15 クリスマスの予定

「あれ? 今日はバイト休み……?」

「はい」

「へえ……、そうなんだ!」


 急にテンションが上がる先生。


 今日はシフトが入ってない日だから一人で勉強をしていたけど、先生がさりげなくベルを押して、また二人っきりになってしまった。それに普段は全然使わないこたつまで出して、先生とくっついているこの状況……。「冬はやっぱりこたつだよね〜」と言っているけど、そんなことより先生の方が気になる。


「おいひい〜」


 てか、さりげなくみかん食べてるし……、今日は何しにきたんだろう。

 それになんっていうか……以前とは違って、何かをたくさん買ってきたような気がする。


「あかねくんも食べる?」

「えっ? じゃあ、一つだけ……」

「あーん」

「そっちですか……?」

「当たり前でしょ〜?」


 委員長が貸してくれたノートで勉強をしていたけど、今日はこの辺で終わらせた方がいいかもしれない。

 あれ? そういえば先生……、さっき俺のことを下の名前で呼んだよな……?


「先生、呼び方変わりましたね」

「うん! いいよね? 友達って感じ!」

「はい」

「ねえ! あかねくん」

「はい?」

「手、温めてくれない……?」

「そうですね。外は寒いんだから……、カイロとか持ってきます」

「そ、そっちじゃなくて……! その……」

「…………」


 なんだ……、この静寂は。


 寒さのせいか、あるいは照れてるからかは分からないけど、それは何かを期待しているような顔だった。手が冷えたから温めてほしい、それって……つまり俺の手で温めてほしいってことだよな? 距離感についてそんなに言ってあげたのに、生徒が先生の手を触るなんて……、よくないとは思わないのかよ。先生は……。


「…………っ」


 それにそんな可愛い顔をして、こっちを見ると……断りづらいだろ!


「先生、近いです」

「いいじゃん〜。誰も見てないし〜」

「…………」

「手、温めて! あかねくん」

「…………」


 先生の笑顔、なぜかお母さんと似ている。

 もしかして、これだったのか? 俺がずっと先生の笑顔が見たかった理由……、そしてネガティブモードにならないように頑張ってきた理由。そういえば、最近お母さんと話したことないよな。まあ、そっちに行ったとしても俺と話ができる状態じゃないから……、仕方がないか。


「……あ、あかねくん?」


 先生を見ると、なぜかほっておけないって気がする。

 だから、俺は先生の手を握った。


「うう———っ! あったか〜い!」

「先生、俺なんかと手を繋いでなんの得があるんですか? 他にいい人、見つけた方がいいと思いますけど……」

「えっ? なんの話……? わ、私のこと飽きちゃったの……? やっぱり、私は捨てられちゃうの……? あかねくんに……」

「いいえ。先生の言うことならなんでも聞いてあげますけど、今みたいに手を繋ぐのはよくないと思うます。それだけ!」

「なんで……? な、なんで……? 私の言うことならなんでも聞いてくれるのに、どうして手を繋ぐのはダメなの?」

「だって、先生ですよね?」

「…………そんなこと関係ないじゃん。今は学校じゃないから、そんなこと関係ないじゃん!」


 今は怒る状況じゃないと思うけど、先生めっちゃ怒ってし……。


「やっぱり、萩原さんだよね? あかねくん」

「えっ? 委員長ですか……?」

「そう、この前に二人でイチャイチャしてたし……! そして、私とぶつかったじゃん」

「そ、それは……。お昼を食べにいく時、先生が来るのを言ってあげなかった俺のせいです……」

「とにかく!」

「ええ……」

「浮気! それとも、の……乗り換えなの……?」


 先生は一体何を考えてるんだろう……。

 なんで距離を置こうとしたら、すぐこうなってしまうんだろう……。


「…………」


 俺にはよく分からないことだった。

 別に嫌いとかじゃないけど、先生すぐパニックになるし……。どうしたらいいのか全然分からない……。俺はただ、先生と正しい関係を作りたかっただけなのにな。


 今の先生は……なんっていうか、俺にすごく頼ってるように見える。


「変なこと言わないでください。そんなことしません!」

「う、うん……。でも……」

「そんなことしませんよ」

「本当?」

「はいはい」


 てか、手を離してくれないんだけど……? なぜ!?


「なんで、そう言いながら手を離そうとするの……?」

「えっ? あ……、これはもういいんじゃないかなと思って……」

「もうちょっと、このままでいたい……」

「は、はい……」


 先生はずっと俺のそばにいようとする。

 俺が先生にやってあげられるのも限界があるのにな……。


「ねえ、あかねくん」

「はい?」

「私、あかねくんと出会って本当に幸せだよ。知ってる?」

「えっ? 俺ですか?」

「そうよ。私にはずっと元カレしかいなかったからね。こんな風に優しくしてくれた人も全然なかったし……、あかねくんが初めてだから」

「…………」

「距離感がおかしくなっても気にしない! 今はあかねくんのそばにいるだけで幸せだから! 他の人に何を言われても気にしない!!」

「……そ、そうですか?」


 先生、今すごいことをさらっと言ったような気がするけど……。

 つまり、俺と一緒にいるのが好きってことか。


「私のこと……、もっと気遣ってほしいの。ダメ……?」

「…………」


 そばから俺の袖を掴む先生、それは……つまり…………。

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