いけないと言われると

きつね月

第1話 放課後の部室にて


 やっちゃいけないと言われると、やってみたくなることがある。

 こんなことしたらきっと怒られちゃうんだろうなー、と思いつつ、止められないこと。


 例えばこんな放課後、軽音楽部の休憩中。


 目の前には夏服に衣替えしたばかりの、お行儀悪くもあぐらをかいて座る相澤あいざわ先輩の後ろ姿。

 先輩はその長い髪を気分次第でよく変える。今日はどうやらポニーテールの気分らしい。見覚えのある小さなお花の髪飾りは、いつか私が誕生日にプレゼントしたものだ。


「……」


 やっちゃいけないと言われると、やってみたくなることがある。

 例えば、その……


「えい」

「……いたっ」


 そのポニーテールの穂先をそっと掴んできゅっと引っ張ると、先輩は柄にもなく可愛らしい悲鳴をあげてしまった。それを聞いた私は思わず笑顔になる。


「……」

「……あれ?」


 先輩が凄い形相でこちらを振り返ってくる。

 思ったよりも怒っているらしい。

 しかし美人の怒り顔というものにこんな迫力があるのは、それがそれだけ魅力的ってことだろう……


「あ痛っ!」

「あんたねえ……そういうのやめてって、いつも言ってるでしょ」

「痛い痛いっ、折れる、お、折れちゃいますよ?」

「折れろ」

「あぎゃあっ!」



★★★



「おー、痛てて。まったく、どこで間接技なんか……」

「……」

「あー、痛いなー」

「あんたが悪い」

「えー」

「えー、じゃない」

「でもまあいいや、先輩の悲鳴可愛かったし……」

「……」

「痛い痛い痛い!」



 とまあ、私と先輩の毎日は、だいたいこんな感じなのだ。


 

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