『ナッカ』の輝きを

水浦果林

顔見知り以上、友達未満。…やっぱり顔見知り。

「……は!?」

 うちの中学の国語の先生が、二年生の生徒全員に、作文を書かせた。それを複数の新聞社に送ったところ、『ナッカ』の作文が新聞に載ったというので、彼の名前を調べれば、その作文にお目にかかれるのではと思い、私は、割と直ぐに、彼の名で検索をかけた。

 ……結果として、『ナッカ』の作文は読むことができなかった。だけど、私は、そんなことなんてどうでもいいと感じてしまうほどの情報を、手に入れることとなった。

「嘘、でしょ!?」

 ガンガンにクーラーを響かせた夏。電気を消したままにしていた、自分の暗い部屋で、私はスマホを片手に、目を大きく見開いた。


『ナッカ』と私の関係は、中々に形容し難い。

 小学校1年生のときに、同じクラスになって以来、接点は殆どない。しかし、同じクラスだったときは、仲が悪かったわけではなく寧ろ良い方で、よく会話をしていた。出会ってから八年も経過しているが、向こうも私を認知しているようだ。

 時々、すれ違いざまに手を振ってきたり、笑ってきたり。それは、私だけに対してではなく、他の人にも同様である。柔らかい笑顔が特徴的な『ナッカ』は、見た目も自覚する性も男子なのだが、周りには女子が多い。しかし、決して、モテるから周りに取り巻きがいる、と言うわけではなさそうで、仲のいい友人に女子の割合が高い、と言った感じだ。

 中学一年の時、同じ委員会に偶然入り、向こうが私の名前を覚えていたことには、少し驚いた。しかも、幼い頃と同じように「晴夏ちゃん」と呼んできたのだから。

 ……だからこそ、私も彼のことを『ナッカ』と呼んでしまっているのだけれど。

 危ういのは、彼の持つ柔らかい雰囲気に、一時期、異様に引き込まれていた時期があったように思えていることだ。

 決して、恋と呼べるほど形作られたものではなかった。けれど、あれを、『人を好きになった経験』として、省いていいのかと考えると、そんなことは、赦されない気がした。

 だからこそ、私は、特別な関係であったわけではないのに、『ナッカ』のことをよく覚えていた。


 私は、そんな『ナッカ』の、驚くべき情報を入手した。

 彼の名前を打ち込み、検索を掛けると、それなりに有名な芸能プロダクションのホームページが出てきたのだ。

 そして、ホームページのタレント紹介欄に、複数のドラマや映画の名前、そして、一人の全体写真があった。

 そこに映っていた少年の画像は、紛れもなく、私が見たことのある『ナッカ』の姿であった。

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