第2話:ダンジョンマスターと守護者




 さて、この土地を街にする、そう誓ったはいいが足りないものはたくさんある。


 壊れてしまった家屋、流通は死んでいるから食べ物を作る必要もある。

 次期に水道や電気ガスも止まるだろう。


 何より人がいない。


「とりあえずライフラインはダンジョンを成長させればなんとかなりそうだ」


 どのようなダンジョンを創りたいのか、環境や施設、生き物を思い浮かべるだけで脳裏に必要なポイント数が算出される。


『ライフライン:一軒につき五千ポイント~』


『小屋:五千ポイント』


『魔豚:五百ポイント』


『モンスター/G級~S級:百ポイント~』


『藁:一ポイント』


『スポーツドリンク:十ポイント』


 僕はとりあえずスポーツドリンクを毒見しつつ、確認していく。


 モンスターの創造は低級であればかなり、お安く創ることができる。 しかしランクが一つ上がるごと、上に行けば行くほど桁違いに必要ポイントが上がるようだ。


 とはいえ本気のダンジョンマスタームーブをするわけではなく、モンスターを創るとしても街の守護のためくらいになるだろう。


「まあ、創りたくとも創れないんですけどね……」


 ダンジョンマスターというジョブは創る、そして管理することも能力のうちである。 本来ならばモンスターのステータスを確認する能力なのであろうが、自分にも使えるようだ。


『名前:笹本一 年齢:二十三歳 ジョブ:ダンジョンマスター 称号:地元狂い』


「とりあえず新しい発見はなさそうだ」


 確認は終わったので、さっそく動き出したいところであるが未だ空の上なので地上に降りたい。


「守護者って子分とかそういう意味で良いのかな……地上に降りてもらえますか……?」


 おそるおそる言ってみると、ドラゴンは何も言わずに下降し始めた。


「おお、すごい! ありがとぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお?!??!??」


 まるでジェットコースターを乗り終えた気分だ。

 ドラゴンとはいえモンスターであり、人間様に気を使えという方が無理があるだろう。


 地上に降りたいという指示が通ったのはたまたまだったのか、それとも守護者にはニュアンスのみが伝わるシステムなのかもしれない。


「ま、敵対はしてなさそうだからそれで充分さ」


 動物は飼ったことはないが少しずつ躾をする必要がありそうである。


「さてとりあえず家に帰――」




「――うん、ないね……家」


 借りていたアパートに戻ると、ドラゴンに踏みつぶされたのか倒壊してしまっていた。


「ああ、真面目に家に帰ってきたのがバカバカしく思えてきた……よし、決めた」


 僕は近所のスーパーの鍵を開け、中へ入っていく。


「ありがとう」


 ここの店主であり、友人から何かあったら好きにしろと鍵をもらい受けていて助かった。 一日経っているが、商品は大量に陳列されており、冷蔵系もしっかり冷えている。 特に冷凍ものがやたらぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、笑ってしまった。


「生きるぞ。 そしていつか絶対この街に住まわしてくださいって言わせてやるんだ」


 その時を楽しみに、今は景気づけに――


「バーベキューだ!」


 推進課の事務所に保管されていたバーベキューセットを取り出し、俺はスーパーから持ってきた大量の肉を焼く。


 屋上にわざわざ運び込んだ椅子に座って、ビールを開けて一気に流し込んだ。


「ぷは~っ!! うめぇ!!」


 豪快に肉を喰らう。


 星空を肴にビール、肉、ビール、肉、最強のコンボをキメる。


「幸せ過ぎる……」


 こんな考えなしな食料の消費は悪手であると理解はしている。

 しかし時に人は正しくないことをすることが、良い結果をもたらすかもしれない。


「というのは言い訳だけど、まあ今日くらい――」


――いいだろう。


 その言葉は激しい羽ばたきの音にかき消された。


『それ、旨そうだな。 我にもよこせ』


 離れた位置に置いてきたドラゴンが、いつの間にか上空を飛んでいた。


 まるで少女のような声だ。


 ドラゴンから放たれたとは思えなかった。

 しかし周囲に人気はない。


「ええとどうやって……?」

『ふむ、このままでは食べずらそうだな』


――パンッ


 ドラゴンは風船のように破裂。


 そして小さな何かが地面に落下してきた


 「この体は全く動きづらい」


 それは少女だった。


 ただし角の生えた人型の何か。


「さあ食わせろ」


 彼女は無表情で、しかしよだれを垂らしながらそう言った。







「う、ううううううみゃああああああ!!?」


 僕に言われるがまま、焼き肉のたれをヒタヒタに付けて口に運んだドラゴン少女は叫んだ。


「うまままうますぎぃぃぃいいいい!!」

「いやいや、リアクションでかいね……ドラゴンならもっといい肉食べてそうだけど」

「こんな旨いの初めて食べた……すごい、止まんない」


 彼女は次から次へと、もはや生焼けのまま飲むように平らげていく。


「(牛だけでなく、豚や鳥もあるけれどドラゴンだから大丈夫なんだろうか)」

「何か言ったか?!」

「あいや、言ってないです」


 邪魔をするなという目をされたので、どうぞと続きを促した。


 もうお腹いっぱい、というか正直胃がもたれてきたので丁度良いので僕はクーラーバックに入ったデザートを楽しむとしよう。


「冷やし信玄餅……大好きなんだよな」


 たっぷり黒蜜をかけて、


「……!!」


 肉を食べようと、口を開けたままで少女はこちらをじっと見つめている。


 しかし信玄餅は内容量が少ない。 とはいえ少しくらいならあげてもいかと、僕は差し出してみる。


「食べる?」

「あ~」


 尋ねると激しく頷き、目を瞑り無防備に開かれた口に放り込んだ。


 口を閉じると、同時に彼女の瞳が大きく開かれた。


「ああ、これは良くない」

「美味しくなかった……?」


 よくよく考えれば彼女はドラゴンなのだ。 肉好きは想像通りだが甘味、それも和菓子は口に合わなかったかもしれない。


「口の上で精霊が躍る。 神酒を舐めるような……頭が可笑しくなりそうなほどの幸福で胸がいっぱいになった」


 しかし僕の憶測は杞憂であった。


 彼女は光悦とした表情で、相当気に入ったようであった。


「それは良かった」

「あっ!!!!?」


 僕は彼女に微笑んで、まだまだ残りがあった餅をいっぺんに自分の口へと放り込んだ。


――もちゃもちゃもちゃ


「うめえ~」

「な、なんてもったいないことを」

「そう言うけどさ。 この街を更地にしたら、これだって消えてたわけで。 別にいらないのかと思ってさ」


 街を壊されたちょっとした意趣返し。

 大人げないと言われても、これからこの少女とは長い付き合いになる気がした。 故に気持ちの清算は早くしておきたかったのだ。


「ごめんなさい」


 素直に謝罪されるとは思っていなかったので、少し驚いた。


 思ったよりこの少女とは上手くやっていけそうな気がする。


「うん、いいよ。 僕が許す――


――これからは街の守護よろしく」


 僕はそう言って、クーラーボックスから取り出した信玄餅を少女に放った。


「任された!」


 少女は大事そうに両手で餅を受け取り、大きく頷くのだった。






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