25 クリスマス当日②

 バイトをしながら、先生にあげるプレゼントを考えていた。

 昨日は寂しそうに見えたし、それに俺が余計なことを言い出して先生を泣かせてしまったから。なんとかしないといけないって、自分のことを許せなかった。それにしても年上の女性にプレゼントか……、同い年の女の子にもあげたことないプレゼントを先生に…………。これは時間がかかりそうだな。


 だからって、委員長にそんなこと聞けるわけないし……。

 今更だけど、俺は先生の好みとか全然知らない……。まずい。


「本当に、今日はバイトだけなの? あかねくん」

「うん? どうした? 委員長」

「クリスマスなのに……。一人で過ごしてもいいの? 高二のクリスマスだよ?」

「だよな……。でも、そんなことより……今はバイトが大事だからさ」

「ええ……。た、たまには私とデートとか……してもいいじゃん……」

「い、委員長とデート……?」

「そう! たまには外で一緒に遊ばないとね! どー?」

「まあ、考えてみる」

「ええ……、それいつもの答えじゃん〜」

「ごめん……。バイトがあるから……」

「もう〜」


 自由って、きっとこういうことだよな。

 俺も委員長みたいな余裕が欲しい、もし余裕ができたら……今と違う人生を過ごしていたかもしれない。

 羨ましい、そんな風に誘うことができるなんて……。


「ケーキありがと〜。そして、デートの話ちゃんと考えてみてね」

「うん」


 委員長と挨拶をした後、テーブルを片付けながら……一人で呟く。


「デート……か」


 どうして、周りにいる人たちは俺にそんなことを言うのか分からない。

 俺なんかとデートだなんて、そんなことして何が楽しいんだろう……。


 本当に分からなかった。


「いいじゃん〜。青春だな。あかね」

「お、おっ! て、店長? いつから……そこに?」

「デートの話ちゃんと考えてみてねって言われた時から」

「ずっとそこにいましたか……」

「なんだよ〜。彼女か? あかね」

「いいえ。同じクラスの委員長です」

「ふーん。でも、そう簡単にデートしようって言われるのは学生時代だけだぞ? あかね」

「そうですか……?」

「大人になったら、いろいろあるし……。誰かと出会って、いい関係を作るにはすごい努力が必要だぞ? 学生時代に普通にできることも大人になったらできなくなる。そこが大事」

「はい……」

「ところで、今年もバイトか……? 忙しい時に来てくれるのは嬉しいけど……、あかねはずっとバイトばっかりだったから心配だぞ……? たまには友達と楽しんでもいいんじゃね? 思い出を作れるのは今だけだから」


 毎週四十時間、ずっとバイトだけ……。

 そんな俺に思い出を作る時間などなかった。店長はいい人だからたまにこういうことを言ってくれるけど、今まで一人だったからそんなことに興味ないってずっと断ってきた。でも、今年は先生と出会って、委員長に誘われて、なんかいろいろ起こっているような気がする。


 思い出……。


「て、店長は……女性にプレゼントしたことありますか?」

「……やっぱり、デートかよ。あかね」

「いいえ。最近仲良くなった人を傷つけてしまって……、クリスマスだから何かプレゼントしたいけど……。何をあげたらいいのか全然分からなくて」

「ふーん。そっか、俺が高校生だった時は……。多分、ぬいぐるみと時計かな?」

「ぬいぐるみ……」


 そういえば、先生……ぬいぐるみって言ってたよな。

 でも、バイトは十時に終わるから今日買いに行くのは無理だと思う。


「あかねの好きな人か?」

「まだ……、分かりません」

「でも、バイトは十時に終わるから買いに行く時間ねぇよな……」

「プレゼントを買うのは明日です。問題ありません」

「あかね、何言ってんだよ! 早く帰れ! 今日はいい!」

「えっ? いきなり?」

「今年は大切な人とクリスマスを過ごして、思い出を作るんだぞ! あかね! そして、帰る時にラ〇ン送るからちゃんと確認しろ」

「は、はい……!」

「可愛いぬいぐるみを売ってる店知ってるから」

「ありがとうございます!」


 そして、予定より早く店を出てしまった。

 俺は店長が送ってくれた店の場所を確認し、急いでバスに乗る。


「…………大雪だな」


 念の為、先生には何も言ってあげなかった。

 ドッキリっていうか、誰かにプレゼントをするのは初めてだから……。

 もらった時に喜んでほしくて、それを秘密にしたかった。


「いらっしゃいませー」


 さて、一応店に来たけど……、ぬいぐるみばかりじゃん。


「…………何を買えば」


 いろんなぬいぐるみがあって、何を選べばいいのか全然分からない俺だった。


「…………ん?」


 その中で一番目立つのは、こっちを見ているクマのぬいぐるみだった。

 てか、めっちゃ大きいな……これ。

 下に人気商品って書いてるけど、普通はこういうのを買うのか……とじっとクマのぬいぐるみを見つめていた。


「ううん……。これにしよう」


 一応これを買うのは問題ないけど、どうやって持っていけばいいんだろう……。

 大きさが俺の上半身より少し大きいからな……。

 まあ、小さいぬいぐるみよりは大きい方がいいと思って……深く考えるのはやめることにした。


「ありがとうございます〜」


 やばい、前が全然見えないんだけど……?


「あの人……、めっちゃ大きいぬいぐるみを……」

「彼女に贈るつもりか……?」

「お母さん、あっち! めっちゃ大きいぬいぐるみがあるよ!」


 いや、これ……けっこう恥ずかしいな……。

 ぬいぐるみが大きいからか、ビニール袋とリボンもそれに相応しい大きさをしているからすごく目立つ状況だった。


 早くバス……乗りたい。


「…………」


 そして———。


「あの……。て、手伝ってあげましょうか?」

「す、すみません……。荷物が大きくて……」

「いいえ……」


 バスに乗りたいけど、ぬいぐるみのせいで財布に手が届かない俺だった。

 それに周りの視線が気になる……。

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