第5話:歓迎会とポイント稼ぎ
街を覆う結界は外から見ると、水に浮いた油のような色で中は不可視になっていた。
「ここは入場制限されてるから中に魔物は入って来れないようになっているんだ」
「それは素晴らしいですわね」
「こんな田舎町にそんな機能は宝の持ち腐れなのでは――という疑問は置いておきまして、ここには現在何名くらいの住人がいるんですか?」
真真理の言い草に腹は立つが、確かに人の集まる場所でこそ意味のある機能であるから間違ってはない。
確かに今はまだ持ち腐れだが、いずれここを日本の中心とすることが目標なのだから問題はないのだ。
「二人だ」
「は……? 我々の他に二人しかしないんですか?」
「いやいや、俺とそいつで二人だよ。 それ以外の住人はみんな避難してしまったんだ――
――でも大丈夫! いつかこの街を住みやすく、魅力のある街にしていつかここは首都になるんだから」
俺が目標を告げると、真真理は頭痛をこらえるように眉間を揉んだ。
「何も大丈夫ではないですし、あなたは正気ですか? 竜華お嬢様、今からでも遅くはありません。 こんな可笑しな連中から離れて避難を……それかせめて学校に戻りましょう。 ここは危険です、色々な意味で」
真真理は俺を頭の可笑しい奴だと思っているらしい。
しかし竜華は面白げに笑って、結界を撫でた。
「失礼ですよ真真理。 これからお世話になる町の長なのですよ?」
「お嬢様っ!! どうして?!」
「どうしても何も安全で、武力もある、なにより――」
竜華は武力と言いながらドラゴン少女に視線を向けた。
確かに彼女がいればこのファンタジー化した危険な世界でも、かなりの安全を確保できるだろう。
「――面白そうです」
「あああっもうもう! こんなことなら早く秘書なんてやめとけば良かったっ!!」
「さて話は着きましたので、よろしければ街を案内してくださる? 町長さん」
竜華の独断によって方針は決まったようなので、俺はさっそく竜華と真真理が街に入れるように許可をした。
「ええ、もちろんです――『許可する』」
この結界は許可を得ていればそのまま素通りできるので、彼女たちを連れて俺は街に入り振り返った。
「ようこそ、俺たちの街へ……とはいえまだまだ作り始めなので、全然整えていないんですけどね」
見た目的に変わっている部分と言えば、建物屋上に設置した転移門くらいなものだろう。
「ずっと気になっていたんですけれど、街を創るとは常識的な意味ではなく何か特別な方法があると思ってよろしいのかしら?」
「はい、俺はジョブ持ちなんです」
「へえ、それは素晴らしい。 ではその職業が?」
「はい、ダンジョンマスターというダンジョンを創るジョブなんです。 これを使って俺は街を創るつもりです」
今更ながらに俺は思い至った。 ダンジョンマスターは敵側の存在なのだ。 俺やドラゴン少女はいいが、今日会ったばかりの男を信頼することは難しい。
むしろ敵意を向けられても仕方のない状況である。
「なるほど安心しました。 さすがに手作業でと言われていたら、付き合い切れないと思っていましたから」
それなのに彼女はむしろ喜んでいるように見えた。 その瞳に宿るのは好奇の光だ。
古豪竜華はかなりの変わり者なのだろう。
そして俺の想像通り、こちらを睨みつける羽馬真真理は正常で、真面目な人間なのだろう。 彼女は竜華に意見をすることはあっても、決定は最終的には受け入れているから。
「案内と言っても今日のところは見るところもないし……とりあえずお腹空いてません?」
俺は彼女たちを連れて推進課の建物へ入っていった。
途中で食糧を調達し、屋上に上がり今回はドラゴン少女に手伝わせながら準備を進めて行く。
――炭よし
――肉よし
――野菜よし
――ビールよし
「それじゃあ古豪竜華さんと羽馬真真理さんの歓迎会を始めます! 乾杯!」
〇
次の日、俺は二日酔いの頭痛で目を覚ました。
「いってー」
顔を洗うため建物内にある給湯室へ向かう。
するとすでに先客、竜華が下着姿で体を拭いているところであった。
目が合い俺が固まっていると、彼女は平然とした表情で言った。
「おはようございます。 お先に使わせていただきましたわ。 ところで少し手伝てくださる?」
渡されたタオルを手に、竜華の美しい背中に俺はつばを飲み込んだ。
「ししし失礼しますっ」
こんな可笑しくなった世界では、警察もいないこの町では自制心を強く持たなければならない。
「ところで今日は何をされるんですか?」
「っ……今日は魔物を討伐しに行こうかと思っています」
「ダンジョンを創るために魔石が必要なんでしたね……私も手伝えれば良いのですが」
竜華たちにはダンジョンの仕組みを大まかに説明してある。
彼女たちはまだ正式にこの町創りに参加すると決めたわけではないので、特段仕事などは振っていない。 真真理がこの町をどう思っているかは不明だが、竜華は肯定的な印象である。
人手はこれから必要になってくるが、現状何も始まっていないので頼みたいことはなかった。 竜華がジョブに目覚めていればまた別だが。
食事の準備はなんとなく嫌な予感がするので頼みたくなかった。
「ありがとうございます。 今日はお疲れでしょうし、ゆっくり休んでいてください」
俺はそう言って竜華と別れると、ドラゴン少女と町の外へ出た。
「今日こそポイント稼ぎまくろう!」
「あっちに一杯いるぞー」
ドラゴン少女の案内で向かった先には、行軍しているオークの群れがいた。
「……今日の夕飯は豚肉祭りかな」
俺はそう言って群れを指さして、ドラゴン少女に指示する。
「焼き払え」
するとまるで噴火したマグマが大地を覆いつくすかのようにオークの群れを焼失させたのであった。
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