第7話:銃聖とプール開き



「ジョブは銃聖……まあガンナーですわ」


 竜華はどうでも良さそうに言うが、剣聖や聖女のような聖を冠するタイプの職業と考えるともっと凄いジョブなはずである。


 近接格闘も交えた戦い方をしていたので、少なくとも狙撃主ではないことは確定だ。


「ところであの狼五体の魔石はどれ程の価値があるのかしら?」


 狼は一体二百ポイントだ。 つまり五体で千ポイントとなると、


「スポーツドリンク百本または豚二頭くらいかな?」

「とても分かりにくい例えですわ……」


 ダンジョン創造に掛かるポイントは現代の市場とはまた違う基準らしく、分かりやすい基準はない。


 ただ人が生きていくにはGランクの魔石が二つあれば最低限は可能であるくらいだろうか。


「明日から私もお手伝いしてもよろしいかしら?」

「それは願ったり叶ったりですけど、いいんですか?」


 おそらく竜華は強い、強くなる。 彼女の協力があれば町創りはより捗るだろう。


 しかし単純に危険だし、真真理が許すとは思えない。


「ええ。 だって建物に籠っているよりはずっと面白そうですもの」


 彼女はそう言って妖しく微笑むのであった。





「さて始めますか」

「なんだここは?」


 翌日、俺はドラゴン少女と二人を連れて市営のプールにやって来ていた。


「プールだ。 水遊びする場所だよ」

「それなら川があるだろ……じゃなくてこれだこれ」


 ドラゴン少女は俺が持たせたモップを振って眉を吊り上げた。


「ここを使えるように掃除します」

「なんで私が……」

「実はーー」


 昨夜、ジョブに目覚めた竜華から提案があったのだ。

 町創りに協力する、金銭などの報酬はいらない。 その代わりに都度、叶えられる願いがあれば叶えてほしい。 それを報酬としてほしいと。


「その第一段がプールです。 そしてお前は俺の子分なんだから、当然付き合わなければならないわけだ」

「意味がわからん……そして私への報酬はないのか?」

「美味い飯。 他に何かあるか?」

「……分かった」


 そうして俺とドラゴン少女のプール掃除が始まった。


「思ったより重労働だな」


 水道から水が出るのでまだ良いが、まだプール開き寸前で放棄された状態のため最も汚い状態なのだ。


「なんで私がこんなこと……くそ、水ブレスが使えたら」

「やめろよ、壊す気か」

「喉渇いた」


 ドラゴン少女の愚痴をいなしつつ、俺はスポーツドリンクや、時より甘味で釣りつつ作業を続けた。


 そして朝から初めて、昼を大分過ぎた頃ようやく掃除が終わった。


「「終わったー!」」


 二人で喜びつつ、さあ水を入れようという段階で俺はダンジョンアイテムを一つ創った。


「これを使おうと思う」

「聖樹の苗……お前バカだろ」


 ドラゴン少女曰く、この苗は異世界では激レア中のレアらしい。 これ一つで戦争が起こる程の価値がある。


 聖樹の苗は植えると、癒しの水が湧く不思議アイテムなのだからその話もあながち嘘ではないだろう。


「だって水浴び出来て、傷を癒せたら一石二鳥じゃん」


 しかし俺からしたらちょっと効能の強い温泉水くらいの認識でしかない。


「それじゃ、入水」


 苗を台座に植え、プールの縁にはめると注ぎ口からダムから放水されるように水が勢いよく放出された。




***



「絶対に認められません」


 羽場真真理は両手を広げて古豪竜華の進路を塞いで言った。


「昨日魔物が出たんですよ? それなのに見回りに行くだなんて危険すぎます」

「大丈夫よ。 私もジョブに目覚めたのだから」

「だとしても危険であることには変わりありません。 竜華お嬢様の世話係として行かせるわけにはいきません」


 真真理の言っていることは正しい。

 しかし現状二人は無駄飯食らいだ。 このままというわけにはいかないだろう。 笹本一は今のところ嫌な顔一つせず貴重な食料を振る舞い、自分の手札をさらして見せた。


 出来ることは協力していきたいと思うのは人として当然の感情だろう。


 それにせっかくジョブを手に入れたのだ。 竜華は色々言い訳を並べつつも、結局は新しい玩具で楽しみたいだけであった。


「ここでの立場を確立するためにも、彼に報いるためにも、何より自分達のために戦う力は磨いておくべき。 違うかしら?」

「…………はあ、なら私は屋上から監視します」

「ありがと。 頼りにしてるわ」


 深いため息を吐いて、未だ納得しきれていない様子の真真理を置いて竜華は意気揚々と見回りに出掛けるのであった。



***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る