22 誰かと一緒③

 今日、俺と一緒にいたかった理由はやはり元カレが原因だったんだ。

 先生は俺に抱きついて、我慢いていた涙を流す。俺が「大丈夫」ってそう言ってあげても、先生がそれを乗り越えないと結局何も変わらないんだから。そう簡単に人を忘れるのはできない、そしてそれが好きな人だったら……もっと苦しくなるはず。


 俺は静かに涙を拭いてあげた。


「…………」


 濡れたシャツ、それでも寂しくなるのは仕方がないことだよな……。

 誰かと一緒にいたくなるその気持ち、俺も知っているから。


「大丈夫ですよ。きっと、忘れられるはずです」

「あのね……、今日だけ」

「はい?」

「いや……、二人っきりの時は下の名前で呼んでほしい……。あかねくん……」


 いきなり、下の名前ですか……。


 先生のことを下の名前で呼ぶなんて、そんなことやってもいいのか……?

 てか、顔に「やってほしい」って書いてるような気がする。そして先生はいつもこんな感じなのか……? 寂しくなったら、他の人にもこんな風に言うのか……? 急にそんなことを思い出してしまう。


 大切な人、そのカテゴリーに先生を入れたくなかったから。

 なるべく、今の関係を……維持したかった。


「ダメ……?」


 先生は涙ぐんだ目で俺を見る……。それはよくない癖だから、必要以上のことをするのはやめてほしかった。正直、いつまで積極的な先生に耐えられるのか……、俺にもよく分からないから……。そこが怖いんだ。


「先生は……、いつもそんな感じですか?」

「えっ? どういうこと?」

「他の人にもそんな風に……言うんですか?」

「えっ……? なんで、そんなことを聞くの?」

「今日は、先生とほぼ一時間くらいくっついてたし……。それに呼び方まで変わったら、本当に耐えられないかもしれません」


 委員長とは距離を置くのができるのに、先生とはそれが上手くできない。

 そして、先生は床に置いている自分のスマホを見せてくれた。


「見て……、私に他の人なんていないよ……」

「えっ?」


 ラ〇ンに登録された人は家族以外、俺と保健室の中山先生だけだった。

 中山先生は女性だから、本当に男は俺だけってことか……。まずいな。


「…………友達いないって言ったじゃん。私のこと、疑ってるの?」

「すみません。正直、俺は先生のことを美人だと思います。だから、そんな人が俺に抱きついた時、俺ははっきりと断るのができません……。二人っきりの時間が増えれば増えるほど……、どんどんつらくなるはずだと思います。だから……」

「それは、私と一緒にいるのが嫌ってこと……?」

「いいえ。嫌とかじゃなくて、俺が先生に恋愛感情を抱くかもしれないから……それが怖いんです。本当に……怖いんです」

「…………大丈夫、怖がらなくてもいいよ。その気持ち、私も分かるから……」

「…………」


 先生はその気持ちを分かるのか、そっか……。


「どうしてですか? 俺は偶然電柱の下で先生を見つけただけですよ? 最初から知らない人なのに、どうして先生は……大丈夫って言うんですか? 俺は……先生に何もやってあげられません! 初めて出会ったの時も、今も、ずっとそうでした……」

「好きだから! あかねくんのことが好きだから……」

「…………」

「ダメだよね。やっぱり……」

「はあ……、本当に先生は何を言ってるんですか? 生徒をからかうのはほどほどにしてほしいです。そういうはお互いによくないって知ってますよね……? 先生も……」

「…………」


 俺が言ったことが気に入らなかったのか? あるいは、先生を挑発したのかは分からない。

 知らないうちに……、俺は先生に襲われてしまった。

 そして、顔に涙が落ちる。


「せ、先生……?」

「私の気持ちを……、冗談だと決めつけるのはやめて……。やめてよ!!」

「…………」


 先生、マジで怒っている……。


「だって……、俺は……」

「好きでもない人とこんなことをする女が……、この世にいるわけないでしょ?」

「は、はい……。すみません、先生」

「…………ひどい、また……私から離れようとする。痛い、心が痛いよ……」

「あ、あの……先生……! お、落ち着いてください」

「痛い……、一人にしないで……。お願いだから……」


 下を向いていた先生は両手で俺の手首を掴んだ。

 先生は本当に一人ぼっちだったのか、生徒の俺にそんなことを言うほど……周りに頼れる人がいないなんて……。それは悲しい。

 本当にゼロだったのかよ。


「だから、私を離れないで……。私は嘘ついてないから……」

「はい……。分かりました……」

「そして、私が他の人にそんなことを言うわけないでしょ? 本当に、あかねくんだけだから……」

「はい」

「だから、もっと私のことをにして……」

「はい……」

「約束だよ?」

「…………」


 すぐ答えられなかった俺は少し悩んでいた。

 すると、俺の頬をつねる先生が同じ言葉を繰り返す。


「約束だよ?」

「は、はい……」

「うん! そして、ごめんね……。心が弱くて、頼れる人がいなくて。だから、あかねくんじゃなきゃダメなの……。私」

「はい……」


 やっぱり、俺が先生に勝てるわけないか……。


 仕方がないな、それを言うしかないと思う。

 恥ずかしいけど……。


「み、みなみ……さん」

「えっ! 下の名前で呼んでくれるの?」

「はい……。だから、笑ってください! 先生! もっと注意しますから……」

「先生じゃなくて……」

「あっ、みなみさん……。てか、俺……この呼び方に慣れてないんですけどぉ……」

「いいじゃん。私はその呼び方好きだから」

「はい……」

「もう一回! ねえ、もう一回!!」


 顔……近いし。


「みなみさん……」

「へへっ、やっぱり……私はあかねくんと出会ったよかったと思う。だから、もうそんなこと言わないでね」

「は、はい……」

「時間も遅いし、そろそろ寝ようかな……?」

「は、はい……」

「私のベッド広いからね〜」

「は、はい……? えっ?」

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