29 三十一日の夜
先生には適当に言っておいたけど、気になるのは仕方がないな。
その顔を思い出すと、急に胸が苦しくなる。
それでも委員長と約束をしたから……いきなり破るのもあれだし、今年は委員長と年末を過ごすことにした。
「じゃーん。あかねくん! どー?」
一緒に帰ってきた後、私服に着替えた委員長が俺の前でドヤ顔をする。
「うん? 委員長、制服は……? どうして、私服に……?」
「これね。この前に買った服だけど、年末だから着てみたかった! 変?」
「いや……、なんか……力入れすぎじゃね?」
「あはははっ、そうなの? どー? 可愛い? 今日この服着て、あかねくんと初詣に行くから」
「あ」
そういうことだったのか。
「可愛い?」
白色のブイネックニートに黒色のスカート、どう見ても出かける準備を終わらせた女の子だった。それに普段は髪の毛を縛らないけど、今日はなぜかポニーテールをしている委員長。年末だからか……? 今まで見たことない委員長の新しい姿に、俺は言葉を失ってしまう。
珍しいな。でも、委員長は友達多いから当たり前のことか……。
みんな彼氏持ちだし、モテる人だから。
「早く!」
「あっ! うん。いいと思う」
「ふふっ。今、お茶淹れるから待ってて」
「あ、ありがと」
とはいえ、他人の家はやっぱり慣れないな……。
それに委員長は女の子だから。
「ねえ、寒いなら暖房つけてもいいよ」
「うん」
そして暖房をつけた俺がソファに座る時、先生からラ〇ンがきた。
「…………ん? 何の意味?」
わけ分からないメッセージに首を傾げる。
正確には、テキストじゃなくて……絵文字。
これクマが壁を見ている絵文字なんだけど……、先生……何が言いたいのか全然分からない。仕方がなく、「どうしました?」と返事をした。
「なんか、こうやって二人っきりになるのは久しぶりだね?」
「そうだな……」
「友達がいてもね。みんな彼氏や家族と一緒に過ごすから、年末はいつも一人ぼっちになってしまう」
「そっか、それは大変だな」
「だから、来てくれて嬉しいっ!」
「うん」
静かな居間で委員長と二人っきり……。
そう言えば先生と一緒にいる時もそうだったけど、この状況で男の俺にできることは何だろう……。特に言えることもないし、女の子と何をしたらいいのか全然分からない。だから、ソファでずっと悩んでいた。
「なんか、懐かしい〜」
「…………うん、そうだな」
「そういえば、私いつもクラスの中で勉強を教えてあげたよね〜」
「うん」
あぁ……。いつもこうだから友達ができないんだよ……。
もうちょっと勇気を出して、委員長と何か話してみよう。
「中学生の時に戻りたい〜。あかねくん、高校生になってから毎日バイトだし」
「うん……」
とはいえ、さっきからめっちゃ喋ってる委員長だった。
「あかねくん……?」
「うん?」
「楽しくないの?」
「いや、どうして?」
「さっきからずっとうんうんって答えるから……」
「そ、そっか……。俺、暗いし……。友達もいないから、何を話せばいいのか分からなくて……。でも、学校にいる時は学校でできる話をするけど、こうやって二人っきりになった時はすぐ緊張してしまう」
「緊張……? なんで? 私はあかねくんの友達なのに」
「委員長は、その……異性だろ? 女の子だから」
「…………」
しんと静まり返る。
何か、悪いことでも言ったのかな……? この静寂が怖い。
「ねえ、私……悩みがあるけど……!」
「委員長に悩みが?」
「そう! 誰にも言えないから……、私あかねくんに聞きたい」
「俺でよかったら……、聞いてみる」
床でお茶を飲んでいた委員長がさりげなく俺のそばに座る。
ちょっと、近いんだけど……? この距離感はなんだろう。
「私ねぇ……」
「うん」
「仲がいい友達は全員彼氏持ちだから……、たまに寂しくなるんだよ……」
「そう? 委員長は……彼氏作らないのか? 委員長も可愛いと思うけど……」
「ほ、本当に?」
「うん。それに委員長は中学生の時からクラスメイトたちによく告られる人だったからさ。きっと、作れると思うよ」
「…………」
でも、委員長……彼氏とかいらないって言ってたような気がするけど……。
確かに、中学生の時だったよな……?
まあ、今は高校生だし……、彼氏が欲しくなったかもしれない。
「そ、それより! えっと……、あかねくんはどう? 好きな人とか……いるの? うちのクラスに可愛い人多いじゃん」
「ごめん……。俺、女の子のことよく分からない」
「あのね……。あかねくんは女の子に興味ないの?」
「興味ないって言うより……、よく分からないって言った方が正しいかも。多分、バイトで忙しいからそんなことを考える暇がなかったと思う」
「ふーん。本当に〜? 実は……あかねくん、照れ屋さんだったり〜?」
そう言いながら俺の頭を撫でる委員長。
よく分からないけど、委員長めっちゃ幸せな顔をしていた。
「あっ。勝手に触ってごめんね」
「いいよ」
ん……?
「委員長……今日化粧したのか?」
「えっ? 分かるの?」
「まあ、この距離なら見えるよな……。普段は化粧しないのに、珍しいね」
「…………そうだね。そ……それより、お腹すいたよね! 何か作るから待ってて! 食材買っておいたから!」
「手伝おうか?」
「えっ! いいよ」
「一人でできる?」
「うん! 任せて、もうあの時の私じゃないから!」
「分かった」
委員長が年越しそばを作る時、俺はソファでスマホをいじっていた。
今頃先生から返事が来ているはず、早く返事をしてあげないと……。
「…………ん?」
ラ〇ンが四十二通……? ど、どうして……こんなにラ〇ンがたくさん……。
もしかして、先生に何かあったのか?
「…………っ!」
そしてラ〇ンを開く時、キッチンから包丁が落ちる音とともに委員長の震える声が聞こえた。
「ううぅ……」
「だ、大丈夫? 委員長!」
「あっ。ゆ、指切っちゃった……」
「マジかよ……」
「ご、ごめん……」
結局、先生に返事できず俺は急いで委員長の指に絆創膏を貼ってあげた。
やっぱり、こうなるのかよぉ……。委員長……。
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