24 クリスマス当日

 朝七時のアラーム、目が覚めた俺の前には無防備な姿ですやすやと寝ている先生がいた。昨日はちゃんとベッドで寝かせたはずなのに、デジャビュ……? そして寝る前からずっと暖房をつけっぱなしにして暖かくなった部屋の中、いつここに来たのかは分からない、先生はボタンを全部外したシャツを着て幸せな顔で寝ていた。


「マジかよ。これ……」


 ズボン……、はかせた方がよかったかもしれない。

 てか、今はズボンだけの問題じゃねぇよな。

 とはいえ、俺が先生の体に手を出すなんて……、できるわけないよな。


「…………」


 まるで、やってはいけないことをやらかした気分だ。

 こうなるかもしれないって予想はしていたけど、実際目の前で先生を見ると何をすればいいのか分からなくなる。でも、先生の無防備な姿に体だけは素直だった。すごく恥ずかしいけど、これも生理現象の一つだから無視できない。俺は変態か……。


 あ、早く起こさないと……。


「みなみさん……? 朝ですよ」


 いや……、やっぱりこの呼び方は慣れない。


「ううん……。もうちょっと……、土曜日だし……」

「じゃあ、後で起こします……」

「もうちょっとここで寝てもいいじゃん……」


 先生の声は……、男の保護本能をくすぐる。

 力のない声で俺の名前を呼んだり、目を合わせて何かを頼んだりする時はマジでやばい。

 そして、起きたばかりの先生はいろんな意味で危険だった。


「ダメです」

「じゃあ、私も連れてて……。一緒に朝ご飯、食べよう……」

「はい」


 ……


 天気がいい朝、先生は静かに朝ご飯を作っていた。


「…………」


 そして、ボタンのことはまだ言ってない。

 それに、先生も自分の姿に自覚してない。


「あのね、あかねくん」

「はい?」

「昨日……、不安だったからあかねくんのそばで寝たけど……。もしかして、嫌だった?」

「いいえ……。不安だったら、俺を起こしてもいいんですけど……」

「ううん……。あかねくんを抱きしめると、その不安が消えちゃうから、いいの」

「そうですか。よかったですね」

「だから、日曜日まで私と一緒にいてくれるない……? やっぱり、こういうのはダメだよね?」

「…………俺がいると、不安が消えるんですか?」

「うん……。なんか、ドキドキする気持ちが……トラウマを一時的に消してくれるような気がする」

「分かりました。先生がそう言うのなら、俺も日曜日まで先生のそばにいます。その前に、家によって服とか持ってきてもいいですか……? さすがに、制服のままじゃあれですよね」

「うん!」


 そんなことなら、仕方がないな……。

 先生もそれなりに頑張ってるみたいだし、俺がもうちょっと頑張れば……きっと乗り越えるはずだ。


「そ、そして……」

「うん?」

「恥ずかしいから、そのシャツのボタン……を……。その……、どうにかしてください。みなみさん……」

「あっ……。ご、ごめんね……。癖でつい……」


 目を逸らすあかねと、赤くなった顔でボタンをかけるみなみ。


「ご、ご飯! た、食べよう! あかねくん!」

「は、はい……」


 この空気……、やばいな。


 そして、先生が作ってくれた朝ご飯はめっちゃ旨かった……。体が温まる。

 こうやって過ごす二人っきりの朝も悪くないと思う。


「ごちそうさまでした。今日は……家による予定で遅くなるかもしれないから、すぐ電話します」

「家によるのは……、私服のためだよね?」

「はい。ずっと制服のままじゃあれだから、服持ってきます」

「あ、あの……! 私が……代わりに行ってきていい?」

「先生がですか?」

「う、うん! 今日休みだから特にやることもないし、私が持ってくるから……。その……、えっと……」


 なんか、言いたいことでもありそうな顔だな……。


「だ、だから……。か、鍵……もらってもいいかな?」

「鍵……。ああ、うちの鍵ですか?」

「う、うん……。やっぱり、ダメだよね? 私なんかに鍵を渡すなんて……」

「いいですよ。俺、サブキーも持ってるんで……」

「いいの?」

「はい。じゃあ、お願いします。先生……」

「それと……」

「はい? どうしましたか?」

「なんで、私のこと名前で呼んでくれないの?」

「…………それはまだ慣れてないっていうか、多分……ちょっと時間がかかるかもしれません……」

「うん……。そうなんだ……」


 仕方ないな……。


「み、みなみさん……! これでいいですよね?」

「やっぱり、そっちの方がいい……。ふふっ」

「はい……」


 ……


 バイトに行く前まで先生とたくさん話して、今は雪が積もった道をゆっくり歩いている。先生は車を出すって言ってくれたけど、誰かにバレるかもしれないし。週末になると委員長も来るはずだから……危険だよな。


 念の為、歩いていくことにした。


「あ、あかねくん! 今日はちょっと遅いね〜」

「委員長……?」


 やっぱり。


「あれ? どうして、制服……?」

「ああ、昨日はちょっと……用事があってさ」

「そう……?」

「あ、委員長! 前に貸してくれたノートありがと、おかげでしっかり勉強した」

「うん!!」


 てか、委員長……クリスマスに予定あるって言ってたけど……。


「委員長」

「うん?」

「今日、クリスマスなのに友達と遊びに行かないのか?」

「ああ、それね。まだ時間あるから、あかねくんに会いに来たよ? ふふっ」

「そ、そっか……。チーズケーキ、食べる?」

「うん、食べる!」

「分かった」


 俺と違って委員長は友達が多いから……、たまに羨ましくなる。

 でも、今年はちょっと違うかもしれない。

 先生がいるからか……。


「あのね、今日は友達とショッピングするって約束したけど……」

「うん?」

「みんな彼氏持ちだから……、ずっとプレゼントのことばかり考えてたし……。私だけフリーだから悲しかったよぉ……」

「それは大変だな」

「ところで、あかねくんは何が好き?」

「よく分からないな…………。クリスマスプレゼントって言われても、俺とは関係ない日だし……。考えたことないからな」

「だよね……。あかねくんはそういうことに興味ないから……」

「…………はい。チーズケーキ」

「ありがと〜」


 クリスマスプレゼントか……。

 特に欲しい物とか、そういうのを考えたことないからよく分からないけど……。

 ふと、先生のことを思い出してしまう。


「…………プレゼント」

「うん? 何か言った?」

「いや、なんでもない」

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