3 新しい担任、星宮先生
寝不足だけど、遅刻はダメだから……早く学校に来て机に突っ伏して寝ていた。
一人で寝るこの時間は本当に幸せ。
それに今は学校にいるからもう仕事しなくてもいいって、自分に許されたような気がする。なんか、俺はお金を稼がないと何もできないって……そう考えてしまう。吉村先生と相談した時も、まだ学生だからお金よりもっと大事なことがきっとあるはずだよって言われたけど……。それは裕福な家庭で育てられた人の話だ……。
つまり、俺とは関係ないこと。
「あれ……? 早いね、あかねくん」
「おっ、委員長〜」
「昨日はちゃんと勉強したの?」
「ううん……。バイト…………」
「ええ……」
「食べる? さっき買ってきたけど……」
「おお……! 救世主! 委員長…………」
朝からパンと牛乳を買ってくれるなんて、委員長はまじ天使だな。
うちにもパンはたくさんあるけど、甘すぎて一個以上食べないのが問題だ。
「相変わらず、あかねくんは朝ご飯食べなんだ……。たまにはちゃんと食べてよ」
「そうしたいけど、面倒臭いし……。適当に食べてもいいから」
「全く……」
それから授業の内容について委員長と話していた。
クラスの中に人がどんどん増えていても、俺は動揺しない。どうせ、俺には友達がいないから、今は授業の内容を教えてくれる委員長に集中するだけ。
でも、話し声が大きくなるのは気になるな……。
「今日から……また先生と会えるんだ〜」
「お前、そんなにホシミヤ先生のことが好きなのか……?」
「めっちゃ若いし、めっちゃ綺麗だろ? 男なら、好きになるのが当然だ!」
「おいおい、ほどほどにしとけよ。先生がお前のこと見てくれるわけねぇだろ」
「それがちょっと悲しい……」
ちょっと、今……ホシミヤ先生って? まさか……、あの人じゃないよな。
ふと、星宮さんのことを思い出した。
「…………あかねくん?」
「あっ、ごめん。そろそろ時間だし、担任が来るかも」
「うん。教えた部分はちゃんと勉強してね」
「いつもありがとう。委員長……」
机の中にノートを入れて、牛乳を飲みながらじっと黒板を見つめていた。
「来るぞ……!」
「ホシミヤ先生!!」
新しい担任って……、そんなに美人なのか?
さっきからずっと……ホシミヤホシミヤって、先生のことを友達だと思ってるのかよ……。
「みんな、静かに……!」
「先生! 待ってましたぁ!!」
「今日も、美しいっす!」
「みんな……、その話は言わないことにしたよね?」
「ええ〜」
聞き慣れたその声に、持っていた牛乳を落としてしまう。
なんで、星宮さんがここにいるんだ……? 嘘だろ? じゃあ、あいつらがずっと言ってたホシミヤ先生って、星宮さんのことだったのか……? 見間違いかと思ったら、本当にあの時の……、電柱の下で見た人と同じ人だった。
そして、みなみは窓側の席のにいるあかねに気づく。
「…………っ」
つい、星宮さんから目を逸らしてしまった。
どうしたらいいんだ……?
いや、別に……俺と星宮さんの間には何もなかったけど、なんで俺がビクッとするんだろう。やっぱり、あれ……だよな。
「まずい……」
こうなったら、知らないふり……をするしかないと思う。
……
あいつらがどうして美人美人って言ってるのか、今なら分かりそうな気がする。
まあ、俺も初めて見た時、綺麗な女性だなと思ってたから仕方がない。
「…………はあ」
そして昼休み、俺は自販機の前でアップルジュースを買っていた。
賑やかなところは嫌だから、休み時間にはいつも静かなところに来てしまう。ここで本を読んだり、スマホを見たりして、暇つぶしをする。委員長が「たまにはみんなと話して」って言ってるけど、ほぼ二年間……他の人と話したことないから無理だった。
今はこれでいい。
「あっ、もうないんだ……。アップルジュース……」
で、どうしてここに星宮さんがいるんだ……?
「ほしっ。いや、先生アップルジュース……買いにきましたか?」
「そうだよ。苦いコーヒーよりは……そっちの方が好きだから」
あの時もそうだったけど……、目の前で先生を見ると、すぐ「綺麗」って言ってしまいそうだった。
化粧もしてるし、大人って雰囲気が感じられる。
しかし、この空気はちょっとやばいな。
「先生、俺のあげます」
「いいの……?」
「はい。どうせ、味など気にしてないんで……。適当に買いました」
「ありがと!! へへっ」
「では、教室に戻ります」
「あっ。そういえば、意外と……落ち着いてるね。九条くん」
先生にそう言われても、まだ少し緊張している。
俺は先週、先生を……俺のベッドに寝かせたからな。
一応社会人だと思っていたけど、星宮さん……学校の教師だったのかよ……。
「は、はい……」
「日曜日はありがとう、おかげで助かったよ」
「そうですか? よかったですね。では…………」
「あっ、九条くん」
「はい?」
「九条くんから……、私の匂いがする」
「えっ? そ、そうですか? 香水の匂い……? あるいは……」
「ふふっ、そうかも?」
くすくすと笑ってるけど、なんの話だろう……?
まさか、汗臭いってことか……? 違う、「私の匂いがする」って……。もしかして、あの時……、星宮さんを家に連れてきた時か……? 確かに、背負ったから匂いがついてるかもしれないな。
てか、俺が嗅いだ時はなんの匂いもしなかったけど……?
「もっと九条くんと話したいけど、ここじゃダメだから……。今日、そっち行っていい? お礼もしたいし」
「えっ? そっちって……」
「私の悩みを聞いてくれたあの部屋!」
「…………ダメです」
「そう? どうして?」
「今日は……バイトがあるからです」
「いつ終わるの?」
「家に帰るのは……ほぼ十一時くらいで。だから———」
「分かった。じゃあ、私が合わせてあげる! これで問題ないよね?」
「…………」
そう言ってから、俺の頬に冷たいジュースを当てる星宮さんだった。
「えっ?」
今の流れは一体……?
俺は職員室に戻る星宮さんを見つめるだけで、何も言えなかった。
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