第2話 休日の街中にて
やっちゃいけないと言われると、やってみたくなることがある。
こんなことしたらきっと嫌がるだろうなー、とわかりつつ、でも止めたくないこと。
例えばこんな休日の街中。大通り沿いにて。
私の隣にはずっと探してたお目当ての歌手のスコアブックを買えたということでご満悦の先輩がいる。
今日はその長い髪をお団子にしてまとめていて、そのうなじの辺りに私はつい見とれてしまう。
「……」
やっちゃいけないと言われると、やってみたくなることがある。
例えば、その……
「……わっ」
「……」
その空いた左手を私の右手でそっと握ってみる。
先輩は驚いたように肩を震わせて、私の方を見てくる。
「ちょっと、街中ではやめてって言ったでしょ」
「……いいじゃないですか、付き合ってるんだし」
「だめ、離して」
「いいんですか、そんなこと言って」
「……え」
「そのスコアブック、わざわざ見つけて取り置きまでしておいてあげたのは、誰でしたっけ?」
「うっ……」
先輩の鞄に目配せをしながら言うと、先輩は怯んだようにうなった。
「あーあ、先輩が喜ぶと思ってわざわざネットで見つけて、取り置き可能なお店まで探してあげたのに。先輩が喜ぶと思って」
「だ、だから、お礼はするって言ってるでしょ」
「だから、お礼はこれでいいんですよ」
そう言って握る手に力を込めてみると、先輩は観念したように俯いた。
「……誰か見てるかもしれないのに」
「誰も見ちゃいませんし、それに、別に見られたっていいじゃないですか。減るもんじゃなし」
「……あんただって困るでしょ」
「私は困りません」
むしろ私たちの関係が噂になって、先輩に言い寄る輩共がいなくなるのならその方がいいまである――と私は思うのだけど、それは言わないでおく。
先輩曰く、昔――彼女がまだ小学生だった頃――同級生の女の子が好きということが周りに伝わってしまったことがあって、相手に迷惑をかけたと、だから無用なトラブルは避けたいのだという。
まあ、その話を私に打ち明けてくれたときのその表情に免じて、人目があるところでの恋人らしい振る舞いはなるべく避けてきたわけだけど、正直私は面白くない。
私以外の誰かを好きだった先輩がいるのも面白くないし、その同級生とやらがそれ以来、先輩のことを避けるようになったっていうのも、面白くない。
仕方がないんだけどね――と、諦めたように話す先輩の苦笑い。
私ならそんな顔させないのに、と思う。
「……」
「……あの、痛いんだけど」
「先輩、好きですよ」
「……ちょっと、いきなりそういうこと」
「……」
「……わかったから、私も好きだから」
「えへへ、よかった」
「もう……」
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