、それもすっごく嬉しい。いつか、あの人を忘れて……あかねくんと幸せな人生を送りたい。今はそれだけを考えよう、それだけを———。
早く大人になってほしいな〜。
「よっし! 作ろっか!」
「み、みなみさん……」
「うん?」
「いつも言ってることですけど、起きた後はズボンをはいてください」
「ええ……。私、あかねくんに見られても構わないけど?」
「それはダメです!」
「もしかして、ムラムラする〜?」
「先生!!」
「冗談だよ〜」
ふふっ、可愛い。
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