第2話
数日後、ロナルドは朝早くから出掛けていた。リイナはいつものように掃除や整理整頓に精を出し、そろそろ仕事が終わりの時間だと後片付けを始めていると執事マシューがパタパタと走ってリイナとマリアの前までやってきた。
「マシューさん?どうされました?」
「ロ、ロナルド様が……。」
切羽詰まった様子にリイナはぎくりとした。ロナルドの身に何かあったのだろうか、そう思うと心の奥底が冷えた。
「早く言いなさいよ。」
侍女長マリアが痺れを切らし、マシューを促した。
「ロナルド様が……、第二王子殿下の病の治療に助力されたらしい。」
「「へ?」」
マシューは息を整えた後、説明を始めた。わが国では、治療法が見つかっていない不治の病がある。リイナの両親もこの病によって亡くなってしまった。そして、第二王子もまた同じ病に罹っていたらしい。
この病を治療するためには聖女の力が必要だ。特に最近聖女の力を授かった、聖女アンの活躍は目まぐるしい。職務の話は殆どしないロナルドでさえ、聖女アンの話題を度々口にしていた。
第二王子の治療もアンが行ったが、有能な魔術師ロナルドも症状を抑えるため尽力したということで、王家からの褒賞も検討されている、とマシューは興奮気味に話した。
第二王子殿下への治療や、王家からの褒賞など雲の上の話をされリイナもマリアも閉口した。その時、ロナルドが帰宅した音が聞こえ、三名は慌ててエントランスへ走った。
◇◇◇◇
「……ロナルド様、お帰りなさいませ。」
リイナとマリアに話をして、幾分気持ちが落ち着いたマシューだけが口を開いた。リイナとマリアはまだ動揺しており挨拶の言葉も出なかった。
「……どうした?」
様子の可笑しい使用人たちをロナルドは怪訝そうに見つめた。
「ロナルド様が第二王子殿下の治療に尽力なさったとお聞きして……。」
マシューがおずおずと伝えると、ロナルドは「ああ。」と何でもないことのように頷き、いつものように尊大な態度で言葉を続けた。
「俺のように優秀な魔術師には造作もないことだ。」
「それはそれは。」
マシューは穏やかに笑い頷いた。
「褒賞のお話も出ているとか?」
漸く正気を取り戻したマリアが尋ねると、ロナルドは「まだ分からない。」と首を振った。暫くマリアとマシューから質問攻めされるが、ロナルドはぽつりぽつりと言葉少なく答えた。そこから第二王子への治療は急なことでバタバタしていたことが窺えた。
「今日はもう休む。」
ロナルドはそれだけ伝えると私室に向かった。造作もないことだと言いつつ背中には疲れが見え、リイナは落ち着かない想いで見送っていた。
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