第6話:狼男と血みどろプリンセス
***
避難区域に指定されているとある都市にて、町の外に居た見回りの男はかすかな地響きを感じて周囲を見渡した。
「なんだ……?」
木に登り双眼鏡で確認した男は絶望した表情で呟く。
「嘘だろ……」
その視線の先にはオークの群れがいた。 そしてそれらの向かう先には避難区域がある。
「早く知らせなきゃっ!」
男の情報によって調査隊が派遣され、同時に町は厳戒態勢となった。
「……?」
しかし高台から調査隊が確認するもオークの群れも、魔物も一匹もいない。
「どういうことだ? 何もいないぞ……オークの群れはどこだ?」
「そんなバカな?! あれ……どこだどこだ?!」
男がどこを探してもオークの群れは見つからない。
「いたんだ……俺は本当に見たんだ、嘘じゃないんだ」
「嘘じゃないんだ……」
軽蔑の視線を向ける調査隊に男は何度も何度も、嘘ではないと主張した。
その後、外へ調査隊が派遣されオークの群れがいないことが確定した。 しかし男が示していた一帯がまるで焦げ付いたように真っ黒に染まっていたことだけは些細な異変として報告された。
それから男は嘘つきの狼男と言われ、周囲から腫物のような扱いを受けるのであった。
***
「おー、楽ちん楽ちん」
ドラゴン少女のブレス一発でオークの群れは消え、魔石に代わった。
ダンジョンマスターは触れるだけで魔石をポイントに変換できるので、剥ぎ取りがないだけでとても楽に回収できる。
「やあ、さすがドラゴン」
「こんな雑魚相手に褒められても全く嬉しくないぞ」
「まあまあそう言わずに。 今日はごちそうにしてやろう」
「……まあそうしたければすればいい」
「素直じゃない奴だなー。 口元笑ってるぞ?」
全ての回収を終えた結果ポイントは五万まで膨れ上がった。
オークは一体五百ポイントなので、群れには百体いたらしい。 もしもドラゴン少女がおらず、その群れと遭遇していたらと思うと背筋が凍る想いだ。
「オークはどこから来たんだろう」
「近くに氾濫したダンジョンがあるのではないか?」
ドラゴン少女曰く、ダンジョンは全てにダンジョンマスターが存在する。 マスターに知能がある魔物であれば管理されるが、知能の低い魔物である場合は管理されず、魔物を延々と生み出しダンジョンの容量を超えると氾濫が起こるらしい。
「ということはこれも一部なのか……?」
「ああ」
「つまりまだまだポイントは回収できるってことか」
「氾濫を嬉しがるなんて、お前本当に人間か?」
「ダンジョンマスターだよ」
日も落ちてきたので町に戻ることにしたが、結界を抜けたところで俺は異変を感じた。
「これは……血?」
地面に飛び散った血液がいたるところに付着していたのだ。
この町にはもう魔物はいないと思っていた。
町を散歩がてら歩くことはあったが、隅々まで調べたわけではない。 もしもどこかの建物に魔物が隠れていたとしたら? そして建物から出た竜華が、真真理が、魔物と遭遇していたら?
嫌な予感が脳裏に過った。
「古豪さんっ! 羽馬さんっ! お前は空から探してくれ!」
「そんなことしなくても分かる」
俺は走りながら彼女らの名前を叫ぶが、ドラゴン少女は落ち着いた様子でため息を吐いた。
「奴ら生きてるぞ。 落ち着いて、耳を澄ませてみろ」
ドラゴン少女の言葉に安堵しつつ、俺は深呼吸して耳を澄ませてみた。
――ドン、ドン、ドン
地鳴りのような鈍い音、そして爆発するようあ音が鳴り響いていた。
こんな巨大な音に気が付かないなんて、俺は相当動転していたらしい。
「戦闘音……?」
「そうだろうな」
そしてドラゴン少女に乗って駆けつけると、そこでは三体の狼相手にしながら踊るように戦う竜華の姿があった。
――ドン、ドン、ドン
竜華の持つ棒が魔物に向けられると、発砲音が鳴り狼は吹き飛ばされた。
「銃……?」
全ての狼が倒れ伏すと、竜華はこちらに気づいたようで笑みを浮かべた。
「ごきげんよう。 狩りの成果はいかがでしたか?」
「そんなことより一体何があったんですか?」
「ああ、これですか」
彼女の持っているのは白に金の装飾が施されたライフルのような銃だった。
「隠れていた魔物に襲われまして。 私もジョブに目覚めましたので、明日からお手伝いできますわね」
嬉しそうにほほ笑む彼女は美しかったが、頬についていた返り血のせいで少し怖かった。
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