五、年末
27 年末のこと
「星宮先生! 一緒に写真撮っていいですか?」
「えっ? 私と……?」
「はい! 先生と撮った写真のいいね数見てください!」
「二万千二百……! す、すごいですね!」
「ふふふっ! だから〜先生、笑顔! チーズ」
「は、はい……!」
ここに来てから一ヶ月くらい経ったのか……、知らないうちに先生は学校の人気者になってしまった。今は隣クラスの女の子たちも先生と写真を撮るために廊下で待っている。俺はイン〇タとかやってないからよく分からないけど、それでもいいねが増えるのはいいことってくらい知っていた。
みんな、休み時間にイン〇タの話ばっかりだからな……。
「ありがとうございまーす! やっぱり、星宮先生超可愛い!」
「えっ? そ、そうですか? ありがとうございます……!」
「そういえば、星宮先生好きな人いますか?」
「えっと……、まだ……よく分からないです」
「へえ……、そうなんだ」
「じゃあ、そろそろ職員室に戻りますので」
「は〜い!」
そして先生が職員室に戻る時……、後ろでジュースを飲んでいた俺と目が合ってしまう。なんだろう、この空気は。先生と一緒にクリスマスを過ごしたからか……、あれがあってから先生は俺によく笑ってくれる。
それがけっこう恥ずかしくて廊下で先生と目が合った時、すぐ目を逸らしてしまう癖ができてしまった。
普通に挨拶をしてもいいのに……、どうしてあんな風に笑ってくれるんだろう。
その笑顔は俺にしか見せてくれないから、ちょっと気になる。
「…………ん?」
てか、先生何か言ってるような気がするけど……。
俺はこっちを見ている先生の口に集中した。
「うらや……ま……しい?」
そのまま職員室に入ってしまう先生、さっきの笑顔と……「羨ましい」の意味はなんだろう。もしかして、先生と写真を撮った女の子たちが「羨ましい?」って聞いてるのかな……? どう考えてもそれしか思い出せない俺だった。
バカ……。
「わっ!」
「う、うっ……!」
そして、後ろからびっくりさせる委員長に持っていたジュースを落としてしまう。
「あっ、ごめん! びっくりしたの……?」
「あ……、ちょっとぼーっとしてたからさ」
「ええ……、さっきからずっと呼んでたのに……」
「そう?」
「うん!」
全然知らなかった。
うわぁ……。それより、緊張して心臓がドキドキしてる……。
全部、先生のせいだ。
いつも余計なことをするから、俺がこんな心配をするんだろ……? 全く、学校にいる時は注意してほしいってそんなに言ってあげたなのに……なんで目が合うたびに笑ってくれるんだよぉ! 別に嫌いじゃないけど、そんなことをしたら……俺もどうしたらいいのか分からなくなるんだろぉ……! このバカ先生。
「ねえ、あかねくん。デートの話、ちゃんと考えてみた?」
「あ、うん……。一応……いいと思う」
「じゃあ、私ね。三十一日はあかねくんと一緒にいたい!」
「年末か……」
そろそろ、新年……今年も終わっていくんだ。
「うん! 私、二年間あかねくんと遊べなかったから……。一緒に初詣とか、年越しそばとか! 二人っきりで何かやりたい!」
「いいね。でも……、初詣とか、年越しそばとか……。夜まで待たないと…………」
「そうだね? じゃあ、うち行かない? お父さんとお母さんいないから、来てもいいよ」
「ううん……。やっぱり、女の子の家に行くのはちょっと……」
「えっ? 恥ずかしいの? そういえば、私も男子を家に誘うのは初めてだから……ちょっと恥ずかしいかもね……。へへっ」
「バカ。じゃあ、いつ行けばいいんだ?」
「三十一日、学校終わってすぐ行かない? どうせ、休みでしょ?」
「うん。そうだな」
そういえば、委員長と何かをするのは久しぶりだな。
「楽しみ!」
ずっとノートを貸してくれたし、たまには俺に勉強も教えてくれるから……。そんな委員長を断るのは失礼だと思っていた。それに二年間ずっと断ってきたから……今年は一緒に何かをしないと委員長に嫌われそうだ。
「ふふふっ」
てか、委員長テンション高いな。
「じゃあ、三十一日にクラスで待ってるから!!」
「はいはい」
……
「クッソ! 彼女欲しい!!」
そして、クラスの中から響く安田の声に委員長がビクッとする。
「また……、安田……」
「まあ、いつもあんな感じだな。安田は」
「知ってる? 二日前に彼女と別れたって」
「えっ? そうなんだ。てか、なんで委員長がそんなことを知ってるんだ……?」
「安田ね。口軽いから……」
二日前に別れて、すぐ彼女がほしいって言うのか。
まあ、人それぞれだから分からないとは言わないけど、そう簡単に元カノのことを忘れられるなんて……。先生にも教えてほしいな。そして安田のメンタルは色んな意味ですごいからマジ尊敬している。
「委員長〜」
「うん? どうした? 安田」
「クリスマス、俺のために頑張ってくれたけど、ごめんな〜。別れちゃった」
「そう?」
「性格は本当にいいけど、顔がちょっと……俺のタイプじゃないからさ」
へえ……、そうなんだ。
「あ……、それは仕方ないね。でも、それは安田の選択だから私に謝らなくてもいいよ」
「天使かよ! 委員長!! 俺と付き合ってくれ!」
「いやだよ〜」
「ええ〜。振られたぁ〜」
安田……、マジかよ。
そこでいきなり「付き合ってくれ!」が出てくるなんて……、これが陽キャの行動力か。普段からクラスの人とあまり話さないからよく分からなかったけど、モテる人の言い方はやっぱりすごいな。
テンションも高いし、恋愛に関してはめっちゃ積極的だった。
「そろそろ、星宮先生の授業だから席に座って」
「はいはい……。振られたぁ……」
ちらっと委員長の方を見る安田。
「変なこと言わないで早く座りなさい!!」
「はい〜」
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