30 三十一日の夜②

「ネギを切るだけなのに、どうしてそうなるんだよぉ……。委員長」

「えへへっ、ごめん。強がってたけど、私料理下手だから……包丁を使うのがちょっと怖くて……」

「…………バカ」


 てか、包丁を使うのが怖いのに、俺のためにそれを作っていたのかよ……。

 わざわざそんなことしなくていいのにな。


「後は俺がやるから、委員長は休んで」

「い、いいの? でも、私あかねくんに料理を作ってあげたかったのにぃ……」

「いいよ、委員長。気持ちだけもらっておく」

「ありがと……。じゃあ、私! そばであかねくんをサポートする!」

「うん、分かった」


 これ、中学生の時と一緒じゃん……。


 委員長の代わりに年越しそばと天ぷらを作って、二人は深夜〇時になるのを待っていた。そしてよく分からないけど、委員長が俺のそばに座っている。先生と一緒にいるもそうだったけど、どうして向こうじゃなくて俺のそばに座るんだろう? 寒いから? あるいは他に理由でもあるのかな……。少し緊張していた。


「ふふっ、もうちょっとだね〜」

「うん」


 今、肩が触れる距離に委員長がいる。


「美味しそう〜」

「うん。そうだな」

「ねえ、あかねくん。寒くない?」

「うん。今はそんなに寒くないと思うけど……、委員長寒い?」

「私寒がりだから……。さっきからずっとあかねくんにくっついてて、ごめんね」

「そっか、そんなことなら気にしない。うちはずっと寒いから、慣れたかもしれないな」

「ふふっ。じゃあ、食べよう!」

「うん」


 静寂を破るためにテレビをつけて、二人は年越しそばを食べていた。

 年末はいつも一人だったから、委員長と一緒に過ごすのも悪くないと思う。

 そしてなんか大事なことをうっかりしたような気がするけど……、すぐ思い出せなくてそのままそばを食べていた。


 なんだろう……。


「うう———っ! 美味しい〜」

「うん。あっ、委員長……髪の毛落ちるかも……」

「えっ? そう? どっち?」


 さりげなく委員長の横髪を触ったけど、不便そうに見えたから仕方がなかった。

 そして、天ぷらを一口食べる。


「…………」

「うん? どうした?」

「いや……、ちょっと……暑いかも……」

「えっ? 先まで寒いって言ったんじゃ……? それに顔が真っ赤になってるけど、どうしたんだ?」

「し、知らない! そんなこと聞かないで!」

「えっ? 怒ってる……?」

「怒ってない! 怒ってない! このバカァー! こっち見ないでよ!」

「えっ? わ、分かった」


 そう言いながら俺に頭突きをする委員長だった。


「…………」


 ……


 深夜一時に初詣に行くって言われたから、テーブルを片付けた後、しばらくソファでぼーっとしていた。そして夕飯と委員長が持ってきたお菓子をたくさん食べて、今めっちゃ眠い、眠すぎて……倒れそうだ。


「…………」


 やばい、うとうとしているのが感じられる。


 そして……、なんか……いい匂いがするけど……。なんの匂いだろう?

 まるで……、女の子の匂い。


 ちょっ、待って……! 女の子の匂い?


「うん……?」

「あっ! 起きたの? あかねくん……」

「えっ?」


 目が覚めた時、俺は委員長の膝で寝ていたことに気づく。


「なんで……、委員長が……目の前に……?」

「うとうとしていたから……、ぐっすり寝た方がいいんじゃないかなと思ってね」

「ごめん……。今何時……?」

「二時半だよ?」

「えっ? 嘘、マジ? 二時半? ごめん! 委員長……、起こしてもいいのに」

「ううん……、気にしなくてもいいよ。それより時間遅いから泊まっていけば?」

「えっ? 委員長の家……? いや、いいよ。さすがに……それはちょっと」

「大丈夫、あかねくんは私に何もしないよね?」

「それは……、そうだけど……」


 俺のせいだ。

 ソファで仮寝をするんじゃなかった……。


「ごめん……。委員長、顔が近い……」


 じっとこっちを見ている委員長に、すぐ緊張してしまう。

 近すぎ……。それになぜか頭を撫でられてるから、恥ずかしい。

 この状況は一体……?


「あかねくんめっちゃ可愛い顔で寝てたから、起こすのができなくて……。えへっ」

「なんだよ……。起こしてもいいのに」

「そしてあかねくんに膝枕をしてあげるのもけっこう楽しかったし〜」

「ええ……」

「一緒に初詣に行く予定だったけど、これじゃダメだよね。明日はどう?」

「うん。そうしよう……」


 確かに二時半なら……、無理だよな。


「ねえ、私の部屋で寝る?」

「冗談言うな……」

「えへっ。でも、お泊まり会っぽくてよくない? なんか、ドキドキするぅ……!」

「委員長って……、そういうの好きだったっけ?」

「うん。みんな彼氏と遊びまくるから……女子同士で遊ぶのも減っちゃったし……。お泊まり会もやったことないからね」

「みんな彼氏持ちだなんて、それはつらいかもな……」

「でも、今はあかねくんがいるからいいよ! あかねくんは……あの人たちと違うから!」

「そ、そうか……?」

「そうだよ? あかねくんはいつか……、いや。なんでもない」

「…………」


 布団を持ってきた委員長が笑みを浮かべる。

 俺があの人たちと違うって、それはどういう意味だろう……。もしかして、俺みたいな陰キャはいくら頑張っても陽キャになれないってことか……? それに最後の話の意味も……、委員長は何が言いたかったんだろう。


 よく分からないけど、その話が気になる。


「電気消すね〜」

「うん」


 薄暗い居間の中で、俺はずっと考えていた。


「…………ん?」


 それより、委員長はなんで……こっちを見てるんだろう。


「い、委員長……。どうして、ここに……? 寝ない?」

「私はあかねくんが寝るまでそばにいてあげるから……、心配しなくてもいいよ」

「えっ? 子供じゃあるまいし、いいよ!」

「ええ〜。いいじゃん〜。お姉さんに任せて」

「何がお姉さんだよ!」

「えへへっ」


 のあは笑いながら、テーブルに置いているあかねのスマホをポケットに入れた。


「…………仕方ないね。じゃあ〜、おやすみ! あかねくん」

「委員長も、そしてごめん。俺のせいで……」

「ううん。いいよ、気にしなくても……」

「うん……」

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