2 電柱の下、彼女を拾った②
そういえば、俺……生まれて初めて知らない女性と一緒にご飯を食べたよな。
最初は俺のことを警戒していたけど、話を聞いてあげたからか……? 少しずつ自分のことを話す星宮さんから、安定感を感じる。そしていつもバイトばかりだった俺の人生に、星宮さんと話した短い時間はけっこう楽しかったかもしれない。
ずっと、一人ぼっちだったからな。
とはいえ、今日もバイトがあるから……まじ面倒臭い。
「あの……、タオル貸してくれてありがとう!」
「いいえ。こちらこそ、警察を呼んだ方がよかったかもしれないのに……。家に連れてきて、すみません……」
「ううん。拾ってくれてありがとう。九条くん」
「そうですか……?」
「うん……。おかげですっきりしたぁー!」
「よかったですね」
シャワーを浴びて、再びスーツを着る星宮さん。
なんか、別人みたいだ。
透明感のある彼女の肌は触りたくなるほどつるつるして、整った鼻みねに長いまつ毛が印象的だった。そして黒色のストレートヘアも、ちらっとこっちを見る時の大きい瞳も、「美人」と認めるしかないほど星宮さんは綺麗な女性だった。
今はヘアゴムを咥えて髪の毛を縛ってるけど、なぜか恥ずかしくなる……。
とんでもない人を拾ってしまったな。俺は。
「うん? どうしたの? 九条くん」
「いいえ。なんか……、理解できないっていうか。どうして振られたのか、どう考えても俺にはよく分かりません」
「…………いいよ。私もあんな男いらないから! ふふっ」
「また、いい人と会えますから、絶対……」
「だよね? でも、私……。もう学生じゃないから……、どうやって作ればいいのかよく分からない……」
「仕事場で出会った人と友達になりましょう。まずは、そこから……」
「だよね! よっし、明日も仕事頑張ろう!」
「はい。帰る前に、これをあげます。家に帰ったら食べてください」
「あれ……? いいの?」
「はい」
俺は一人暮らしをしてるから、店長にいつも甘いものをもらってしまう……。
すごくありがたいけど、俺……甘いものあんまり食べないからいつもダメになるまで放置してしまうのが問題だった。
「ありがと……! 本当に、いい人だよ! 九条くんは」
「いいえ。では、またどこかでお会いしましょう。星宮さん」
「…………」
そして、じっとこっちを見つめる星宮さんだった。
「どう……しましたか?」
「う、ううん……。あの……、あ……、いや! いい!」
「はい」
笑みを浮かべる星宮さんに挨拶をした後、俺は扉を閉じる。
これで終わりか、多分二度と星宮さんと会えないよな。それでも、いい人だったから久しぶりに楽しかった。いつもバイトばっかりで、学校にいる時も一人で勉強をして、そろそろ三年生になるのに友達と言える人が委員長しかいない……。
そんな人生だ。
……
日曜日も当たり前のようにバイト。
家からちょっと遠いけど、店長が亡くなったお父さんの知り合いで、ほぼ二年間ここで働いている。まだ高校生だから、やりたいこととか……、夢とか、全然分からない。ただ何かをするためにはきっとお金がたくさん必要だと思って、ずっとお金を稼ぐだけだった。
だから、いつも店長と委員長に感謝している。
「はい! 私のノートだよ!」
特に、委員長は俺にノートを見せてくれるから本当に助かる。
バイトのせいで授業中に寝てしまうから、委員長のノートがないと……赤点を取ってしまう。
「いつもありがとう、委員長。これは俺のおごり」
「ふふっ、いい報酬だね」
「そっか? 委員長はこのケーキすごく好きだったよな」
「そうだよ〜。やっぱり、チーズケーキを食べる時が一番幸せだよ……」
「うん。本当に、ありがとう。委員長」
「そういえば、体調はどー? 風邪は治った?」
「うん。急に風邪ひいちゃってさ、喉も痛かったし、熱もすごかったぞ。でも、風邪のおかげで木曜日と金曜日はぐっすり寝たからな……。元気になった」
「よかったね! ふふっ」
「明日から、また学校か……」
「あっ、そうだ……! あかねくんはまだ知らないよね?」
「うん? 何を……?」
急に顔が怖くなったけど、委員長に何かあったのか……?
それに、フォークの握り方もちょっと怖いんだけど……?
「どうして、男子はいっつも! いっつも! 美人美人って言うの……? 相手は興味ないって顔してるのに、変なことばかり言い出して……! 私はそういう人、大嫌いだよ! 本当に……!」
「うん。委員長、落ち着いて……」
「ふぅ……、ごめんね。三日前のことを思い出して、つい……」
「何かあったのか?」
委員長が怒るのは久しぶりだな……。
中学生の時もそんなに怒ったことないのに、一体何があったら……あの優しい委員長が人の前で怒るんだろう。
そしてチーズケーキ……、死んだ。
「木曜日に新しい担任が来たから……」
「へえ……、そうだったんだ……」
「あの先生……、けっこう美人でね」
「うん」
「先生が自己紹介する時、クラスの男子たちが彼氏いますか? 先生の好きなタイプは? とか、変なことばかり質問して本当にムカつくぅ!!!」
「へえ……、あの先生、そんなに美人だったのか?」
「うん。それは否定できないけど、男子たちがずっと変なこと言うから……。そんなことをしても意味ないのにね……」
「確かに……、そうだな」
「本当にバカみたい! 好きです、先生!ってなんだよ! やっぱり、あかねくん以外の男子は全部変だよ!」
「そっか……?」
「うん!! そうだよ!」
新しい担任か、風邪ひかなかったら俺もあの先生の顔を見たかもしれないな……。
てか、そんなに美人なのか……? どうせ、先生だろ?
それに好きな人とか、そういうのを考える暇なんて……俺にはないよな。今はお金を稼いで、そして勉強をして、それだけだ。いつか、あんなことができたらいいなと思うけど……、俺にはまだ夢のような話だった。
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