18 ドキドキするイブ

「ふん〜♪ ふん〜♪」

「星宮先生、今日なんかテンション高いですね?」

「え、えっ!? そう見えますか……?」

「はい」


 うっ……、今日丸一日あかねくんのことばかり考えていたからかな……?

 やっぱり、学校にいる時はやめた方がいいかもしれない。

 でも、あかねくんと一緒に過ごすクリスマスが楽しみすぎて……、私居ても立っても居られない! 早くあかねくんとクリスマスケーキを食べて、一緒にホラー映画を見て……、そして二人っきりの時間を過ごしたい……。今年のクリスマスは絶対楽しいはずだから……、バレないようにドキドキする気持ちを抑えていた。


 でも、すぐバレちゃうなんて……。


「…………っ、恥ずかしいです……」


 休み時間、私は中山先生と廊下で話していた。


「もしかして、新しい彼氏できました? あるいは……、好きな人?」

「え、えっと……。一応、彼氏ではないので……」

「でも、めっちゃ幸せな顔をしていて可愛かったです。星宮先生」

「そ、そんなことないです!」

「私も二十代になりたいな……。今の生活に不満はないんですけど、やっぱりなんでもできるあの時が懐かしくなりますよね〜」

「中山先生は、その……結婚しましたよね?」

「そうですよ〜。年下の後輩と結婚しました〜」


 年下彼氏……、羨ましい!


「あら……、やっぱり余計なことを……。星宮先生は彼氏と……」

「い、いいえ! 大丈夫です! それより……わ、私! 気になります! 中山先生の話!」

「えっ? どんな話を……」

「はい! 結婚の話とか、付き合う前の話とか……」

「でも、星宮先生が考えてるようなそんなロマンチックな告白ではなく……。消極的な彼氏に私が我慢できなくて……、ついクリスマス当日に食べちゃいましたぁ〜。えへっ」

「…………」

「あ、やっぱりこういう話好きじゃないですよね?」

「い、いいえ!! 私はいいと思います!」


 実に興味深い……!

 中山先生はそう見えなかったけど、意外と大胆な人だったんだ……。


「ふーん。もしかして、星宮先生もこっち?」

「は、はい……?」

「なんでもないです〜」


 微笑む中山先生は窓の外を眺めていた。

 こっちって言われたけど、こっちの意味をすぐ聞けない私だった。


「もう三十代の私がこんなことを言うのは良くないと思いますけど……。好きな人ができたら取られる前に……、襲った方がいいかもしれません……。もちろん、相手の気持ちを確かめた後に!」

「や、やっぱりそうですね? 同感です!」

「ふーん。星宮先生、やっぱり肉食系だったんですね」

「えっ? それって……?」

「積極的な女性ってことです」

「へえ……、そういう言葉もありましたか……」

「ふふっ」


 積極的……、私は積極的な人なのかな……? よく分からない。

 あの人にはずっと面倒臭いって言われたから……、いつの間にか必要な時にだけ声をかけるようになってしまった。本当に何が足りなかったのか、私はずっと分からないまま……二人の関係が終わってしまった。なぜ? 私は彼女としてずっと頑張っていたのに、結局……捨てられちゃった。


 だから、幸せな人生を送っている中山先生が羨ましくなる。

 私もそうなりたい。


「…………っ」


 いけない、いけない……!

 今はあかねくんがいるから、あんな人早く忘れないと……。


「…………今はどんな感じですか? 好きな人と」

「ど、どんな感じって言われても……。友達……ですね」

「友達……。じゃあ、スキンシップとかは?」

「私の方から一方的に抱きしめたり……しますけど。で、でも……。それは私が酔っ払った時だから仕方がないことだと思います。普段は……何もしません……」


 すると、微笑む中山先生。


「ふーん、いいですね〜。それもまた恋の形、星宮先生はあの人とどうなりたいんですか?」

「えっ!? そ、それはまだ……。考えたことないんですけどぉ…………」

「じゃあ、方法は一つだけですね?」

「はい?」

「聖なる夜に、彼を家に誘って食べちゃいましょう!」

「…………そ、そんなことをしてもいいですか?」

「もし、相手も星宮先生のことが好きだったら何もできなくなるはずですよ? 好きな人が襲ってくるのに、そこで避ける男はいないと思います」

「は、はい……」

「取られる前に、食べちゃいましょう〜。そこが大事!」


 確かに、中山先生の話も悪くないと思う。

 でも、あかねくんとあんなことできるかな……? 一応、私の話ならなんでも聞いてくれるけど……、それとこれは別だから少し悩んでいた。そしてあかねくんはあの人と違って私に優しくしてくれるし……、きっと面倒臭いはずなのに、それでも私のそばにいてくれるから。私はそんなあかねくんがいなくなるのは嫌だった。


「…………」


 中山先生と別れた後、すぐあかねくんにラ〇ンを送った。

 多分、不安だったかもしれない。


『ねえねえ。今日、迎えに行くから……うちに泊まってくれない?』


 送っちゃったぁ……。

 でも、家なら誰にもバレないし、あかねくんにも特に問題ないと思う……。


『遅くなる前に帰る予定なので無理です。それより、今日はイブなんですけど……』

『今日、一緒にいたいから! ダメ……?』

『ダメです』


 授業入る前に私は一体何を……。


『なんで? バイトに行くのは午後でしょ……? 翌朝までうちでゆっくりして! そして、夜になったらまた迎えに行くから!』

『嫌です』


 なんだよ……。この反応は!


『放課後、あかねくんは反省文を出しなさい』

『えっ!?』

『うるさい! ここは学校だから、あかねくんは先生の言う通りにしなさい!』

『はい……』


 なんでも聞いてくれるって言ったくせに、こんな時はすぐ断るからムカつく……。

 教師と生徒の距離感はちゃんと知ってるけど、卒業まで長いんだよぉ……。

 私はあかねくんと楽しいことをしたいのに、ずっとこんな風に断られたら……いつかあかねくんにも捨てられるかもしれない、と思っていた。私の中にある不安の塊がどんどん大きくなっている。


 すべて、あの人のせい。


「…………ふぅ」


 息を吐いて冷静を取り戻す。今はあかねくんだけを考えよう……。

 あかねくんの笑顔……、そしてその声……、私は好きぃ。


「…………」

「おお! 星宮先生だ〜!」

「静かに! 授業始めます!」

「先生! クリスマスに予定ありますか!」


 また、安田なの……?


「はい! すごく大事な約束がありますよ?」

「デートですか!? えっ! 彼氏?」

「ううん……。そうかもしれませんね」

「えええええ!!!」

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