第6話 銀峯山寺
「御屋形様、若がお戻りになりました。」
銀峯山寺の本堂で烏天狗の総大将であるユウタの父、炎暁は、本尊の金剛蔵王権現の前で座禅を組み、瞑想をしていた。
「おう、戻ったか、ユウタ。」
ユウタは炎暁の背後に座り、
「父上、お邪魔でしたか?」
炎暁は振り向き座りなおし、
「いや、ちょうどお前に話をしなければならないと思っておった。配下の者たちより、色々聞いておる。此度の件、犬神や九尾たちと協力し、乗り越えねばならぬ。だが、わしも歳を取った。此度のこの戦、お前が、我が天狗軍の指揮を執れ。」
「父上…どういうことですか?」
「つまり家督をお前に譲ることにした。今から、お前がこの銀峯山寺の総大将だ。」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われても、心の準備がまだ…」
「いや、もう決めたことじゃ。皆も賛同しておる。」
すると、本堂のふすまが開き、そこには銀峯山寺の七武将と呼ばれる面々が並んでいた。
「若。いえ、御屋形様。私たちがお支え致します。ご安心ください。この戦でも、きっと私たちで勝利をつかめるとお約束します。」
「いや、でも、父上。」
「何も、わしが此度の件から逃げようってわけではない。ただ、そろそろお前にもこの銀峯山寺の本当の役割を教えておかねばならないと思っておってな。もちろん、戦には参戦するが、指揮を執るのはお前だ。」
「…わかりました。父上、覚悟を決めましょう。若輩ではございますが、銀峯山寺を、裏吉野を守り抜いて見せましょう。
皆の者たちよ、力をしてくれ。」
「は、はぁ。」
その場にいた者たちが、声を合わせて応えた。
「さて、ではこの銀峯山寺の本当の役割をお前に教えよう。」
炎暁は本堂の奥のほうから、古い巻物を持ってきた。
「本当の役割?この裏吉野にはまだ、秘密があるというのですか?」
「あぁ、この、巻物を見ろ。これは、代々この銀峯山寺に伝わる伝説を絵にしたためたものだ。巻物は銀峯山寺の家督を継いだものが守っていく。長い年月、ここの倉にしまってあったから、この存在を知っておるものは、銀峯山寺の棟梁と、妖鬼神社の大神ぐらいであろう。皆、平和を謳歌しすぎたのか、忘れておるのだろう。」
炎暁は巻物をユウタとの間に広げた。
二体の鬼が、妖や、鬼たちと戦っている様子が描かれている。
「この絵は?」
「この鬼のような者は金剛蔵王権現。この銀峯山寺と金峯山寺のご本尊だ。この銀峯山寺には赤の蔵王権現。金峯山寺には青の蔵王権現が祀られておる。
お前も、金峯山寺の開祖が役小角なのは知っておろう。役小角は、魔を払うために、蔵王権現をあらわした。蔵王権現は赤と青二体一対で、この吉野一帯を護っておられる。
そして、次の絵が、闇の襲来だ。この闇は、すべてを飲み込んでしまう。だが、6つの光が、揃ったとき、スサノオが現れ、この闇を破るとなっておる。
この絵は、昔、役小角の弟子たち、つまり吉野守が描いたといわれておるが、先の戦の際は6つの光が出現しなかった。6つの光とは、仁・剛・義・智・優そして、それらを堅固にする堅。この6つの光が揃うと闇を打破することができるといわれている。
そして、優の光は代々、わが銀峯山寺烏天狗の者が引き継ぐことになっているのだが、お前にはその優の光の能力が、備わっておる。
この予言の巻物が、今回の戦のことなのかどうかは、まだわからぬが、6つの光を放つ者たちと共に、この裏吉野を守ることこそが、わしら銀峯山寺の役目なのだよ。」
「6つの光を放つ者。」
「そして、6つの光を放つものは、同じ時に同じ場所に集まるといわれておる。すなわち、ショウ、レン、神宮司、カイト、そしてユウタ、お前たち5人が光を放つものだ。だが、あと一人が誰なのか。その一人を探し出さねばならぬ。」
「何かヒントになるようなものはないのですか?」
「うむ、例えば、お前なら生まれながらにして優と読める痣が、左肩にある。普段は見えないが、体温が上がると浮き出てくるようじゃ。
まぁ、その痣が生まれながらにしてあったので名前を優太にしたんじゃがな。」
炎暁は、少し昔を懐かしむような遠くを見る目をしてそう言った。
「なぜ、このタイミングで父上が家督を俺に継がせたのか、わかりました。父上、必ずや今回の危機を乗り越えて見せましょう。」
「あぁ、わしも協力は惜しまぬ。この危機は必ず乗り越えなければ、世界が終わってしまうぞ。」
「はい、心してかかります。」
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