第4話
王宮に向かう馬車の中、嫌な沈黙が続いていた。いつものリイナなら他愛ない話題を挙げたり、ロナルドに噛みついたりしていた筈だ。だがリイナは出掛ける前のロナルドの言葉がどうしても引っかかっていた。
「……どうした?」
王宮に到着する直前、ロナルドが口を開いた。
「いえ。」
「……もう着く。」
馬車が止まり、ドアが開けられる。先に降りたロナルドがリイナの手を取る姿は、ただの同級生なんかじゃない。凛々しい魔術協会の会長の姿だった。
◇◇◇◇
王城のホールに着くと、大勢の貴族たちで埋め尽くされていた。社交デビューする前に子爵家を追い出されたリイナにとっては気後れしてしまう場所だ。ロナルドとリイナが足を進めると、あっという間に貴族たちに囲まれた。
「ロナルド様、本日はおめでとうございます。」
「第二王子殿下の治療に尽力されたとか。」
「流石ロナルド様ですね。」
多くのお祝いの言葉にロナルドは動じることなく「私ではなく、魔術協会に贈られる褒賞ですから。」と冷静に答えている。周りの美しい令嬢たちもロナルドに見惚れている。
(私、だって。いつもは俺って言ってるのに。)
リイナをエスコートしているのは憎まれ口を叩く意地悪なロナルドではない。リイナの心は沈んでいった。
◇◇◇◇
式が進み、ロナルドが国王陛下から褒賞を授与される番となる。ロナルドは「少し待っとけ。」とリイナに告げ、颯爽と向かう。精悍な表情で国王陛下とやり取りしているロナルドは、学生時代のようにいつも屋敷でリイナを揶揄っているロナルドではない。魔術協会の会長という雲の上の存在だ。
リイナはロナルドが誇らしいのに、気持ちは沈んでいった。
ロナルドはさっさとリイナの元へ戻ってくると、リイナの隣で聖女アンが褒賞を受け取る様子を見ていた。
(何、その顔……。)
それは一瞬の表情だった。いつもの冷たい顔ではない。愛おしい者を見つめるような、そんな温かく優しい瞳でロナルドは聖女へ微笑んでいた。
「ねぇ。」
リイナが声を掛けた時。
「ああ。ロナルドじゃないか。久しぶり。」
「リイナもいたのか。暫くぶりだな。」
「二人とも変わりないか。」
現れたのは学生時代の同級生たちだ。卒業後路頭に迷ってロナルドに助けられたリイナだが、彼らもリイナを心配してくれていた。だが卒業したばかりの自身の生活でいっぱいいっぱいで手助けすることが出来なかったと、後から謝りに来たメンバーだ。リイナは社交の場に出ることは無いので、随分と久しぶりの再会だった。
「ロナルド。凄いじゃないか。」
「同級生として鼻が高いよ。」
そんな誉め言葉を贈られると「当たり前のことをしただけだ。」とそっけない口調に戻り、リイナはこっそり息をついた。
「それよりリイナ。やっぱり変わらず綺麗だな。」
「ふふふ。ありがとう。」
「なぁ良かったら、俺と一曲……。」
同級生の手を取ろうとしたその時、リイナの腕はグイっと引っ張られた。
「行くぞ。」
ロナルドに強く腕を引かれ、リイナは彼らに別れの言葉も碌に言えないままその場を後にした。
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