19 ドキドキするイブ②
放課後、誰もいない教室の中であかねくんをじっと見つめていた。
せっかく……、私の方から誘ったのに! それを断ったからこうなるんだよ! 教師の権力でこんなことをするのは良くないって知ってるけど、それでもあかねくんが私のことを大切にしてほしかったから仕方がないことだった……。
「…………」
学校で二人っきりになるチャンスも滅多にないから……、なんか……可愛いね。
これが、教師の権力……!
「先生……、反省文二枚はひどすぎですよ……。別に、悪いことしてないし……」
「文句言わないで、ちゃんと書きなさい!」
「はい……」
素直に「はい」って答えたら、私もこんなことさせなかったはずなのに……。
あかねくんのバカ……。
「…………」
なんか……、急にあかねくんの髪の毛が触りたくなる。
そういえば、今朝あかねくんを抱きしめた時……、すっごく温かったよね……。それがすっごく気持ちよくて、ドキドキする気持ちを抑えながらそばで寝たふりをしていた。でも、私から離れようとしたあかねくんに少し寂しさを感じる……。普通ならぎゅっと抱きしめてくれるはずだけど……。私たちまだそういう関係じゃないから、私が一つずつ……あかねくんに教えてあげないといけない。
私の寂しさを埋めてくれる人はあかねくんだけ。
そして私を拾った人もあかねくんだから、責任をちゃんと取ってくれないと……困るよ。
それより、本当にそっくりだね……。
「ふふっ」
「な、なんで……笑うんですか?」
「なんでもない〜」
「あっ、そういえば……先生って本当に人気者ですね」
「なんで?」
「授業中にみんな先生の話ばっかりで、あいつに気づきましたか? 安田めっちゃ落ち込んでましたよ?」
「あ……、安田さんね……」
安田……、あの人はなんかしつこいっていうか……。
なんで私にそんなことを聞くのかよく分からない。「彼氏いますか?」とか、「先生のタイプ教えてください!」とか、興味もない人にそんなことを言われるのはつらい……。そもそも、私はあんなヤンキーみたいな人好きじゃないから……話すだけで疲れてしまう。だから、適当に誤魔化すしかなかった……。
それより、なぜこのタイミングで安田の名前が出るの……?
「も、もしかして……あかねくん。私のこと面倒臭い……?」
「えっ? いきなり……?」
「だって……、休み時間にずっとラ〇ン送ってたし……。今日は反省文を書かせたから……」
「まあ、先生を怒らせた俺のせいです……。気にしないでください」
「なんで、そんなに優しいの……?」
「優しいっていうか、先生の事情を知ってるからだと思います。だから、心配させるようなことはしません」
「チッ、高校生のくせにぃ……。カッコいいこと言ってる……」
「はい。これで終わりですね」
「もう終わったの?」
「えっ? なんですか……? その表情は……」
また会えるのに、家に帰るあかねくんを見るとなぜか不安になる。
この気持ちをどうすればいいのか、私には分からない。
誰も教えてくれないから、ずっと苦しくなるだけだった。
「そろそろ帰ります。先生も今から仕事ですよね?」
「うん……」
「どうしましたか……? 先生」
「今日……、うちに来てほしいの」
「…………先生の家に行くのは明日ですよね? 今日はイブですよ……?」
「…………分かってるし……」
やっぱり、今日うちに来てくれるのはダメだよね……。
クリスマスイブだし、あかねくんと一緒に美味しいもの食べたかったのに……、バイトがあるから……仕方ないよね。
なんか、急に悲しくなる……。涙が出そう……。
一緒にいたい。
「…………っ」
「先生」
「うん……?」
「夜の十時、駐車場で待ちます。時間あったら……来てください。俺……車持ってないんで……、それに住所も知らないし……」
「えっ? き、来てくれるってこと? 本当に?」
「はいはい。だから、そんな顔しないでください。なんで……、永遠に会えないかもしれないって顔をしてるんですか……?」
「そ、それは! あかねくんに断られて……」
「行きます。先生の話通り、翌朝までは余裕ありますから……」
「うん! ありがと!!」
あかねくんがそう言ってくれると、すぐ嬉しくなる。
私はずっと相手に合わせてあげたから、私の話を聞いてくれるあかねくんがとても好きだった。そして、クールで大人っぽいところがあるからかな? 私の方が年上なのに、なぜかあかねくんに頼りたくなる。
それにいつも渋い声で話してくれるから、そこで男らしさを感じる。
私と違って落ち着いてるのも好き!!
「じゃあ、帰ります。先生、今日も頑張ってください」
「あ、後で電話するからね!」
「はいはい」
今日、うちにあかねくんが来る!
テンション上がる!
「あれ? 星宮先生、まだ教室にいましたか?」
「あら、萩原さん。どうして教室に?」
「あ! 忘れ物を思い出して、取りにきました」
「そうですか」
「はい!」
萩原のあ。頭もいいし……、いつもあかねくんにノートを貸してあげる人。
そして中学生の時からずっとあかねくんと一緒だったから、余計に気になる……。
「では、気をつけて帰ってください。萩原さん」
「あの! せ、先生!」
「はい?」
「先生は……、その……」
「はい? どうしましたか?」
「いいえ、やっぱり……なんでもないです」
「はい! では……」
その顔……、きっと私に何か言おうとしたはず。
何が言いたいのかは分からないけど、今は気にしなくてもいいと思っていた。
早く仕事を終わらせて帰りたい。
今はそれだけを考えている。
「…………」
職員室に向かうみなみの後ろ姿を、じっと見つめているのあだった。
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