31 新年

 目が覚めたのは朝の六時半、寝た気がしないけど、それは仕方がないことだった。

 そして……変な夢を見たから早く目が覚めたのもある。

 今日は一月一日、委員長と初詣に行くって約束をしたから洗面所で出かける準備をしていた。てか、本当に委員長の家で寝たんだ……。


「で……、俺のスマホは? どこに?」


 そういえば、俺……先生のラ〇ンに返事したっけ? いや、してない。

 昨日委員長に絆創膏を貼ってあげたから……、そのままスマホを置きっぱなしにしたのを思い出した。待って、これはまずい。先生のラ〇ンにはちゃんと返事しますって言ってあげたのに、初日から約束を破ってしまったのかよ……俺は。


「…………」


 そして、部屋から出てくる委員長。


「はあ……、あけましておめでとうございます」

「あけおめ、委員長」

「眠い……」

「目を開けてくれ……、委員長」


 てか、これはちょっと……。


 俺が知っている女子は先生と委員長くらいだけど、女子って家にいる時はいつも無防備な姿をしているのか……? まあ、自分の家だからそうなるかもしれないけど、ブラの紐が見えるのはさすがに……困る。委員長は先生と違ってちゃんと部屋着を着てるけど、起きたばっかりの自分の姿に気にしないのは二人とも一緒なのか……。


 全く……。


「委員長、早く準備しないと……」

「ううん……。あ、そうだ。あかねくんのスマホ……充電して置いたからね。私の部屋にある」

「あっ、そうだったのか! ありがと」

「ねえ、一つ聞きたいことあるけど」

「うん?」

「昨日……知らない人からラ〇ンがたくさんきてね。誰……?」


 まさか、先生のラ〇ン……?

 念の為、先生の名前を変えておいたけど、いい選択だったと思う。マジで……。


「いや……、分からない。後で確認してみる……」

「うん……。あのね、もしかして……好きな人……だったり?」

「…………そんなわけないだろ? 俺なんかと……いやいや、それは無理だと思う」

「そ、そんなことないよ!!」


 いきなり大声を出す委員長にびっくりした。


「ど、どうした? 委員長……」

「な、なんでもない! い、行こう……! 私、準備するから」

「うん」


 委員長が準備をしている間、俺はスマホをいじっていた。

 昨日、先生のラ〇ンを無視してしたから……早くなんとかしないと、本当に怒られそうでずっと緊張していた。


「…………」


 うわぁ……、マジかよ。この量は一体……?

 ラ〇ンを開いた時、そこには147件のメッセージが来ていた。


『あかねくん……。どうして返事しないの?』

『ねえ、あかねくん』

『やっぱり、私のこと嫌なの? ごめん……。でも、返事はしてほしい』

『削除されたメッセージ』

『寂しい』

『寂しい』

『寂しい』


「…………」


 だ、大丈夫かな……? なんか、俺のせいでパニック状態になってるけど……。

 委員長の家で電話をかけるのもあれだし、こっそりラ〇ンを送るしかないよな。


『すみません、寝落ちしてしまって……』

『心配してたよ! どうして、返事しないの……? ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、待ってたよ! どうして、私のラ〇ンにすぐ返事しないの? 私と約束したじゃん!!』


 返事早い……。それより、先生ずっとスマホを見てたのか……。

 寂しがり屋の先生を一人にさせた俺が悪いけど、それでも大人だから……大丈夫だろうと思っていた。そして俺は先生の恋人じゃないから、先生が望んでいるのを全部やってあげるのは無理だと思う……。そういう関係じゃないからな。


 でも、先生はそんなことあまり気にしないように見える。


「あかねくん! そろそろ行こう!」

「あっ、うん!」


『すみません……。後で説明します!』

『あかねくん!!』


 委員長と約束をしたから、先生とのラ〇ンはここまで……。

 そして帰る前に、めっちゃ怒られる覚悟をしておかないと。


 ……


「寒いね〜。あかねくんは大丈夫? 寒そうに見えるけど……」

「うん。委員長こそ、こんな天気にスカートはいてもいいのか?」

「……だ、大丈夫。私……寒くない!」

「そっか」


 白い息が出る寒い天気、俺は委員長と近いところにある神社に向かっていた。


 そして、手の甲が触れる。

 先生と出会う前の俺ならこんなことにいちいち惑わされないけど、先生の距離感がおかしすぎて……すぐ緊張してしまう。


 てか、手の甲が触れただけでこんなに緊張するなんて……バカみたい。

 先生はさりげなく俺に抱きついたりするのにな。


「はあ……」

「どうしたの? あかねくん」

「いや……。もうちょっとで三年生になるから、いろいろ……」

「そうだね。また同じクラスになったらいいね。あかねくん」

「うん。そうだな」

「…………」


 そして、委員長が俺の手を握る。

 それはあっという間だった。


「…………えっ? 委員長? どうした? いきなり」

「手が冷えて……、それに手袋持ってないから……。嫌だったら離してもいいよ」

「…………」


 確かに、委員長の手……めっちゃ冷たい。

 まあ、いっか……。

 いろいろ注意すべきことが多いけど、それでもずっと俺のことを気遣ってくれたから……。何も言わず、俺は委員長の手を握った。そして女の子の手は本当に小さいなと思いながら……、雪が積もっている道を歩く。


 なんか、不思議だった。


「…………」

「あっ、あっちだよ!」

「うん」


 俺はテレビでしか見たことないけど、本当に人がたくさんくるんだ……。


「あかねくん。人……多いから、手離さないで」

「……分かった」


 そして、微笑む委員長と階段を上る。

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