第23話 国家情報保安局
街の広場はいつもより人が多く賑わっていた。大ツリーを中心にして屋台が立ち並び、家族連れやカップルなどで溢れかえり皆思い思いに楽しんでいるようだ。
ツリーの根元には騎士団の紋章の入った旗や、昔話の英雄たちの似顔絵などが飾られ、沢山の人がいてみんなツリーを見上げて楽しんでいる。
「なんにもねえじゃねえか、もう帰ろうぜ」
ハルキが面白くなさそうに言う。
「ちょっと待って下さいよ。せっかく来たんですから少し見てから帰りましょうよお?」
「なんでだよ、ゴーストは夜中に出るんだろ、見たってしょうがないだろうが。なんでこんな時間から出張ってなきゃいけないんだよ」
「それはそうっすけど。噂だと騎士や女のゴーストがツリーの横に現れるって。だから今年はみんな照明が消えてからも随分残ってるんですって」
「なにが楽しいんだよ、そんなもん。あーあ、腹減ったなあ。おいニッタ。なんか買ってきて」
「え? 今っすか?」
「十秒な、はい十! 九!」
「はーーーい!」
少し嬉しそうに急いで走り出すニッタの背中を見送っていると、
(ん? あれは?)
ハルキが見つめる先には赤いとんがり帽子に上下赤い服を着た眼鏡の女性とスキンヘッドに赤い帽子にサングラス、赤いタンクトップに赤いズボンの男の姿を確認する。
(はぁ、あいつら何やってんだ)
見なかったことにしてその場を立ち去ろうとすると、男女もハルキに気が付き近づいて来た。
「あら、こんなところにお一人で?」
「いや仕事だよ、仕事。てかお前らそんな格好で何やってんだよ」
「あら、私たちはセントレイスデイを楽しみに来たんですよ」
「ってか、ホリさん。その格好はずかしく……」
「言うな」
と、イッコの横でボソリと話すホリ。
この二人、実は国家情報保安局の職員である。
イッコとホリがここにいるという事はやはりゴーストは「憑き者」なのかもしれない。
ハルキがそんな事を考えているとイッコが話しかけてきた。
「ま、今お一人ならちょうどよかったです。バグトンで見た彼のあの光は何なのです?」
やはり二人はバクトンでの出来事を問題視しているようだ。
「あー、ちょっと説明しづらいんだわ。その件、国家情報保安局には?」
「まだ詳しい事が分かりませんので上にはあげていません。きちんとお話を伺ってからのほうが良いと判断しました」
「そっか。ニッタが戻るまでに話せる自信がないからまた今度ゆっくり話すけど、あいつ、ニッタな。魔法を増幅させちまう体質なんだわ」
「は?!」
「特定の魔法をあいつの身体に通すと増幅して放出するんだ。だけどあいつ自身には傷もつかない。んで、その間の記憶は無くしてる」
ハルキの説明を聞いたイッコはあきれた顔で両手を上げる。
「そんなバカな話を信じろと?」
「信じる信じないは勝手だけどな。あ、本人はそのこと知らないから、よろしく」
「え? 知らないんですか? いや、でも、それではまるで……」
「ん? なんか知ってんのか?」
「い、いえ、なんでもありません。納得はいきませんがとりあえず了解しました。いずれじっくりとお話を聞かせてもらいます」
「へいへい。んで? お前らもゴースト関係か?」
「何のことでしょう? 私はただセントレイスデイを楽しみに来ただけですよ」
「へー、そう。んじゃまあ、俺たちも楽しませてもらうわ」
そんなやり取りをしていると、屋台の食べ物を持ったニッタが戻る。
「お待たせしたっすー。ってあれ、イッコさん? ホリさんも。ハルキさーん、買ってきましたよ。あ、いっぱい買ってきたんで、はい、これ、どうぞ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
そして四人は空いているベンチに座って食べ始める。
「そう言えばセントレイスデイってなんなんすか?」
「「「え?」」」
ニッタは不思議そうな顔でみんなを見る。
「あなたセントレイスデイの由来を知らないの?」
「知らないっすねえ。有名なんすか?」
三人は顔を見合わせるとため息をつき、ニッタは首を傾げて三人の様子を見ている。
ハルキとホリが食べ物を食べ続けている様子を見て、イッコはもう一度大きなため息をつき説明を始める。
昔、国の危機に英雄が現れ、騎士たちと共に神々と戦った。
その戦いで多くの仲間を失った王と仲間たちがレイス領に戻ると王の恋人がレイス領を守るために戦い亡くなっていた。
その後も激しい戦いが続いたが、全ての戦いが終わり、レイス領戦場に一本だけ残った大きなもみの木に仲間や家族、恋人のために騎士たちが剣を突き刺し慰霊を行う風習が生まれた。
王はその風習を聞き、自らも恋人の短剣をもみの木に突き刺した。
そこに恋人が女神となって現れ
『悲しみを乗り越えて。姿は見えなくてもあなたをずっと見守っています』
と言い、木に刺さった剣が集まり新しい聖剣ができ、その聖剣を携えた王は剣の力で国を導いた。
人々はその事を喜び、その日は聖なる日として祀り、女性や王、騎士などの亡霊が現れる日と言い伝えられるようになった。
というのがセントレイスデイの由来ですけれど、とイッコが説明を終えるとニッタは感心したようにうなずく。
それを見ていたイッコとホリはまたため息をついた。
ハルキはあきれたようにニッタを睨むが、ふと気になりツリーの方を見ると、そこには一人のフードを被った男が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます