第25話 聖剣トーニセルーン
その光の箱をハルキは両手に抱える。
「どういうことか説明してくれます? ハルキさん」
「ああ、イッコか。ちょっと待ってな。もうすぐだ」
言い終える前にニッタが怒りの表情でハルキに駆け寄ってくる。
「ハルキさん! 俺をゴーストの口に投げたっすよね?!」
「そうか? そうだったか?」
あくまでもしらを切るハルキにニッタはたたみかける。
「投げる前にごめんって言ったっすよね?」
「言ったかなあ。覚えてないや」
その言葉を聞いたニッタはこれ以上話しても無駄だと悟ったのか、
「酷いっすよぉ。マジで死ぬかと思ったっすよぉ」
騒いでいる二人にイッコとホリが近づき話しかける。
「ニッタさん、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「無茶しすぎだぞ、ハルキ」
その言葉を効いた二人はまったく逆の反応を示した。
「やっぱイッコさんは優しいっすねえ。ハルキさんとは大違いっす」
「仕方ないだろ、ああするしかなかったんだから。あ、そうだ。その箱な、お前が開けろ」
「へ? オレっすか?」
「うん。なんかお前が開けた方がいい気がしてさ」
ハルキの言葉を聞いたニッタは少し考えてから、いぶかしそうにハルキをにらみ尋ねる。
「ハルキさん、またオレを騙くらかそうと思ってないっすか?」
「お前はほんと失礼だね。俺がいつお前を騙くらかしたんだよ」
その言葉を聞いて反応したのはイッコだった。
「ハルキさん、本気で言っているなら私があなたをイレイスしますよ」
「なんなら俺がやってやろうか?」
イッコとホリがそれぞれ武器を構えながら言う。
「わかったわかった、悪かった。んじゃあ開けてみろ、ニッタ」
「はーーいっと。んじゃいくっすよ~。ふぬうぅぅ!」
ニッタは両手に力を入れる。
「ぐっ…… ぬっ! んんんんんん!!!」
悪戦苦闘を続けるニッタを見ながらイッコとホリが話しかける。
「結局、彼はいったい何者なの?」
「だから言ったろ、あいつは魔法を増幅させるんだって。俺があいつと出会ったのは、あいつがまだ五歳にもならないくらいの時だったんだけどな。親もなし、親類もなし、金もなし。何にも持ってなくてな。しかもあいつの近くで特定の条件が揃った魔法放つと増幅されちまうからさ、火事やらなんやらで大騒ぎ。んで、あいつは化け物扱いされててな。原因はわからないけどこいつがいるところでそんな騒ぎが起こる。そりゃ周りの奴らは気持ち悪いわな。しかも本人の記憶がなくなるだろ。だから本人はなんも覚えてないし悪気もない。子どもには酷な話だな」
「それでハルキさんが引き取って?」
「まあそんなところだ。ただ俺もまだ若かったからな、実際には俺が育った孤児院に預けてたんだけどな」
ハルキは淡々と語る。
「なぜ国に報告しないのです?」
「できるわけないだろ、そんなこと。あいつは俺の家族だぞ。国になんか渡してたまるかよ」
「し、しかしこの件は国に報告すべき案件は」
イッコが話そうとするのをホリが制止する。
「ま、お前らにはお前らの仕事があるだろうからな。報告ないでくれとは頼めねえけどよ。まあ、ただ」
ハルキが歩き始め、国があいつを手に入れようってんなら俺は国と戦うぞ、とニッタの元に向かう。
「はぁ。仕方ないわね。貸し一つよ」
イッコが言う。
「バカ言うな、今までこっちはいくつ貸してると思ってんだ!」
と叫んだ後、ありがとなと小さくつぶやいた。
三人はしばらく無言でニッタが箱を開けようとしている姿を見守っていた。
ハルキは視線をイッコに移すと、
「んじゃあ礼に一つ教えてやるよ。あの箱の中身な。あれ、たぶん消えた聖剣だぞ」
「「ええ?!」」
「多分な。ほら、ニッタ! あとちょっとで開くぞ。がんばれっ!!」
そう言うと
「おおおお!! やったっす!」
ニッタが勢いよく箱を開ける。
中から光が溢れ出すと光の欠片が徐々に消えていき、そこには一太刀の短剣が光っていた。
「なんで?! どうしてこんなことになってるんです!?」
イッコとホリは光り輝く短剣を前に驚きの表情を隠せない。
この剣は、以前モートンの街でイレイスされたあと空に消えていった聖剣トーニセルーンに間違いなかった。
「一旦イレイスには成功したんだろうけどな。呪いの残滓がまだ力を持ってたんだろ。聖剣の力と呪いの残滓、んで今日はセントレイスデイのイブ。よっぽどひどい呪いだったんだろうな、イブじゃなきゃ倒せたかどうかわかんなかったなあ」
「そっかあ、なんかわかんないっすけど、これで解決っすね! よかったよかった!」
冷静に話すハルキの横でニッタははしゃいで言う。
「ハルキさん、これって?」
イッコが不安そうに言う。
「ああ、まあ持ち主はニッタって事になるだろうなあ。聖剣に選ばれちゃってるしな」
ハルキはにやりと笑みを浮かべながらイッコを見る。
「ど、どど、どうするつもりなんですっ?!」
「この聖剣はどこかに飛んで行って行方不明だろうが。そのままほっときゃいいんじゃねえか?」
「えっ? いや、そんな事! 私には報告する義務が」
イッコは焦りながらハルキに詰め寄る。
「仕方ないだろ。それとも何か? 俺らと国とで戦争すんのか?」
「いえ、そ、それは困りますけど。でも、これをどうするんです?」
「大丈夫だって、お前らが言わなきゃバレないしさ。こっちはこっちでなんとかするし」
「なんとかって?」
そんなイッコの動揺を楽しむようにハルキが叫ぶ。
「おいニッタ! その剣な、イッコがセントレイスデイのプレゼントにお前にやるってさ」
「おおおう! マジっすか?! やったあ! すげえっす! ありがとうございます! イッコさん!!」
「な、これで解決だよ。あいつは伝説の聖剣なんて持ってない。セントレイスデイのプレゼントにお前らに短剣をもらっただけ。これで万事解決。はい、イレイス完了!」
ハルキは胸を張る。
ニッタは大喜びしている。
イッコとホリは呆れている。
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