インナーチャイルドに会いに行く~元カレと別れた頃

 カウンセリングを受けてから半年くらい経って、なんとなく自分が自分の体に馴染んできた感じはしてきていたが、自分の無価値感とかまだ自分を大事にできてない部分があり、それがなんでなんだろうと考える時間が増えた。またネットの海をさまよううちに、前回までとは別のカウンセラーのブログにたどり着く。「自立系武闘派女子」というワードにピンときた私は、首をふっとばさんばかりの勢いでうなずきながらブログを読み漁った。これマジで私やん…!

 そこには私と似たような方からの悩み相談とそれへの回答、という形で様々な内容が書かれていた。なんだ私だけじゃないんだ、と思えたことや、なるほど自分の意識なら書き換えていけるのね、と思えたことで励みになり、まだ手を付けられていない自分の深部、無意識の部分に手を入れていこうと思った。


 その一環として、以前受けたインナーチャイルドセラピーを自分でやってみることにした。今の自分をどこか受け入れきれないのは、まだ過去の自分が拒んでいるからだ、となんとなく見当がついたからだ。

 YouTubeでインナーチャイルド、というワードで検索をかけるといろんな動画が出てくるが、その中でも再生回数が多めだった瞑想誘導の動画を選んだ。正直、そのチャンネルはいわゆるスピリチュアル系で他の動画はだいぶ胡散臭そう(失礼)だったが、まあとりあえず試しにやってみるか、と軽い気持ちで動画を再生した。音声に従って、瞑想に入ってゆく。



~以下瞑想中~

 


 目の前に扉があるのをイメージする。ダークブラウンの木のドアに、金色のノブがついている。

 ドアを開けて入ると、そこは広めの洋室だった。赤い絨毯、ドアと同じ色の壁、大きめのベッド、床にはおもちゃやぬいぐるみが転がっている。

 その中にたたずんでいる「私」。歳は今と変わらないように見え、内心、想定していた出会うべきインナーチャイルドではなくずっと大人だったことに驚いた。ひどく沈んだ表情で、明らかに疲れているんだろうなという様子。ああ、去年の私だ、と分かった。(もっと正確に言うと、元カレと別れ際に修羅場っていた頃。詳細は『肥溜めへとダイブ』にて。)そっと近づいて手を握り、抱き寄せた。疲れた、しんどい、もうやだ、逃げたい、と口からは呪詛のように愚痴を垂れ流している。


 相槌を打ちながら愚痴を聞いていると、「私」がぽつりと、「怖かった」とこぼし、わんわんと子供のように泣き出した。はっとした。そこで初めて、私は自分がある時点での感情を忘れていたことに気が付いた。

 元カレに別れを告げられた時、頭だけは冷静に今後のことを考えていたが、心は凍り付いたように何かを感じることを止めてしまっていた。奴は私に死ねと言い、コップを投げつけ、ドアを殴りつけた。こいつは言葉が通じない、暴力を振るわれるかもしれない、殺されるかもしれない。ここにいたらマズいという危機感として頭は理解していたが、どこか自分を空中から見ているような、幽体離脱しているような感覚だった。

 そうか、あの時私、怖かったんだ。私が感じていたのは恐怖だったんだ。今ようやく気づいて、私も一緒に泣き出してしまった。

 そうだよね、怖かったよね。

 ごめんね、ずっと気づけなくて。我慢させて。

 一人で耐えてたんだよね、ごめんね。

 私が閉じ込めちゃってたんだよね。

 そう言いながら、抱きしめ合って二人で泣いた。


 ひとしきり泣いて、「私」の顔を見るとまだちょっと疲れた顔はしていたけど、ほっとしたような色を浮かべていた。見つけてあげられて、思い出してあげられてよかった。まだ一緒にいてあげたかったけど、じゃあね、と告げ部屋を後にした。



~以上瞑想終わり~



 意識が現実に戻ってくる。動画の中で、女性がおかえりなさい、と手を振っていて、ほっとする。涙はまだぼろぼろとぼろぼろとこぼれてくるけど、不思議と見つけてあげられてよかった、という安心感のようなものに包まれて、やさしい気持ちになった。

 正直、その時の気持ちを忘れていたことすら忘れていた。こうやって一つ一つ自分の気持ちを取り戻していければいいのかなと思う。

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