32 新年②
毎年部屋に引きこもって時間を過ごしていた俺に、この場所は少し苦手だった。
そしてさっきからずっと手を繋いでるし……、恥ずかしいな。
もし、俺にも彼女ができたら今みたいに手を繋いであちこち歩き回るかもしれないなと思っていた。女の子とデートしたことないけど、多分……こんなことだろう。委員長も楽しそうに見えるし、いっか。
「…………」
でも、俺には一つ……気になることがある。
それは委員長の家が学校から遠くないところにあること、つまり同じクラスの人に見られるかもしれないってことだった。目立つのは好きじゃないから静かな学校生活を求めていたけど、こんな場所で見られたら……きっと面倒臭い状況になるはずだ。
なるべく、イケてるグループの人たちは避けたい。
「あかねくん、あーん」
「えっ?」
「食べて〜、じゃがバターだよ。体冷えるからあったかいのを食べないと!」
「あっ、ありがと……」
「甘酒もあるよ!」
「うん」
「あったかい〜」
「そうだな……」
相変わらず、委員長に気遣われている。
そして俺にじゃがバターを食べさせた委員長は、さりげなくその箸でおしるこを食べた。
それ……大丈夫なのか、口つけた箸だけど……。
「うん? どうした?」
「ううん……。いや、委員長ってよく食べるなと思って」
「えっ? そ、そんなに食べてないし! か、体が冷えるから仕方ないじゃん! 私ちゃんとダイエットしてるからね!」
「うん。でも、腕も足も細いし……。ダイエットやらなくてもいいんじゃね?」
「…………変態?」
「えっ? なぜ?」
「分からない! あかねくんは変態……!」
「ええ……」
変態になってしまった俺とくすくすと笑う委員長、なんか中学時代みたいだ。
てか、俺いつから委員長とこんな関係になったっけ……。不思議。
一応……俺は人とあまり話さないから、話をかけてくれたのは委員長の方だったと思う。それがきっかけになって、俺に声をかけるようになったかもしれない。委員長はあの時も委員長だったし、クラスの中心人物だったからな……。
明るくていい人だ。
「そろそろ、行こうかな? あかねくん」
「そうしよう」
「あれ……? のあちゃんだ! 隣、誰〜?」
そして、後ろから聞こえる女の子の声に体が固まってしまう。
いや、まさか……同じクラスの来ているなんて……。これはまずい。
「あかねくん? どうしたの?」
「ああっ! 九条くん! えっ? 九条くんと一緒なの? のあちゃん! もしかして……」
「ち、違う……! これは!」
「いいよ。私は分かる」
ニヤニヤしている山下さんと照れてる委員長……、俺は何も言えずその場でじっとしていた。
「おーい。山下〜、探してたぞ」
「あ、安田くん! 探してたのはこっちの方だよ? どこ行ってたの?」
「あははっ、ちょっと……。あれ〜? 委員長と九条じゃん。なんだ……。二人ともまさか、付き合ってんのか? そっか……!」
「でも、のあちゃん意外だね〜」
「ち、違う。私たちはまだ……」
ふと思いついたことだけど、どうしてこの人たちは男女が一緒にいるとすぐその関係を疑うんだろう……。まだ何も言ってないのに、二人は俺たちが付き合ってるようなニュアンスで話していた。陽キャのテンションには敵わないな。でも、俺がはっきり言っておかないと委員長が困るから……。
「いや、俺たちそんな関係じゃないから……」
「え……、そうなの?」
「まあ、九条とあまり話したことないけど……。こいつ、割とカッコいいからな。たまには話しかけてくれ、九条。友達だろ?」
「…………うん」
「というか、私九条くんと話したのは今日が初めてだけど……?」
「えっ? マジ? 山下、九条と話したことねぇのか?」
「うん!」
賑やかなところは慣れてない……、そしてテンション高い二人とちょっと話しただけなのに疲れてしまった。
「あかねくん、大丈夫?」
「あっ、うん」
くすくすと笑う委員長がこっちを見ていた。
……
結局、四人で参拝しに来たけど……。
俺やり方全然分からなくて、そばで委員長が全部教えてくれた。やっぱり委員長はなんでも知っているからすごい……。細かいところまでちゃんと説明してくれるなんて、それに委員長も初めてって言ったけど、やり方はちゃんと知ってたんだ……。あの二人を知ってるし、知らないのは俺だけだったのかよ。
「あはははっ」
「どうした? 安田」
「山下、凶出たぞ」
「ええ……、大丈夫! それはただのおみくじだから」
「なんか、嫌な予感が……」
「ええ……」
三人がおみくじの話をしている間、俺は先生の心配をしていた。
参拝する時からずっとラ〇ンが来てたから、めっちゃ気になる。
「ねえ、あかねくん。今からひまりの家に行くけど、どうする?」
「いや、俺はいい。やるべきことがあるから、山下さんと新年を楽しんでくれ」
「ええ……、行かないの?」
「うん。ごめん……」
「仕方ないね……。じゃあ、学校で……」
「うん」
もっと遊びたかったけど、俺が三人の間にいたら話すだけで一日分のエネルギーが消えてしまう。それに安田と山下は恋愛の話ばっかりだからさ。陰キャの俺には絶対無理だと思う。
「さて……、帰ろうか」
帰り道、バスの中でスマホを確認した俺は、壊れてしまった先生のメンタルをどうしたらいいのかずっと悩んでいた。
ラ〇ンも電話も、たくさん来てるし…………。
「…………」
先生に返事をするのが怖い。
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