12 素朴な疑問②

 先生が作ってくれたおかずはめっちゃ旨いから……、またパンばかりの日々になるのが怖くなる。とはいえ、先生に頼むのもあれだし……。いつかまた作ってくれるんだろう……と一人でそんな期待をしていた。


 今日の夕飯も当たり前のように先生からもらったおかず。

 当分、これでいけそう。


「皆さん、集中してください〜」


 そして、今は先生の授業……。


「…………ん?」


 へえ……、お前ら全員教科書じゃなくて先生の方を見ていたのか……。

 特にイケてるグループの安田やすだが先生の方をジロジロ見ていた。やっぱりあいつは先生に興味あるかもしれないな。休み時間にも先生の声がめっちゃ可愛いとか、小さいくせには大きいとか……言ってたし。


 人の前で堂々と付き合いたいとか……、そんなことを言うやつだから。

 どうしてあんなやつが女の子にモテるのか、俺にはよく分からなかった……。


「ふーん」


 それと、最近先生がいないところでよく下ネタを言ってるような気がする。

 先生……ずっとあいつらのこと無視してきたから仕方がないか。


「九条くん!」

「は、はい……!」

「授業に集中してください!」

「はい……。すみません」


 なんで、俺が怒られるんだろう……。

 あいつらも集中してないのに。


 それに、俺はどうしてあいつらに睨まれてるんだろう……。


「はあ……、面倒臭いな……」

「あかねくん、またぼーっとしてたよね?」


 放課後、委員長にも怒られてしまう俺の可哀想な人生に涙が出た……。


「別に……、今日はバイトあるから帰る。またな」

「あのね! あかねくん、もうちょっとでクリスマスだから……!」

「クリスマス? あっ、うちの店でクリスマスの限定……」

「違う! あの日は一緒に遊びたいから、クリスマスに絶対バイトしないで!」

「俺が店長だったらそんなことできるかもしれないけど、委員長……ダメって知ってるよな。バイトをしないと、今月の家賃払えないかもしれない……」

「…………もう! 知らない!」


 あ、俺……完全に嫌われたよな。

 でも、仕方ないと思う。働かないと、お金は俺のところに来ないから……。裕福な委員長ならクリスマスに友達と楽しめるかもしれないけど、俺にとってお金は血と同じことだからなくならないように頑張るしかない。


 どうせ、委員長には分からないよな。

 言ったこともないし……。


「はあ……」

「あっ!」

「す、すみません……。あれ、先生?」


 廊下の曲がり角で先生とぶつかってしまった。


「今からバイトですか? 九条くん」

「は、はい……。そうですけど……」

「今日は寒いから、気をつけて帰ってください」

「はい……」


 あれ、なんか怒ってるように見えるけど、俺もしかして先生に変なことでもしたのか……? 分からない。


「…………」


 先生のその顔は初めて見た。

 それより、先生のことが気になって仕事が全然できない……。普段ならすぐ笑ってくれる先生なのに、帰る時のその顔は俺に何か言いたいことでもありそうな……、そんな顔だった。


 そして、怒ってたような気がする。


「うう……」

「どうした? あかね」

「いいえ、なんでもないです」


 そして、先生からラ〇ンがきた。


『話したいことがあります。今日は早めに帰ってください』


 えっ、敬語……?

 今までずっとため口だったのに、いきなり敬語か……?


「…………」


 一体、どんな心境の変化があったんだろう。


「今日は……寒いんですね」

「まあ、十二月だしな……」

「いいえ、そういう意味ではありません……」

「はあ……?」


 そして、先生は当たり前のようにマンションの前で俺を待っていた。


「お帰りなさい」

「は、はい……」

「入りましょう」

「は、はい……」


 ええ……、急に冷たくなった……?

 今日はまさか……、帰る時まで先生に説教されたりしないよな……。


「ふう……」

「どうしましたか? 先生」

「あのね、素朴な疑問なんだけど……」

「はい」

「一応、気になるから……聞いてみたいんだけど……!」

「はい……」


 なんだ、俺の部屋で一体何が起こってるんだ……?


「同じクラスの萩原さんとどんな関係……?」

「…………」


 俺が予想していたことと全然違って、一瞬……頭が真っ白になる。

 委員長とどんな関係……? 先生はどうしてそんなことを聞くんだろう……? それは中学生の時によく言われたことだけど、俺と委員長は……ただのクラスメイトで友達だから、そんな真剣な顔をしてもそれしか言えない。


「普通の、クラスメイトですよ……?」

「嘘! 普通のクラスメイトなら一緒にお昼を食べたり……、カラオケとか、クリスマスとか…………女の子に誘われるわけないでしょ!」

「えっ? 一応、カラオケもクリスマスも全部断りましたけど……」

「そ、そうなの……?」


 なんで、それを知ってるんだろう……。


「はい。実は今日カラオケ行こうって言われましたけど、そんな暇ないから断りました。そしてクリスマスのこともそうです。あの日もバイトで忙しいから断りました。先生が聞きたいのはそれだけですか……?」

「……でも、一緒にお昼食べたじゃん!」

「ええ……、それは委員長が勝手に来ただけですよ……?」


 まさか、ご機嫌斜めだった理由はそれだったのか……?

 本当に怒った理由がそれだったら、俺は先生に何も言えないんだけど……。


「友達いないって言ったくせに……、友達いたじゃん!」

「それを友達って……。まあ、一応友達ですけど、委員長とは何もやってないから心配しなくてもいいと思います。先生…………」

「……っ。お、男と女が友達でいられるわけないでしょ!!」

「…………」


 その話を聞いた後、人差し指で俺と先生を指した。


「…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る