14 のあ

 カラオケもダメだったし、クリスマスも忙しいし……、本当にあかねくんのこともう分からなくなってきた。私たちは中学生の時からずっと友達だったのに、二人の間に何も起こらないのはひどくない……? せめて、手を握ったり……。それくらいは普通にできると思うけど、私たちの間には本当に何もなかった。


 そしてクラスの女の子たちはすでに私たちの関係を疑っていたけど、それでもあかねくんは私のことを全然意識してくれない。

 何も変わらない。


 いつも、バイトばっかりで……話をかけてもあの時と同じだった。

 もしかして、私は女の子として魅力がないのかな……?


「皆さん、おはようございます」

「先生! 今日も美しいっす!」

「はい。安田くんは座ってください」

「先生とデートしたいです!」


 本当にバカみたい。

 クラスの男子全員……いつも美しいとかデートしたいとか、そんな馬鹿馬鹿しいことしか言わないから飽きてしまった。星宮先生は確かに可愛くて、美人で、男性の保護本能をくすぐるような顔をしてるけど……、人の前でそんなことを言う男子は本当に最低だ。


 あかねくんのこと、少しでもいいから見習ってほしい。


「で…………、また?」


 そして、今日も当たり前のように寝ているあかねくんだった……。


「起きてよ。あかねくん! 次は体育授業だから……!」

「そ、そっか……。バイトのせいで全然寝られなかった……。ありがと、委員長」

「全く……。最近、遅刻しないのはいいけど……授業中に寝ると意味ないでしょ?」

「はいはい……。次は注意しまーす」

「よろしい!」


 私の話をよく聞いてくれる人、あかねくんはクラスの男子たちと違って真面目な人だった。この前まで遅刻するのが問題だったけど、私に怒られた後はそれをちゃんと守っている。そういうところが好きだったから……、あかねくんを四年間見てきたかもしれない。「好き!」と、知らないうちに自分の気持ちを伝えたくなるけど、私はずっと我慢していた。


「体育、面倒臭い……。もうちょっと寝たい」

「ダメェ!!」

「はい……」


 この軟弱者……!


 でも、なぜバイトばかりやってるのかはまだ聞いてない。

 きっとそうしないといけない理由があると思って、私はただあかねくんのそばにいるだけだった。今のあかねくんはノートとか、学校のこととか、私がいないといろいろ困るから。それに好きだから、ずっとあかねくんのことをサポートしたかった。


「バスケかよぉ……。委員長……」

「行ってこい!!」

「はい……」


 そして、私が一番好きな体育授業が今始まる。


「今日男子たち、バスケやるよね?」

「そうだね……」

「で、のあちゃんはいつ九条くんに告白するの?」

「えっ? な、何を……?」

「ええ……、いつも九条くんと話してたじゃん。ねえねえ、聞かせてよ〜」

「べ、別に……! 私たちはただの友達だから!」

「え、そうなの? でも、九条くんは無口だけど……意外とカッコいいから誰かに取られるかもしれないよ?」

「そ、それは……」


 そう……、私のあかねくんはカッコいいからほっておけない……。

 なぜか、不安になる。

 一応二年生の中では安田が一番人気あるけど、あんな変態より私のあかねくんがもっとカッコいいから……。


 私がもっと頑張らないといけない。


「…………」


 誰かに取られるって、そんなこと考えたくないけど……。

 気になるのは仕方がないよね。


「おっ! のあちゃん、見た見た? さっきのダンクシュート!」

「うん。見たよ」

「九条くんって意外と運動できる人だったんだ〜」

「そうだよ」


 やっぱり、私のあかねくんが一番カッコいい……。


 ……


「委員長……」

「うん? どうした? あかねくん」

「俺、数学できないんだから……ここ教えてくれない?」

「ふふっ、うん。どれどれ……」


 中学生の時もそうだったけど、私に頼るあかねくんは可愛い! 超可愛い!!

 なんか、あかねくんのことを独り占めしてるような気がする。


「ここは……こうして、この数式に———」

「へえ……、そうだったんだ。やっぱり、委員長頭いいね」

「ふふっ。でも、あかねくん……?」

「うん?」

「この問題、私が二日前に教えてあげたような気がするけど……」

「……ち、違う! 俺ちゃんと勉強してたから……! 本当だぞ!」

「なのに、どうして自分の力で解けないんだよぉー!」

「ご、ごめんなさい!」


 やっぱり……、今のままでいいと思う。

 まだ、私たちに時間はたくさんあるから……焦らなくてもいい。私が守ってきたこの関係は絶対壊れない、今は「九条と付き合ってる?」って誤解してる人もいるし。そう、それは私が作った完璧な状況。だから、卒業するまで誰も私のあかねくんに手を出せない。


 あかねくんは私の物、ずっと……そうだったよ。


「ふふっ〜」

「なんか、今日怖いんだけど……? 委員長……」

「なんでもな〜い。あっ! あかねくん、今日お昼どうする? 売店行く?」

「いや、お弁当作ってきたから」

「あれ? また〜?」

「そう。じゃあ、行ってくるから」

「えっ! 私も一緒に行きたい〜! 待って! あかねくん……!」

「えっ? ちょっと……! そこで待っ———」


 急いでいた私は、職員室に向かっている星宮先生とぶつかってしまった。


「うっ……!」

「す、すみません。先生、大丈夫ですか?」

「あっ、うん! いいよ。歩く時はちゃんと前を…………見てぇ……」

「すみません! 星宮先生……、私のせいです!」

「ううん……。大丈夫……、次は気をつけてね」

「は、はい……」


 やっぱり……、綺麗で優しい人だ。

 でも、私のあかねくんはそんな星宮先生に全然興味がない。


「そう! あかねくん、最近どうしたの? ずっとパンだったのに……、本当に料理とか始めたの?」

「まあ、最近……白ご飯が食べたくてさ……」

「なんだよ〜。それ」

「旨い〜」

「私も食べたい! おかず交換しよ!」

「はいはい」


 あかねくんは絶対……私を離れないから、今は見守るだけでいいと思う。

 それだけ。

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