5 新しい担任、星宮先生③

 うう……。どうして、こうなったんだろう……?

 確かに……先生と元カレの話をして、一緒に夕飯を食べてたけど、いつの間にか、俺の前でうとうとしている。このままほっておくと、またうちで寝落ちしそうだ。てか、先までめっちゃ泣いてたのに、今は変な寝言を言いながらテーブルに突っ伏している。


 先生、本当に大丈夫かな……?


「先生……、早く帰らないと……。先生?」

「ううん……。ごめんね、今何時……?」

「十一時半です。でも、先生ビールを飲んだから……運転できませんよね? どうします?」

「あっ、そうだね。うっ…………、頭が痛い」

「大丈夫ですか?」

「うっ……。九条くんがそばにいてくれて、本当に嬉しい……」


 また、泣き始める先生……。


「先生……、もう泣かないでください。それに……先生が生徒の家にいるのはよくないと思います。時間も遅いし……」

「私、このまま追い出されるの……?」

「さすがに、そんなことはできません。でも、先生明日学校に行きますよね?」

「うん……」

「はい。帰りましょう」

「あの……、あのね! 私たち、友達になれるかな……?」

「えっ?」


 先生の口から出た不思議な言葉「友達」。

 それ……、教師が生徒に言っていいも言葉なのか?

 でも、友達いないって言ったから先生も一人で寂しかったはず。とはいえ、生徒と友達になれるのか……? もし、卒業したら先生と友達になれるかもしれないけど、今の話にどう答えたらいいんだろう。


 てか、こっち見てるし……。


「ダメ……? やっぱり、私みたいな女は気持ち悪いよね……? だから、彼氏に振られて道端で…………」


 彼氏と別れたのがかなりショックだったみたいだ。

 まあ、一応うちの担任だから……断るのもあれだし。もし、先生が内緒にしてくれるならそれも悪くないと思うけど……。でも、やっぱり教師と生徒が友達になるなんて……あり得ない話だよな。


 そんなことよくないって俺も知ってるけど、断ったら……また泣いちゃうよな。


「はいはい。先生、友達……しましょう」

「本当に……? 私の友達になってくれるの……? 友達ってあれだよね? 一緒に映画を見たり、悩みこととか聞いてあげたり、遊園地に行ったり、そして思い出をたくさん作る……そういう関係だよね?」

「それは普通のカップルですけど……?」

「そ、そうなの……? 私、友達いないから……全然知らなかった」


 どうやって、教師になったんだろう。


「悩みことがあるなら聞きます。でも、先生とそれ以上のことはちょっと……」

「ダメなの?」

「えっ? あ……、いいえ。ダメっていうより、先生の距離感がちょっとおかしいっていうか……。一応、生徒ですから……」

「よく言われる……。でも、私……ずっと勉強ばっかりでね。高校卒業した後、すぐ大学に行って、教師になるためにまた勉強ばっかりで……。友達を作る暇なんか全然なかったから……。よく分からない」

「へえ……、先生ってすごく頭いい人ですね。あっ、先生だから当然ですよね。すみません……」

「九条くん、なんか可愛い!」

「そ、そうですか?」

「うん、私の元カレと違って……可愛いよ。私は彼氏のためにずっと……、いろいろ頑張ってきたのに……彼氏はそんな私が面倒臭かったかもしれない。いまだに覚えている……、その言葉……」


 ビールを飲みながら、我慢していた言葉を一つ一つ言い出す先生。

 それより、また飲むのか……?


「九条くんは彼女とか作らないの?」

「いらないです。邪魔だから」

「どうして?」

「一応……、俺も友達がいないんで……。今はバイトだけで十分だと思います」

「大人っぽい〜」

「そうですか? ずっと一人暮らしをしていたからかもしれません。誰かと付き合うとか、そういうことを考えたことないから。どうすればいいのか、俺にもよく分かりません」

「…………」


 先生の顔……、どんどん赤くなっている。

 飲んだことないから分からないけど、ビールってすごいな……。

 てか、飲み過ぎだと思うけど、俺と普通に話してるし……いいかな。


「うう……、一人ぼっちは嫌だぁ……」


 酔いのせいか、急にブラウスのボタンを外す先生にビクッとした……。


「ちょ、ちょっと先生! 俺まだいますよ!」

「あっ、そうだね……。へへっ」


 へへっってなんだよ。下着、見えるかもしれないのに……。


「やっぱり、……」

「はい?」

「う、ううん……。なんでもな〜い! へへへっ、なんか暑くなったよね!」

「飲み過ぎです。先生」

「ねえ、先週もこのベッドで寝たからまた九条くんの家に泊まっていい?」

「…………えっ? うちに?」

「うん! 問題ないよね?」


 まさか、先生……ビール飲んで運転できないから、わざわざ……?


「ダメ……?」

「その前に、今まであったことをすべて内緒にしてください。これはうちに泊まるための条件です」

「はい! 約束します!」


 そう言ってから、さりげなく男のベッドに飛び込む先生だった。

 よく分からない……。先生、本当に無防備すぎる。

 俺が何もしないって知ってるからか……? それでもみんな美人美人って言ってる先生と同じ部屋にいるから……、なんか落ち着かない。今まで俺とこんな風に話した人は委員長しかなかったのに、俺より年上の先生とさりげなく話すなんて……ちょっと不思議だった。


「ひひっ、早く片付けて寝よう! 九条くん!」

「はいはい」


 だらしない先生と友達だなんて、人生って本当に面白いな。


「なんか、テンション上がる〜!」

「飲み過ぎです……。先生」

「そうかな……? ひひっ」

「じゃあ、おやすみなさい。先生……」

「うん。おやすみ、九条くん……。そして、ありがとう」

「いいえ……」


 月明かりが差し込む部屋の中で、眠れないみなみがあかねの方を見ていた。


「見つけたかも……」

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