第3話:ダンジョン創りと人の気配





「んあ~、ありゃ寝ちゃってた」


 うだるような暑さで目が覚めた。


 すでにてっぺんにある太陽の光が二日酔いの頭に響く。


「昨日……そっか、あの後バカ騒ぎしたままぶっ倒れたんだ」


 起き上がってみれば、屋上から景色を見下ろす少女が丁度振り返った。


「起きたか、人間」

「人間じゃないよ、トカゲさん」

ではそういうもんか……?」

「否定しろよ……まあいいや、とりあえず喉渇いたし、汗流したい」


 僕が言いながら伸びすると、彼女はソワソワした様子で、


――ぐぎゅるるるるる


「腹減った」

「自分で取り行けば良かったのに」

「行けない。 守護者はマスターの命令に縛られているから」


(命令……? なんか言ったっけ?)


 昨晩の記憶はおぼろげだ。

 命令なんてした覚えはないし、自分の性格上誰かに何かを命じるとは思えなかった。


「『俺はこの土地が大好きだ! 俺とお前で一緒に盛り上げて行こうぜ! だからお前はどこにも行くなよ!』って言ってた」

「うわぁ、昨日の僕何言っちゃってんのっ何言っちゃってんの?!」

「そこから叫んでた。 声が山から返ってくるくらいに大声で――」

「ああくそ、黒歴史だ……」


 心で思う分には良くても、声に出したら誰かに聞かれた時点でただの痛い奴でしかない。 昨日はヤケクソの変な解放感のせいでだいぶ気が大きくなってしまったみたい。


 さて気を取り直して都市計画もといダンジョンについて考えていこう。


 現在ダンジョンポイントは百万ポイント。

 ドラゴンをダンジョンとして浸食したことが、吸収したことと同等となるらしい。


「これだけあればなんでも出来る……まずは安全の確保」


 一階層はドラゴン少女の腹の中だ。 二階層はとりあえずここらの土地全体を指定すると、シャボン玉の膜が広がるように上空を覆って広がっていく。 転移門をとりあえず推進課の建物屋上に設置して、一階層と繋げた。


「続いてライフラインを整えたいところだが……階層を増やすのに十万、入場制限結界で四十万、転移門で五十万ーーーー早くも一門なしになってしまった、ふぅ」


 雛形は出来た。

 あとはポイントを稼ぎまくって最高の街を創るだけだ。


「というわけで狩りに行きます」

「いってらっしゃい」


 コンビニ前のベンチにて、ドラゴン少女はアイスを舐めながら手を振った。


「おいおい、僕がモンスターと戦う力はないよ? 頼んだぞ、第一の配下!」

「誰が配下か」

「ふむ、今晩。 美味い飯が食いたくないか?」

「よし行こう、すぐ行こう……その前に」


 彼女はアイスの棒を見せて、心なしか笑んだ無表情で言った。


「当たり。 もう一本」

「分かったよ。 僕もなんか食べようかな……暑くて溶けそうだし」


 僕らは仲良くアイスを頬張って、モンスターを探しに街の外へ向かうのだった。




 



 この世界に現れたモンスターはどこから出現しているのか、原因は全く不明と言われている。 今のところダンジョン的なものは確認されていない。


「どこにいるんだ? 本当にモンスターなんているのか?」


 街の外までドラゴン姿となった少女に乗って飛んできてショートカットしたものの、予想以上にモンスターが見つからない。


 実は僕はモンスターの姿を見たことが無い。

 SNSで各地で撮影された写真は見たことがあるくらいだ。


 避難を促すくらいだから、もっと世紀末な感じになっていても可笑しくないはずだが、まだファンタジー化は始まったばかりなのかもしれない。


 人類としてはそのままモンスターの数は少ない方が良いに決まってる。

 しかしダンジョンマスターであり、ダンジョンポイントが欲しい僕にとっては切実な問題だ。


「ここらにはいない」

「えぇ? なんだよ……みんな逃げる必要なかったんじゃ?」

「私がここにいるから、雑魚はみんな怯えてどっか行った」


 彼女曰く、僕は何も感じないがモンスター同士はお互いの気配に敏感らしく、極端に強力なモンスターがいる土地は怯えたモンスターが散っていく現象が起こるらしい。


「じゃあどうすんだよ?! ダンジョンは? 街創りは??」

「……少し離れた位置にそこそこ雑魚がいるよ」

「おお、じゃあ行こう!」


 僕は再びドラゴン少女の背に乗るが、


「ただ人間もいるっぽい」


 その一言で緩んでいた気持ちが引き締まった。


「もしかして襲われてる?」

「かも……?」

「行こう、すぐに」


 人を助けなければ、という正義心もある。 しかしもちろん仲良くなれれば、住人になってくれるかもしれないという下心も含んでいた。







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