16 クリスマスの予定②

 先生がどうしてそんなことを言ったのか、そしてそれを言う時の顔……。

 なんか……、想像してたこととちょっと違うような気がする。

 俺には絶対そんなこと起こらないと思ってたのに、それでも……先生めっちゃ照れてたから余計に気になる。なんで、生徒の俺にそんなことを言うんだろう。もしかして、先生が言った友達って……、恋人っぽいことをする関係だったのか……? あるいは、元カレとできなかったことを俺とやりたかったり……。よく分からない。


 とにかく、今の先生はやばい。


「ダ、ダメなの……?」

「い、いいえ……。それより、一つ聞いていいですか?」

「うん」

「先生は……、その……。寂しいんですか?」

「うん。そうだけど……? だから、今あかねくんと一緒にいるじゃん」

「ですよね……」


 馬鹿馬鹿しいことを先生に聞いてしまった。

 まあ、彼氏と別れたから当然なことか……。


「ねえ、私も聞きたいことあるけど」

「はい」

「クリスマス予定あるの?」

「はい」

「…………」

「さ、最後まで聞いてください……。バイトですよ、バイト……!」

「バイト……、クリスマスにバイト……?」


 頬をつねる先生に、なぜか恐怖を感じる俺だった。

 前にはバイトをしても、「そう? バイトなら仕方ないね」みたいな雰囲気だったけど……。どうして、今回は眉を顰めるのかさっぱり分からない。昨年のクリスマスもバイトだったし……、今年も当たり前のようにバイトだった……。


 俺には選択肢などないのに……、あの二人は全然分かってくれない。

 先生はいいな……、大人だからなんでもできるし。


「私! た、たまには二人でどっかに行きたい!」

「二人で……、どこかに……って?」

「イルミネーションとか! えっと、ケーキとか! クリスマスツリーとか! いろいろあるじゃん!」

「先生の話は理解しました。でも、なるべく家でできることを……やりましょう。お願いします」

「…………」


 また、頬をつねる先生。


「せ、先生……?」

「じゃあ、あかねくんがうちに来てくれるなら……。それ、できるかも……」

「先生の家……」

「そう! クリスマスだから、あかねくんと一緒にいたい……。昨年は一人だったから、今年は……一人になりたくないよ……」


 あの時ならきっと彼氏いたはずなのに、昨年は一人だったのか……。

 クソ男だな、あの人。


「は、はい……! 分かりました! でも、バイトは十時頃に終わるから……間に合わないと思いますけど……」

「私、車持ってるから迎えにいくよ〜」

「…………」

「どうしたの?」

「いいえ、ちょっと……なんか友達以上のことをやってるような気がして」

「別にいいじゃん〜」

「よくないですっ!」


 先生と二時間くらい話しただけなのに、疲れてしまった。

 距離感とか、もうどうでもいい……。

 今は先生と一線を越えないように、注意するだけでいいと思う。


「…………」


 なんか、疲れたから早く寝たい……。


「ねえねえ! あかねくん! 見て見て!」

「なんですか?」


 ビールとおつまみ……。


「先生、うちで飲む気ですか?」

「当たり前でしょ? 明日、クリスマスイブだから!」

「それとビール、関係ありますか……?」

「ない! ただ、飲みたいだけ! あかねくんのもちゃんと買ってきたからね〜! ジュースだけど〜」

「あ、ありがとうございます」


 そして夜の九時、二人っきりのこの時間は先生にも俺にもいいことだと思う。先生はストレスを溜め込む人だから……、俺とこうやってストレスを発散しないと、すぐネガティブモードになってしまう。


「美味しい〜。ビール最高!」


 真っ赤になった顔で俺と腕を組む先生。

 さっきからそばで「えへへ」って笑ってるし、酔った先生はやはりこうなるのか。

 うん……。こうなったら、もう俺の話なんか聞いてくれないかもしれないな……。


「ねえ! あかねくんは私のことどう思ってる?」

「はい……?」

「年の差はあるけど……、それでも! 私! 可愛いし、みんなに美人って言われてるから!」


 待って、先生……今なんって……?

 もしかして、酔っ払ったのか!

 しかも、自分のことを可愛いとか美人とか言ってるし…………。ビール、怖いな。


「なんで、何も言ってくれないの? 私はずっと……、あかねくんと仲良くなりたくて、頑張ってきたのにぃ……」

「はいはい。俺も先生と仲良くなりたいです」

「それだけじゃないよ!」


 ドン! と、ビールをテーブルにおろして、なぜか怒り出す先生だった。


「は、はい……?」

「もっと……! その……、先生……実は初めて出会った時から好きでしたとか!」


 はあ? なんだ……、その少女漫画に出そうな恥ずかしいセリフは。

 それに恥ずかしいことを言ってる自覚がない!


「先生、今日はもう飲まない方が……」

「やーだ! 今飲まないと……、家に帰った後は一人で寂しくて死んじゃうから」

「先生、一応言っておきますけど、ビール飲んだから今日は運転できません。そして今は夜の十一時です」

「じゃあ、今日はあかねくんと一緒に……♡」

「えっ?」


 先生は絶対飲み会とか行かない方がいいと思う。


「えへへっ、テンション上がるぅ〜!」

「…………」

「えーいっ!!」

「せ、先生……!」

「わぁーい! あかねくんだぁー」


 ビールの匂いがする先生が、俺に抱きつく。

 今日は……、まじでやばいな。


「あかねくん〜。あったか〜い」

「…………」

「このまま寝よう……」

「えっ? せ、先生……?! お、起きてください!!」

「…………おやすみなさい……」

「先生!!!」

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