7 教師と生徒②

 吉村先生よりテンションが高い人。そして何かあったらすぐ落ち込む人……、それが星宮先生……。そういえば、俺いつの間にか先生と連絡先を交換し、おかずをもらう関係になってしまったけど、これはどんな関係だろう……。


 やっぱり、友達かな……?


「ねえ! あかねくん!」

「お、おっ……! び、びっくりした」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。ぼーっとしてたからさ」

「ねえ、あかねくんも星宮先生に興味あるの……? さっき二人で歩いてるのを見たけど……」


 俺と先生が歩いてるのを見たのか……?

 化学室ってクラスからけっこう離れてると思うけど……、不思議だな。


「あっ、うん。先生、重そうな箱持ってたから……運んであげただけ」

「そっか……! 私、あかねくんが先生のこと好きになったのかなと思ってたよ!」

「委員長…………」

「あかねくんはそんなことしないよね? 私はあかねくんのこと信じてるよ!」

「えっ? そうか……?」


 よく分からないけど、俺は委員長に信頼されているようだ。

 彼女の名前は萩原はぎわらのあ。

 俺たちは中学二年生の時からずっと同じ学校で、同じクラスだった。彼女はあの時も今もずっと委員長をやっている明るくて頭のいい女の子。そしてあの時から委員長に気遣われているような気がする。なぜだろう……? それだけはどうしても分からないことだった。


 俺と違って陰キャでもないのに、どうして……?


「あかねくん、今日もバイト?」

「だよな……。俺、毎日バイトだからさ……」

「い、一日くらい休んでもいいじゃん……! 毎日バイトは働きすぎ!」

「でも、俺……働かないといけない体になってしまったから」

「なんだよ……。それ!」

「俺にもよく分からない」

「あかねくん……、勉強する時間はあるよね……?」

「…………」


 なぜか、委員長に怒られた。

 今更だけど、「あかねくん」か……。

 俺は中学生の時から萩原のことを委員長と呼んだけど、委員長はいつの間にか俺のことを下の名前で呼んでいた。たまに「二人、付き合ってるのか」って周りの人に誤解される時もあるけど、俺が委員長とそんな関係になる可能性はゼロに近い。


 多分、委員長もそれくらい知ってるはずだ……。


「私も……、あかねくんのバイト先じゃなくて……」

「うん?」

「たま〜に、カフェとか行ってみたいのに……」

「委員長、友達とカフェ行きたいのか?」

「じゃなくて! その……、あかねくんと一緒に行きたいってこと!」

「俺と?」

「そう!」

「なんで……?」

「…………」


 一応、俺は「一緒にいてつまらない男」ってよく言われそうなイメージだから。

 そんな俺とカフェに行っても……、面白くないと思う。

 そして……最近流行ってることとか全然分からないし、女の子と話したこともないから、委員長と何を話せばいいのかそれも全然分からない。自分が陰キャってことくらい自覚しているから、委員長がなぜ俺を誘うのか疑問だった。


 本当に理解できない。


「なんでもない……! 早く行こう!」

「う、うん……」


 ……


 放課後、すぐバイト先に来て仕事をしてるけど、やっぱり委員長の顔が気になる。

 俺と委員長はただの友達……。

 一人しかいない友達だけど、俺も委員長のことを全部知ってるわけじゃないからどうしたらいいのか分からなくなる。俺とカフェに行きたいって言った理由はなんだろう。デート? あるいは、一緒に勉強? どうしてそんなことを言ったのか、全然分からない。やっぱり……女の子は難しいな……。


 委員長とはほとんど勉強の話ばっかりだったから。


「あかね〜」

「は、はい!」

「この前、うちの店にめっちゃ綺麗なお客様が来たぞ?」

「へえ……、そうですか?」

「それにチーズケーキも十個買ってくれたぞ! すごくね?」

「へえ……、それはすごいですね」

「で、誰だろう? あのお客様にうちの店を紹介してあげた人……」


 うん……? ちょっと待って。

 あのチーズケーキを買った人って……、まさか。


「店長。あの綺麗なお客様って、もしかして身長低いんですか?」

「おっ? どうして分かるんだ? あかね、エスパーか?」

「違います……。それに、スーツ着てましたよね?」

「そうそうそう!」


 やっぱり、先生だったのか……。

 しかし、すごい行動力だな。すぐ買いに行くなんて……。


「知り合いか!?」

「は、はい……。一応……」

「じゃあ、これ持っていけ! めっちゃ可愛かったよな〜、あのお客様……。また来てほしい」

「は、はい……」


 また、ケーキをもらってしまった……。

 しかし、なぜ……俺は「一応」って答えたんだろう。

 先生ですってはっきり言えない理由はどこに……、俺のこともよく分からなくなってきた。


「お疲れ様です〜」

「おお〜、気をつけて帰れよ〜」


 ……


「うっ……、相変わらず寒いな……。だから、冬は嫌い……」


 強い風に、ふと先生のことを思い出す。

 まさか、また外で俺が帰るのを待てたりしないよな……?


「…………」


 え、外で待ってるじゃん!

 なんで……? 先生、車持ってるのに……なんでまた外で待ってるんだ?

 それより、先生今日来るって言ったっけ?


「あっ、先生! す、すみません……。遅くなって……」


 約束はしてないけど、なぜか謝らないといけないような雰囲気。


「う、うん……」

「あ、あの……。車の中で待っても…………」

「九条くんが……、返事しないから……何かあったのかなと思って……」


 あっ、そ、そうだ……。

 先生、「ラ〇ン確認してね」って言ってたよな……。


「す、すみません……。うっかりしました」

「ううん……」


 スマホを出して、先生からのラ〇ンを確認した。

 待って、三〇件……? 待って待って、見間違え……?

 一応、ラ〇ンのことは後にして……。

 先生……、顔も手も真っ赤になってるから……。


「あの……」


 さりげなく先生の手を触ってみたけど、どうやらずっと外で待っていたらしい。

 すげー冷たい、まるで氷を触ってるような気がする。


「寒い……。ごめん、九条くんが来ないから……待ってたよ。ここで見れば……! 遠いところまで見えるから、ずっと待ってたよ……。バカみたいだね? 私……」

「入りましょう。すみません、ラ〇ンを確認しなかった俺のせいです」

「ううん……。ちゃんと言ってあげなかった私の方が悪い……」


 そして、また先生におかずをもらってしまった。

 こんなにたくさん……、旨そう。


「あの、今すぐ暖房つけますから……待ってください……!」

「う、うん……!」


 部屋の中で、みなみは自分の手を見つめながらじっとしていた。


「九条くんの手…………、すっごく温かい……」

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