第31話 鍵

 先に声を上げたのはニッタだった。


「いやいや、どっかの鍵って、じゃあミヤモトミヤ先生が襲われたのはなんでなんっすか?」


「あれはこの石の箱を守る装置だな。フェイクだって言ったろ。中の玉が聖石だと思って奪われても箱は守られる。箱ごと盗まれても盗んだやつは中身が本物だと思ったら取り出すだろ? ミヤモトミヤ、お前、爺さんになんか聞いてないか?」


「何か、とおっしゃられても見当もつきません」


「だよなあ。んー、どうしよ? ニッタ、どう思う?」


「そんなの分かるわけないじゃないっすか」


「うん、まあそうだよな。それじゃあとりあえず、失踪したじいちゃんが大事にしてた場所とか通ってた場所とかなかったか?」


「祖父が大切していた場所でしたら帝都大学の考古学研究……」


 そこまで言うとミヤモトミヤはハッとして 自分の鞄の中から古びたノートを取り出す。


 ハルキがノートを受け取り中を開くと、そこには手書きの文字で様々な事が書き込まれている。


 ミヤモトミヤの祖父は考古学者であり、聖石の研究をしていた。


 聖石は持ち主を選ぶと言われている。聖石は特定の人物を選んでいるのではないか、そして聖石が選んだ人間に聖石の力の一部が宿るのではないかという研究内容。


 ハルキはそのページを読みながら考え込む。


(ここまで研究を進めてたのか。まあニッタの状況見たらそうなんだろうけどなあ。しっかし聖石がない状態でよくここまで、って待てよ?)


「ところでさ、お前のじいちゃん、なんで失踪しちゃったの?」

 ハルキが突然尋ねる。


「わかりません。祖父はとても熱心な研究家でした。その祖父が研究を途中で投げ出して失踪するとは思えないのです」


「失踪当時の状況は?」


「はい、祖父は聖石の研究を行っておりましたので捜査は帝国国防省刑事捜査機関が行って下さいました。ここも帝都の自宅も、研究室も調べたようですが事件性はないとの結論でした」


「そうか。んで、残ったのがこのニセモノの聖石って訳か」


「はい。この聖石とノートが唯一私に残されました。両親は私が幼いころ事故で亡くなり私は祖父に育てられました。その祖父が私を置いて失踪するとも思えないのです」


「そっか。そんでお前、聖石の研究を続けてんのか。ごめんな、辛い事を思い出させたな」


 ハルキとミヤモトミヤが話している間にニッタが口を挟む。


「んー? わかんないっすけど。とりあえずおじいちゃんが最後に調べてた場所とかって分かってるんっすか?」


「あ、はい。祖父は帝都で長年生活をしていました。失踪前は確かグコーレム教会に行っていたと思います。あの頃よく私に聖石と教会との関係について話してくれていましたし」


「グコーレム教会ってオルドゥアズ教の教会の事っすよね?」


「はい。ただ、帝国国防省刑事捜査機関にもその事はお伝えしましたし調べられたとは思うのですが」


「そうか。ま、あいつらが教会の内部まできちんと調べてるとは思えねえな。んじゃあまあ帝都に戻って調べるか」


「そうっすね」


「え? 帝都で調べて頂けるんですか?」


「ああ、じいちゃんが失踪したこともなんか関係があるかもしんねえしな」


「でしたら! でしたら私も帝都に連れて行ってください!」


「いやまあそりゃあ構わないけど、すぐに教会内部のことを調べられるかどうかわかんねえぞ」


「そうっすよ。帝都の教会は結構お堅いっすから、時間かかると思いますよ?」


「それでもっ、それでも私は祖父の足どりを追ってみたいのです!」


 ミヤモトミヤは真剣な眼差しでハルキを見つめる。


「仕方ねえなあ。まあ帝都には家もあるんだろ? いいんじゃねえか」


「あ、ありがとうございます! すぐに支度をしますのでしばらくお待ちください!」


 こうしてハルキとニッタはミヤモトミヤと共に帝都に向かう事になった。

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