28 年末のこと②

 一応委員長と約束をしたけど、年末に女の子と二人っきりか……。

 こんな時に先生のことを思い出す理由はなんだろう。アホかよ。

 もしかして、二日間……同じ部屋で寝たからか、制服にまだ先生の匂いが残ってるような気がする。よく分からないけど……、この匂いを嗅ぐとすぐ先生の顔を思い出してしまう俺だった。


 ついに、頭がおかしくなったのか……。


「馬鹿馬鹿しい……」


 バイトから帰ってきた俺は、薄暗い部屋の中でぼーっとしていた。

 お腹からめっちゃやばい音がするけど、こんな時間に何かを食べるのも正直面倒臭いし……。そして先生のラ〇ンにもちゃんと返事したから、心配することもなくなったし……。今日はこの辺で寝よう。


「でも、まだ先生が作ってくれたおかずが残ってるはずだから……。ちょっとだけ食べようか……? このままじゃ寝れないかもな……」


 ガチャ……。


「うん?」

「あ! 今、帰ってきたばかりなの?」

「は、はい……。そうですけど……」


 部屋を出ようとした時、扉を開ける先生と目が合ってしまう。

 どうして、ここに……?

 てか、今日来るって言ったっけ……? ラ〇ンを確認した時にそんなこと言ってなかったから、今日は絶対来ないと思ってたのに……。それより、どうやって入ってきたんだろう……?


「…………ん?」


 首を傾げる先生。


 そういえば、俺……先生にサブキー渡したよな……。

 うっかりしてた。


「何その顔……」

「い、いいえ……。いきなり先生が出てきて……、ちょっとびっくりしました」

「ふふっ、ドッキリ大成功だね〜!」

「あ……、そういうことでしたか」


 まさか、先生がそんなことをするとは……。

 本当にびっくりした。


「そして、呼び方!」

「あっ、はい! ところで、今日はなぜ……ここに?」

「あかねくんの好きなおかずたくさん作ってきたから! そして私が作ってあげないと、あかねくんカップ麺ばかり食べるから……ダメだよ〜」

「…………はい」


 ど正論……。まあ、普段からずっとインスタント食品ばかりだったし。

 てか、カップ麺ばっかり食べてたのを先生にバレたのかよ、俺は……。


「ねえねえ、今日! 私、女の子たちと写真撮ったよ? 後ろで見てたよね?」

「は、はい……」

「どうだったぁ〜?」


 ニコニコしている先生が俺に変なことを聞いてるけど、こんな時に俺はどう答えればいいんだろう。


「…………へえ」

「何それ……?」


 えぇ……、急に冷たくなったぁ。

 どんな反応をしたら先生が気に入ってくれるのか全然分からないし。そもそも先生が生徒たちと写真を撮るのは普通に……やってるのかどうかは分からないけど、一応問題はないと思う。


 でも、先生が聞きたいのはそういうことじゃないよな……。


「ねえ、私に言いたいことない?」

「えっ? な、何を……」

「私と一緒に写真撮りたくないの? あかねくんは……」

「あ〜! ダメですよ。みなみさん、それはダメです」


 すぐ冷静になる俺だった。


「チッ……」


 えぇ……。先生、今……舌打ったよな……?

 じゃあ、学校で言ってた「羨ましい」は……やっぱり写真の話だったのか。

 つまり、嫉妬する俺が見たかったってこと?


「つまんな〜い。あかねくんに一緒に写真撮りたいって言われたかったのに……」

「そ、卒業したら……。できるかもしれません」

「とおーい! 卒業まで遠いよ!!」

「そうですね……」

「あかねくんと一緒に撮った写真をスマホの壁紙にしたかったのにぃ……」

「みなみさん、今さらっとやばいことを……」

「だって……、あかねくんも私もイン〇タやってないから! 一緒に撮った写真を壁紙にして、仕事で疲れた時にこっそり見たいから! どうして、私の気持ちを分かってくれないの? ねえ〜」

「いや、普通にやばいですよね? そんなこと」

「嫌だ〜。やっぱり、私……あかねくんに嫌われてるかも……」


 すぐネガティブモードになってしまう先生だった。


「は〜い! そこまで……、ブレーキ踏んでください〜」

「うう〜、実はね。あかねくん……あの子たちと写真撮るのを見たから、きっと今日あかねくんと写真撮られると思ってのにぃ……。私の勘違いだったぁ……。恥ずかしい!!」

「…………」


 先生、もしかして丸一日それを考えてたり……。

 まさか……。でも、めっちゃ落ち込んでるし……空気が重い。


「…………」

「写真……」

「…………」

「撮りたい……」


 仕方がないな。


「みなみさん」

「うん?」

「写真を撮るのは多分……大丈夫だと思いますけど、やっぱり壁紙にするのはやめてください」

「約束したら、一緒に写真撮ってくれるの?」

「はい」

「じゃあ、一緒に写真撮ろう! そして家に帰ったら写真をプリントして、クマさんのお腹に貼りたい!」

「…………はい?」

「わーい!」

「えっ?」


 すぐ俺にくっついて写真を撮る先生、それは初めて誰かと撮る写真だった。

 こういうのが好きなのか……、テンションめっちゃ高い……。

 てか、写真を撮るのはいいけど、先生……スーツ姿で俺と写真を撮るんだ……。


「あっ! そうだ。あかねくん……! 年末に予定あるの? やっぱり、バイトあるから一人で過ごす予定だよね?」

「あっ、いいえ! 今年は委員長と初詣に行く予定です。学校で約束したから……」

「えっ?」

「えっ……?」


 持っているスマホを落とした先生は、なぜか死んだ目でこっちを見ていた。

 いきなりそうなるのか。

 それより、ちょっと怖いんですけど……?


「へえぇ……………………」


 もしかして、俺……また変なことを言っちゃったのか。


「じゃあ、年末は……。萩原さんと一緒なんだ……」

「はい。先生はその……、実家に帰らないんですか? 俺と委員長は家族と年末過ごさないから……」

「私。大人になってから……、毎年……、ずっと一人だったけど……」

「…………」

「毎年……」

「…………」

「ずっと……」

「…………」

「一人だったけどぉ……」


 やばい、何を言ってあげたらいいのか全然分からない。

 どうしたらいいんだ……?

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